先日、ロシアのサハリン州(樺太)北東部沿岸で開発されている資源プロジェクト「サハリン2」の運営会社の資産を、ロシアが設立した新会社に移管する大統領令にプーチン大統領が署名したというニュースが伝えられました。すると、当地での日本の天然ガスの権益が失われ、供給もままなくなるとして、日本でもセンセーショナルに報道されたのでした。
現在の運営会社の株は、ロシアの国営天然ガス企業・ガスプロムが50%、イギリスの石油大手シェルが27.5%、日本の三井物産が12.5%、三菱商事が10%を保有していますが、それがごっそり新会社に無償譲渡されることになるのです。文字通り火事場泥棒の所業とも言えますが、戦争当事国としてはあり得ない話ではないし、予想できない話ではなかったはずです。
「サハリン2」で生産される液化天然ガス(LNG)の60%は日本向けで、日本はLNGの輸入の8.8%(2021年)をロシアに依存しており、その大部分が「サハリン2」だそうです。
もちろん、岸田首相が日本の首相として初めてNATO首脳会談に参加して、「ウクライナは明日の東アジア」などと述べ、アジア太平洋地域とNATOとの連携の強化を呼びかけたことなどに対する意趣返しであるのはあきらかでしょう。
日本は、G7のロシア産の石炭や石油の段階的な禁輸の方針には足並みを揃えることを表明していますが、LNGに関しては代替の調達が難しいという理由で制裁から除外していたのです。ロシアは、そんな都合のいい態度をとる日本の足元を衝いて来たとも言えるのです。
しかし、誤解を怖れずに言えば、ロシアは決して孤立しているわけではありません。アメリカのシンクタンクの集計でも、ロシア非難に加わらなかった国の人口を合わせると41億人で、世界の人口77億人の53%になるそうです。つまり、G7やNATOの制裁に同調する国は、世界の人口の半分にも満たないのです。特にG7に対抗する新興国のBRICS (ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)が運営する新開発銀行(本部は上海市)には、既にUAE(アラブ首長国連邦)・ウルグアイ・バングラデシュが新規に加盟しており、BRICSを中心にドル離れも進んでいます。
それどころか、肝心なアメリカ国民にも、ロシアとの”経済戦争”に冷めた見方をする人たちが多くなっていると言われています。アメリカも一枚岩ではないのです。
コロンビア大学のShang-Jin Wei教授(金融学・経済学)も、『Newweek』(7/5号)のコラムで、「 彼ら(引用者:アメリカ国民)の多くは、エネルギー価格高騰の全ての責任がロシアのプーチン大統領にあるとするバイデンの主張に賛同していない」(「アメリカの原油高を止める秘策」)と書いていました。
アメリカのガソリン価格は、現在、1ガロン55ドルくらいだそうですが、これを1ガロン=3.78リットル、1ドル=135円で換算すると、1リットル178円です。アメリカのガソリンは水みたいに安いと言われたのも今は昔で、日本とほぼ変わらないのです。2022年5月の価格は、昨年同月比の75%増だったそうです。
アメリカは2017年以降、世界の産油国の中でトップを占めるくらい輸出を行っており、原油(シェールガス)の埋蔵量も豊富です。世界最大の原油消費国であるとともに、原油輸出国でもあるのです。だったら、この原油高なのですから、アメリカ経済にもっとうるおいをもたらしてもいいはずです。しかし、アメリカの一般市民は、恩恵に浴してないどころか、逆に値上げに苦しんでいるのでした。
そこには資本主義のしくみが関係しています。原油高の利益が貪欲な石油会社とその株主、つまり資本に独占されているからです。しかも、彼らにとって、国内の消費者も収奪の対象でしかないのです。
アメリカは40年ぶりと言われる猛烈なインフレに見舞われ、アメリカ経済は疲弊しています。それが、FRBが25年ぶりに、政策金利を通常の3倍の0.75%という大幅な利上げに踏み切った背景です。もちろん、金利が上がれば経済成長は鈍化しますが、それよりインフレを抑える方に舵を切ったのです。それくらいインフレが深刻なのです。
アメリカにかつてのような超大国としての”余裕”はもうないのです。今秋(11月)の中間選挙次第では、バイデン政権が進めるウクライナ支援にも、ブレーキがかかる可能性があるかもしれません。アメリカの世論は、ウクライナ支援より自分たちの生活が大事という内向き志向になっているのは間違いありません。もはや「世界の警察官」としての自負もなくなっているのです。
「協調を忘れた世界」のツケが先進国の人間の消費を享受する便利で豊かな生活を直撃する、私たちはその危うい現実を突き付けられたと言っていいでしょう。まして、資源小国の日本が資源大国に歩調を合わせて「協調を忘れた世界」の論理に与すると、「サハリン2」のようなどえらいシッペ返しを受けるのは当然でしょう。良いか悪いかではなく、それが世界の現実なのです。それでもやせ我慢して、(本音では誰も戦場に行きたくないのに)軍事増強に突き進み、犬の遠吠えみたいな対決姿勢を鮮明にするのか。勇ましい言葉に流されるのではなく、今一度虚心坦懐に冷静に考える必要があるでしょう。
現在の運営会社の株は、ロシアの国営天然ガス企業・ガスプロムが50%、イギリスの石油大手シェルが27.5%、日本の三井物産が12.5%、三菱商事が10%を保有していますが、それがごっそり新会社に無償譲渡されることになるのです。文字通り火事場泥棒の所業とも言えますが、戦争当事国としてはあり得ない話ではないし、予想できない話ではなかったはずです。
「サハリン2」で生産される液化天然ガス(LNG)の60%は日本向けで、日本はLNGの輸入の8.8%(2021年)をロシアに依存しており、その大部分が「サハリン2」だそうです。
もちろん、岸田首相が日本の首相として初めてNATO首脳会談に参加して、「ウクライナは明日の東アジア」などと述べ、アジア太平洋地域とNATOとの連携の強化を呼びかけたことなどに対する意趣返しであるのはあきらかでしょう。
日本は、G7のロシア産の石炭や石油の段階的な禁輸の方針には足並みを揃えることを表明していますが、LNGに関しては代替の調達が難しいという理由で制裁から除外していたのです。ロシアは、そんな都合のいい態度をとる日本の足元を衝いて来たとも言えるのです。
しかし、誤解を怖れずに言えば、ロシアは決して孤立しているわけではありません。アメリカのシンクタンクの集計でも、ロシア非難に加わらなかった国の人口を合わせると41億人で、世界の人口77億人の53%になるそうです。つまり、G7やNATOの制裁に同調する国は、世界の人口の半分にも満たないのです。特にG7に対抗する新興国のBRICS (ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)が運営する新開発銀行(本部は上海市)には、既にUAE(アラブ首長国連邦)・ウルグアイ・バングラデシュが新規に加盟しており、BRICSを中心にドル離れも進んでいます。
それどころか、肝心なアメリカ国民にも、ロシアとの”経済戦争”に冷めた見方をする人たちが多くなっていると言われています。アメリカも一枚岩ではないのです。
コロンビア大学のShang-Jin Wei教授(金融学・経済学)も、『Newweek』(7/5号)のコラムで、「 彼ら(引用者:アメリカ国民)の多くは、エネルギー価格高騰の全ての責任がロシアのプーチン大統領にあるとするバイデンの主張に賛同していない」(「アメリカの原油高を止める秘策」)と書いていました。
アメリカのガソリン価格は、現在、1ガロン55ドルくらいだそうですが、これを1ガロン=3.78リットル、1ドル=135円で換算すると、1リットル178円です。アメリカのガソリンは水みたいに安いと言われたのも今は昔で、日本とほぼ変わらないのです。2022年5月の価格は、昨年同月比の75%増だったそうです。
アメリカは2017年以降、世界の産油国の中でトップを占めるくらい輸出を行っており、原油(シェールガス)の埋蔵量も豊富です。世界最大の原油消費国であるとともに、原油輸出国でもあるのです。だったら、この原油高なのですから、アメリカ経済にもっとうるおいをもたらしてもいいはずです。しかし、アメリカの一般市民は、恩恵に浴してないどころか、逆に値上げに苦しんでいるのでした。
そこには資本主義のしくみが関係しています。原油高の利益が貪欲な石油会社とその株主、つまり資本に独占されているからです。しかも、彼らにとって、国内の消費者も収奪の対象でしかないのです。
アメリカは40年ぶりと言われる猛烈なインフレに見舞われ、アメリカ経済は疲弊しています。それが、FRBが25年ぶりに、政策金利を通常の3倍の0.75%という大幅な利上げに踏み切った背景です。もちろん、金利が上がれば経済成長は鈍化しますが、それよりインフレを抑える方に舵を切ったのです。それくらいインフレが深刻なのです。
アメリカにかつてのような超大国としての”余裕”はもうないのです。今秋(11月)の中間選挙次第では、バイデン政権が進めるウクライナ支援にも、ブレーキがかかる可能性があるかもしれません。アメリカの世論は、ウクライナ支援より自分たちの生活が大事という内向き志向になっているのは間違いありません。もはや「世界の警察官」としての自負もなくなっているのです。
「協調を忘れた世界」のツケが先進国の人間の消費を享受する便利で豊かな生活を直撃する、私たちはその危うい現実を突き付けられたと言っていいでしょう。まして、資源小国の日本が資源大国に歩調を合わせて「協調を忘れた世界」の論理に与すると、「サハリン2」のようなどえらいシッペ返しを受けるのは当然でしょう。良いか悪いかではなく、それが世界の現実なのです。それでもやせ我慢して、(本音では誰も戦場に行きたくないのに)軍事増強に突き進み、犬の遠吠えみたいな対決姿勢を鮮明にするのか。勇ましい言葉に流されるのではなく、今一度虚心坦懐に冷静に考える必要があるでしょう。