私は、石原慎太郎と安倍晋三とビートたけし(北野たけし)が大嫌いですが、昨日、突然舞い込んできた安倍晋三元首相殺害のニュースには、びっくり仰天しました。

昼寝をしていてふと目を覚ましたら、点けっぱなしになっていたテレビから、奈良市内で参院選の応援演説していた安倍元首相が銃撃され、心肺停止になっているというニュースが目に入り、飛び起きてしまいました。

犯人は同じ奈良市内に住む41歳の元海上自衛隊員だそうで、しかも使われた銃が、鉄パイプに黒いビニールテープを巻いた手製だったというのにも驚きました。

夜になると、テレビ東京を除く東京のキー局は通常の番組を取りやめて、いっせいに安倍氏死去の報道特別番組をやっていました。出演するアナウンサーなどは黒い喪服のようなものを着て、沈痛な表情で事件の経緯や安倍氏の政治的な功績を伝えていました。

それは既存メディアだけではありません。ネットでも、「民主主義に対する挑戦だ」と既存メディアと同じセリフで今回の犯行を非難しているのでした。そして、いつの間にか、下手なことを言えば「不謹慎だ」として炎上しかねないような空気に覆われていたのでした。ホリエモンに至っては、日頃の”マスゴミ批判”はどこへやら、Twitterで「反省すべきはネット上に無数にいたアベカー達だよな。そいつらに犯人は洗脳されてたようなもんだ」などとトンチンカンなネット批判をする始末でした。

警察発表によれば、犯人は、政治信条とは関係なく、家族をメチャクチャにした宗教団体と関係がある元首相に恨みを持ち殺意を募らせた、と供述しているそうです。だとすれば、政治テロと言うには無理があるように思いますが、ただ、ジャーナリストの一部には、あの用意周到さと冷静沈着さと捨て身の覚悟に、政治テロの可能性も捨てきれないという見方も残っているようです。

たしかに、これほどの重大事件なのですから、情報が厳重に管理されているのは間違いないでしょう。昭恵夫人が病院に到着して数分後に亡くなったというのも、到着まで死亡確認を待っていたのかもしれません。

一方で、犯人の人生を考えると、あそこまで殺意をエスカレートした裏に、やはり”上と下の問題”があるように思えてなりません。元海上自衛隊員と言っても20代前半の3年間だけで、最近は家賃38000円のワンルームマンションにひとりで暮らし、派遣の仕事で生活を支えていたそうです。職場の人たちも、大人しくて孤独な印象だった、と口を揃えて証言しているのでした。

大物政治家の家系に生まれて上げ膳据え膳で大切に育てられ、おせいじにも優秀だったとは言えないボンボンだったにもかかわらず、周りが敷いたレールに乗って、とうとう総理大臣にまで上り詰めた元首相。父親の死をきっかけに母親が統一教会に入信して経済的に破綻した末に、家族の関係も崩壊して大学進学も断念し、人生設計をくるわされた犯人(この記事のあとにアップされた文春オンラインには、実兄が病気を苦に自殺、本人も海上自衛隊時代に自殺未遂したと書かれていました)。そんな二人を対比すると、私には不条理という言葉しか浮かびません。文字通りこの世に神はいないのかと思ってしまいます。

ちなみに、事件の発端になった統一教会(現在は「世界平和統一家庭連合」と改名)は、霊感商法と合同結婚式で知られた韓国に本部があるカルト宗教で、安倍元首相が同会と深い関係があるのは衆知の事実でした。昨年の系列団体のイベントでもリモートで挨拶しているくらいです。犯人が元首相を逆恨みしたのも故なきことではないのです。

事件直後、ひろゆきは下記のように、今まで蔑ろにされ社会から疎外された人たちの多くは自殺を選んできたけど、これからは「他殺」を選ぶ人間も出てくるのではないか、とツイートしていましたが、ホリエモンなどに比べれば的を射た発言のように思いました。


さらに話を飛躍させれば、社会から疎外された人たちの声を代弁する「下」の政治(政党)が不在な中で、今回の犯人も含めて彼らは、政治的イデオロギーとは別の回路でこの社会の矛盾や不条理に突き当ったとも言えるのです。その結果として、個人的なテロがあるのではないか。

誤解を怖れずに言えば、フランスをはじめヨーロッパでは「下」の政治を極右や急進左派が担っているのですが、日本ではカルト宗教がその代わりを担っていると言えなくもないのです。もちろん、それは餌食にされているという意味です。参院選の応援演説の場で犯行が行われたのも、まったく機能していない政治に対する「下」からのメッセージのようにも私には思えました。

これだけ監視カメラが街中に設置され徹底した監視が行われていても、「暴力は民主主義の敵だ」というような「話せばわかる」民主主義の幻想が振り撒かれても、死や逮捕を覚悟した個人的なテロを防ぐことはできないように思います。「ロンリーウルフ型テロ」という言葉があるそうですが、まさかと思うような人間が政治的イデオロギーとは関係なくテロを実行するような時代になっているのです。今回の事件も特殊な例だとはとても思えません。


※「宗教団体」を実名に直しました。
※内容を一部書き直しました。


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