私は山に着て行く服はパタゴニアが多く、特にこの季節はズボンもTシャツもパタゴニアです。雨具もパタゴニアです。ザックは、大小ともにパタゴニアのものを使っています。このようにいつの間にか”歩くパタゴニア”みたいになっているのでした。

パタゴニアの商品は少し値段が張りますが、パタゴニアを使っていると環境にやさしいことをしているみたいな気分になるので、”気分料”みたいなものだと割り切って買っています(ホントは大きなサイズが揃っているからですが)。山に登るなら環境のことを考えなければならない。そういった強迫観念みたいなものがありますが、そこをパタゴニアにうまく突かれているような気がしないでもありません。もっとも最近は、外国のアウトドアメーカーはどこもリサイクル素材を使ったりと、環境に配慮するのがトレンドになっています。

パタゴニアの製品自体は特に優れていると思ったことはありません。逆にちゃちなと思うことすらあります。

先の参院選に際して、パタゴニアの公式サイトに掲げられた次のような呼びかけも、他のメーカーのサイトではなかなかお目にかかれないものでしょう。

パタゴニア(Patagonia)
VOTE OUR PLANET

私たち人間は、健全な地球とそれを基盤とした社会がなければ生きられません。
近年顕著な気候危機とともに、私たちは人間、動物、生態系の健康がつながっていること、地球の生物多様性の破壊や生態系の損失は、経済にも大きな影響を与えることを知りました。

私たちには、自然に根差した解決策をもって、社会構造を大胆かつ公正に変化させようとするリーダーが必要です。

政治に関心がなくとも、関係なくはいられません。
私たちそれぞれにとって大切な何かとともに生きるために、行動しましょう。


そんな意識高い系から支持されているパタゴニアですが、一昨日の朝日に次のような記事が出ていました。

朝日新聞デジタル
「パタゴニア」パート社員ら労組結成 雇用「5年未満」見直し求める

それは、パタゴニアの店舗で働くパート社員や正社員ら4人が、「不更新条項」の撤廃を求めて労働組合を結成したという記事でした。2013年に改正された労働契約法では、非正規労働者が同じ会社で通算5年を超えて働いた場合、本人が希望すれば無期雇用に転換できるという「5年ルール」が設けられたのですが、それに対して「雇用期間を制限し、無期転換できないようにする『不更新条項』を設ける企業」もあり、パタゴニアも例外ではなかったのです。

アパレル業界では、ファストファッションの台頭によって、委託先の工場がある発展途上国では、低賃金・長時間労働・使い捨て雇用といった劣悪で過酷な労働環境が問題になっていますが、そんな中でパタゴニアはいち早くフェアトレードの方針を打ち出し、環境にやさしいだけでなく労働者にもやさしい会社のイメージを定着させたのでした。

ところが、足元の職場では法律のすき間を利用して労働者に不利な条項を設けるような、資本の論理をむき出しにした”普通の会社”であることが判明したのでした。

環境にやさしい、身体にやさしいというオーガニック信仰は、思想としてはきわめて脆弱で、手軽でハードルも低く、そのため、意識が高いことをアピールする芸能人などの間では、一種のファッションとして流通している面もあります。

しかも、ヨーロッパでは既に「エコファシズム」という言葉も生まれているように、そういった純潔なものを一途に求める思考は、ややもすればナチスばりの純血主義のような思考に行き着いてしまう危険性もあるのです。

古谷経衡氏は、Yahoo!ニュース(個人)で、今回の参院選の比例区で176万3429票を集めて1議席を獲得し、選挙区・比例区ともに得票率2%をクリアして政党要件を満たした参政党をルポしていましたが、その中で、参政党の躍進が意識高い系の人たちのオーガニック信仰に支えられていることを指摘していました。

Yahoo!ニュース個人
参政党とは何か?「オーガニック信仰」が生んだ異形の右派政党

参政党は、1.子どもの教育、2.食と健康・環境保全、3.国のまもりを三つの重点政策として掲げていますが、特に2と3が両翼の政党だと言われています。3を具体的に言えば、「天皇を中心とした国家」「外国資本による企業買収や土地買収が困難になる法律の制定」「外国人労働者の増加を抑制し、外国人参政権を認めない」というような多分に右派的な主張です。

しかし、古谷氏は、どちらかと言えば2が「主」で3は「従」みたいな関係にあると言っていました。

古谷氏は同党の街頭演説などに出向いて、数多くの「定点観測」をしたそうですが、その中で、中心メンバーのひとりである歯科医師の吉野敏明氏の次のような演説に、参政党が意識高い系の人たちに支持される秘密が隠されていると書いていました。

…悪性リンパ腫に限らずですよ、白血病とかでも限らず、普通のがん、骨肉腫もそうです。まず(甘いものを)やめなきゃいけない。

結局は甘いものは何もかもダメなんです。人工甘味料でもダメなんです。蜂蜜もだめなんです。(中略)これらのものに加えてもっと強い発がん物質である食品添加物。


セブンイレブンの何とかハンバーグって、和風ハンバーグとかってなるでしょ。(中略)ところが100g98円とかで売ってるわけ。ありえないでしょ。どうやったら安くなるんですか。

 それは、クズ肉を使うしかない。本来だったら廃棄処分にする。例えば死んだ豚とか。ね。あるいはそもそも全部内蔵取っちゃったあとの余ってる部分の、豚の顔とか牛の顔とか、或いは糞便が詰まってる普通使わない大腸とか。こういうとこを使うわけですよ。そういうのを使うと凄いにおいがします。食品添加物が臭いを消すんです。においを消したらハンバーグっぽい味にしなきゃならないから、合いびき肉だから、豚のエキスとか牛のエキスとか、食品添加物だからそれっぽい味を出すわけです。


一番いけないのはコンビニの弁当とかを、電子レンジでチーンってやって、みそ汁代わりにカップヌードルを飲んでるとかなんだか、中にコーディングしてるわけでしょ、毒の水をわざわざ毒性を強くして、電子レンジで化学反応を起こして食べてる。ていう人たちががんになってるの。もう全員って言っていい、もう。


もちろん、古谷氏も書いているように、どれも科学的根拠があるわけではなく、陰謀論というか都市伝説みたいなものです。それは、「日本版Qアノン」と言われた新型コロナウイルスについての主張も同様です。

しかも、国立ガンセンターなど専門機関が(すべて原因がわかっているのに)公表しないのは、日米合同委員会や国際金融資本による圧力や情報操作があるからだと主張するのでした。

古谷氏は、演説の中で唐突に日米合同委員会や国際金融資本の話が出て来ることについて、次のように書いていました。

(略)だがこれは何ら不自然ではない。

「混じりけのない純粋なる何か」をそのまま延長していくと、「日本は純血の日本民族だけが独占する、混じりけのない国民国家であるべきだ」という結論に行きつくのは当然の帰結だからだ。


このようにオーガニック信仰が持っている純潔主義が、(民族の)純血主義、そして国家主義へと架橋されるメカニズムを指摘しているのでした。

(略)熱心な参政党支持者の人々は、驚くほど政治的に無色であり、むしろ参政党支持以前には政治自体に関心がほとんどないような、政治的免疫が全く無いような人々が多い。でいて自然食品や有機野菜などを好んで摂取する、消費者意識の高い比較的富裕な中高年や、自分の子供に食の安全を提供しよう思っている女性層が、あまりにも、驚くほど多い。

 それまでヨガ教室に熱心に通い、自然食品を愛好し、個人経営の自然派喫茶店が行きつけである、とフェイスブックに書いていた人が、ある日突然、参政党のYouTubeに感化されシェア・投稿しだす。それまでインド等の南アジアを放浪し、自然の偉大さや神秘に触れる感動的な旅行記を寄稿していた人が、ある日突然、参政党のYouTubeに感化され…。このような事例は観測するだけで山のようにあるし、私の周辺にも極めて多い。


従来、「環境・エコロジー」は左派リベラルの専売特許でした。反戦や人権や多元主義とセットで論じられることが多かったのです。ただ一方で、『古事記』でも「倭は 国のまほろば たたなづく青垣 山籠れる 倭し麗し」と謳われているように、「環境・エコロジー」はもともと右派のテーマではないのかという声があったこともたしかです。参政党は、荒唐無稽でカルトな面はあるものの、初めてそれを前面に出して、有権者に認知された右派政党と言えなくもないのです。

私は、日本のトロッキズム運動の先駆者だった太田竜が、アイヌ解放論者から自然回帰を唱えるエコロジー主義者になり、さらにユダヤ陰謀論者から最後はウルトラ右翼の国粋主義者へと、めまぐるしく転向(?)していった話を思い出しましたが、今にして思えば彼の”超変身”も支離滅裂なことではなかったと言えるのかもしれません。

辺野古の基地建設反対運動をしていた女性に久し振りに会ったら、参政党の支持者になっていたのでびっくりしたという話がネットに出ていましたが、あり得ない話ではないように思います。

これは蛇足ですが、私たちは、政治のような”大状況”より日々の生活の”小状況”の方が大事です。それは当たり前すぎるくらい当たり前のことです。多くの人たちは、”大状況”なんてあまり関心もないでしょう。でも、カルトやそれと結びついた政治は、私たちの”小状況”の中に巧妙に入り込んできて、無知なのをいいことに彼らの”大状況”に誘導し引き込んでしまうのです。
2022.07.13 Wed l 社会・メディア l top ▲