先週、笹尾根に登った帰り、バスに乗っていると、檜原街道沿いの民家の軒先に「産廃施設建設反対」の幟が立っているのが目に入りました。それも幟はいたるところに立っているのでした。
それで帰ってネットで調べると、檜原村の人里(へんぼり)地区に産業廃棄物処理施設の建設計画が持ち上がっていることを知りました。人里も何度も行ったことのある、なじみ深い集落だったのでびっくりしました。
計画については、下記のYouTubeで経緯等詳細を知ることができます。
YouTube
SAVE HINOHARA 東京の水源地「檜原村」を大規模産廃焼却場から守れ!〜「顔の見えすぎる民主主義」から日本の未来を考える〜
建設を計画している会社は、既に地元の武蔵村山市で産廃処理施設を運営しているのですが、その処理能力は1日4.8トンだそうです。しかし、檜原村の人里に建設を計画している施設は1日96トンの処理能力なのだとか。武蔵村山の施設が老朽化したからというのが新施設計画の理由のようですが、何と前より20倍の処理能力を持つ施設を造ろうというのです。
今年の3月1日に、廃棄物処理法に基づいて「廃棄物処理施設設置許可」の申請が東京都に提出され受理されています。建設される場所は檜原村なのですが、申請の窓口は東京都で、諸々の手続きを経て最終的に許可するかどうかを決定するのも東京都知事なのです。
申請後、1ヶ月の申請書の告示期間や関係市町村長(この場合は檜原村の村長)の意見聴取や利害関係者の意見書提出の手続きは既に終えており、専門家からの意見聴取(専門家会議)が先週の27日からはじまっています。専門家会議が終われば、あとは欠格事由に該当してないかどうかの審査と許可するかどうかの都知事の最終判断が残っているだけです。
朝日新聞デジタル
「具体性欠く」業者へ指摘続々 檜原村の産廃施設計画で専門家会議
行政手続法と都条例により、申請から180日以内に結論を出すという決まりがあるそうで、今年の10月か11月までには最終的な結論が下されるのではないかと言われています。
檜原村は島嶼部を除いては東京都で唯一の村で、令和4年7月26日現在の人口は2,069人(1,137世帯)です。人口も、島嶼部を除いて東京都でもっとも少ない自治体です。しかも、昭和の大合併や平成の大合併はもちろん、この400年間どことも合併せずに、独自の歩みを続けている稀有な村でもあるのす。
檜原村のサイトには、次のように村が紹介されています。
檜原村
村の概要
東西に走っている尾根が笹尾根と浅間尾根です。その間を檜原街道が通っています。そして、その檜原街道に沿って流れているのが北秋川と南秋川です。秋川は多摩川の支流で、檜原村は文字通り「東京の水源地」なのです。
人里(へんぼり)は、檜原街道から北側の山の縁にかけて家が点在するのどかな山里の集落です。人里という地名について、『奥多摩風土記』(大舘勇吉著・有峰書店新社)では次のように書いていました。
浅間尾根の人里峠に至るには、最初に息も上がるような急坂を登らなければならないのですが、その急登に沿って家が建っているのでした。そして、突端の家の横から登山道に入りしばらく進むと、テレビの「ポツンと一軒家」で紹介された家があります。既に無人になっていますが、敷地内は自由に見学でき、庭の奥では400年前から出ているというとても美味しい湧き水を飲むことができました。
そんな集落の一角に、一日の処理能力が96トンという巨大な産廃施設が造られるのです。予定地を地図で見ると、先週笹尾根の笹ヶタワノ峰から下りた道の西側にあたり、笹ヶタワノ峰の隣の笛吹(うずしき)峠から下りて来る道の近くでした。
しかも、産廃施設ができると、ツキノワグマも生息するような森を持つ山に囲まれた焼却炉から、産廃を燃やす煙が24時間止むことなく吐き出されるのです。それは、想像するだけでも異様な光景です。それだけではありません。あの檜原街道を一日に70台の産廃を積んだトラックが行き交うようになるそうです。
業者は、2020年の11月に、産廃施設の予定地に隣接する場所に、村の木材産業協同組合などの協力を得てバイオチップ工場を造っているのですが、それは産廃施設を造るための”地ならし”だったのではないかと言われています。「SDGsは『大衆のアヘン』である」と言ったのは斎藤幸平ですが、ここでも「循環型社会」「エコサイクル」「地球(環境)に優しい」という言葉が、自然を収奪する資本の隠れ蓑に使われているのでした。
ダイオキシンをはじめ、水銀やカドミウムや鉛やヒ素など有害物質による周辺の環境への影響も懸念されます。ましてや村のサイトでも謳われているように、檜原村の大部分は秩父多摩甲斐国立公園の中にあり、檜原村は「国立公園の中の村」と言ってもいいくらいです。産廃処理施設の建設予定地も国立公園の中です。そんな村に24時間稼働の巨大産廃焼却施設を造るなど、どう考えてもとんでもない話と言わざるを得ません。
YouTubeの中でも、パネラーの宮台真司氏が北アルプスの雲ノ平山荘の小屋主の伊藤二朗氏の話をしていましたが、先の「登山道の整備と登山者の特権意識」という記事で触れたような、日本の国立公園が抱える自然保護の問題が、檜原村の産廃問題にも映し出されているように思えてなりません。また、下記の対談で語られている人と自然の関係というテーマとも無縁ではないように思います。
YouTube
宮台真司×伊藤二朗 -自然と社会を横断する二つの視点から
法律では最終的な決定権は小池百合子都知事にあるので、極端な話、可否は小池都知事の胸三寸みたいなところがあります。そのため、最後は(よりによって)あの小池百合子都知事に、「小池さん、許可しないでください」とお願いするしかないのです。それが今の民主主義のルールなのですが、何か割り切れないものを覚えてなりません。
業者も、人口が2000人で村会議員も9人しかいない小さな村なので、御しやすいと思ったのは間違いないでしょう。宮台真司氏は、過疎地は有力者のネットワークですべてが決まるので、民主主義をコントロールしやすいと言っていましたが、業者はまさにそういった地縁・血縁に縛られた日本の田舎の”弱点”を衝いてきたとも言えます。
しかし、建設予定地区の住民や村の若い後継者や移住者などが中心になり、勉強会を開いたり、ネットを利用して計画のことを村の内外に発信したり、村の歴史上画期的とも言える反対デモを行ったりして、「とんでもないことが進んでいる」「あきらめるのはまだ早い」ということを訴えてきたのです。その結果、村議会における全会一致の反対決議や村民の3人に2人が反対署名するという、村挙げての反対運動に発展したのでした。檜原街道沿いの民家の軒先に掲げられた幟もそのひとつなのでしょう。
そんな反対運動を通して、YouTubeのトークイベントのタイトルにもあるように、誰もが顔見知りであるような小さな村の利を逆に生かした、「顔の見えすぎる民主主義」なる住民自治を模索する試みもはじまっています。小さな村の人々が思考停止を拒否しているのです。
檜原村の問題は、檜原村に通うハイカーにとっても、自然保護を考える人たちにとっても、日本の国立公園のあり方を考える上でも、見て見ぬふりのできない問題だと言えるでしょう。
関連サイト:
Change.org※ネット署名
東京都の水源地「檜原村」に、産業廃棄物焼却場を建設しないでください!
Twitter
檜原村に産廃焼却場を建設しないでください
facebook
檜原村の産廃施設に反対する連絡協議会
※サムネイル画像をクリックすると拡大画像がご覧いただけます。

人里バス停


登山口





テレビの「ポツンと一軒家」で紹介された民家

400年前から出ているという湧き水



浅間嶺展望台








「払沢の滝入口」バス停


払沢の滝
それで帰ってネットで調べると、檜原村の人里(へんぼり)地区に産業廃棄物処理施設の建設計画が持ち上がっていることを知りました。人里も何度も行ったことのある、なじみ深い集落だったのでびっくりしました。
計画については、下記のYouTubeで経緯等詳細を知ることができます。
YouTube
SAVE HINOHARA 東京の水源地「檜原村」を大規模産廃焼却場から守れ!〜「顔の見えすぎる民主主義」から日本の未来を考える〜
建設を計画している会社は、既に地元の武蔵村山市で産廃処理施設を運営しているのですが、その処理能力は1日4.8トンだそうです。しかし、檜原村の人里に建設を計画している施設は1日96トンの処理能力なのだとか。武蔵村山の施設が老朽化したからというのが新施設計画の理由のようですが、何と前より20倍の処理能力を持つ施設を造ろうというのです。
今年の3月1日に、廃棄物処理法に基づいて「廃棄物処理施設設置許可」の申請が東京都に提出され受理されています。建設される場所は檜原村なのですが、申請の窓口は東京都で、諸々の手続きを経て最終的に許可するかどうかを決定するのも東京都知事なのです。
申請後、1ヶ月の申請書の告示期間や関係市町村長(この場合は檜原村の村長)の意見聴取や利害関係者の意見書提出の手続きは既に終えており、専門家からの意見聴取(専門家会議)が先週の27日からはじまっています。専門家会議が終われば、あとは欠格事由に該当してないかどうかの審査と許可するかどうかの都知事の最終判断が残っているだけです。
朝日新聞デジタル
「具体性欠く」業者へ指摘続々 檜原村の産廃施設計画で専門家会議
行政手続法と都条例により、申請から180日以内に結論を出すという決まりがあるそうで、今年の10月か11月までには最終的な結論が下されるのではないかと言われています。
檜原村は島嶼部を除いては東京都で唯一の村で、令和4年7月26日現在の人口は2,069人(1,137世帯)です。人口も、島嶼部を除いて東京都でもっとも少ない自治体です。しかも、昭和の大合併や平成の大合併はもちろん、この400年間どことも合併せずに、独自の歩みを続けている稀有な村でもあるのす。
檜原村のサイトには、次のように村が紹介されています。
檜原村
村の概要
檜原村は、東京都の西に位置し、一部を神奈川県と山梨県に接しています。
面積は105.41平方キロメートルとなっており村の周囲を急峻な山嶺に囲まれ総面積の93%が林野で平坦地は少なく、村の大半が秩父多摩甲斐国立公園に含まれております。
村の中央を標高900m~1,000mの尾根が東西に走っており両側に南北秋川が流れていて、この川沿いに集落が点在している緑豊かな村です。
東西に走っている尾根が笹尾根と浅間尾根です。その間を檜原街道が通っています。そして、その檜原街道に沿って流れているのが北秋川と南秋川です。秋川は多摩川の支流で、檜原村は文字通り「東京の水源地」なのです。
人里(へんぼり)は、檜原街道から北側の山の縁にかけて家が点在するのどかな山里の集落です。人里という地名について、『奥多摩風土記』(大舘勇吉著・有峰書店新社)では次のように書いていました。
人里という地名は特異で語意は不明、寛文の検地帳にはなく、「和田、事實、上平」にわたる総称で、古くはこの三組のことを火追堀(ひおんぼり)三組といい、現在は人里三組といいます。火追堀とは三頭山御林防火のため、その防火線を(掘)を管理することが前記三組に課せられていたのです。火追堀はまた火堀ともいわれていわれ(ママ)この火堀(火保里)がいつか「へんぼり」の語に、また「人里」の文字に転訛して人里三人組を総称する地名になったとの説があります。
浅間尾根の人里峠に至るには、最初に息も上がるような急坂を登らなければならないのですが、その急登に沿って家が建っているのでした。そして、突端の家の横から登山道に入りしばらく進むと、テレビの「ポツンと一軒家」で紹介された家があります。既に無人になっていますが、敷地内は自由に見学でき、庭の奥では400年前から出ているというとても美味しい湧き水を飲むことができました。
そんな集落の一角に、一日の処理能力が96トンという巨大な産廃施設が造られるのです。予定地を地図で見ると、先週笹尾根の笹ヶタワノ峰から下りた道の西側にあたり、笹ヶタワノ峰の隣の笛吹(うずしき)峠から下りて来る道の近くでした。
しかも、産廃施設ができると、ツキノワグマも生息するような森を持つ山に囲まれた焼却炉から、産廃を燃やす煙が24時間止むことなく吐き出されるのです。それは、想像するだけでも異様な光景です。それだけではありません。あの檜原街道を一日に70台の産廃を積んだトラックが行き交うようになるそうです。
業者は、2020年の11月に、産廃施設の予定地に隣接する場所に、村の木材産業協同組合などの協力を得てバイオチップ工場を造っているのですが、それは産廃施設を造るための”地ならし”だったのではないかと言われています。「SDGsは『大衆のアヘン』である」と言ったのは斎藤幸平ですが、ここでも「循環型社会」「エコサイクル」「地球(環境)に優しい」という言葉が、自然を収奪する資本の隠れ蓑に使われているのでした。
ダイオキシンをはじめ、水銀やカドミウムや鉛やヒ素など有害物質による周辺の環境への影響も懸念されます。ましてや村のサイトでも謳われているように、檜原村の大部分は秩父多摩甲斐国立公園の中にあり、檜原村は「国立公園の中の村」と言ってもいいくらいです。産廃処理施設の建設予定地も国立公園の中です。そんな村に24時間稼働の巨大産廃焼却施設を造るなど、どう考えてもとんでもない話と言わざるを得ません。
YouTubeの中でも、パネラーの宮台真司氏が北アルプスの雲ノ平山荘の小屋主の伊藤二朗氏の話をしていましたが、先の「登山道の整備と登山者の特権意識」という記事で触れたような、日本の国立公園が抱える自然保護の問題が、檜原村の産廃問題にも映し出されているように思えてなりません。また、下記の対談で語られている人と自然の関係というテーマとも無縁ではないように思います。
YouTube
宮台真司×伊藤二朗 -自然と社会を横断する二つの視点から
法律では最終的な決定権は小池百合子都知事にあるので、極端な話、可否は小池都知事の胸三寸みたいなところがあります。そのため、最後は(よりによって)あの小池百合子都知事に、「小池さん、許可しないでください」とお願いするしかないのです。それが今の民主主義のルールなのですが、何か割り切れないものを覚えてなりません。
業者も、人口が2000人で村会議員も9人しかいない小さな村なので、御しやすいと思ったのは間違いないでしょう。宮台真司氏は、過疎地は有力者のネットワークですべてが決まるので、民主主義をコントロールしやすいと言っていましたが、業者はまさにそういった地縁・血縁に縛られた日本の田舎の”弱点”を衝いてきたとも言えます。
しかし、建設予定地区の住民や村の若い後継者や移住者などが中心になり、勉強会を開いたり、ネットを利用して計画のことを村の内外に発信したり、村の歴史上画期的とも言える反対デモを行ったりして、「とんでもないことが進んでいる」「あきらめるのはまだ早い」ということを訴えてきたのです。その結果、村議会における全会一致の反対決議や村民の3人に2人が反対署名するという、村挙げての反対運動に発展したのでした。檜原街道沿いの民家の軒先に掲げられた幟もそのひとつなのでしょう。
そんな反対運動を通して、YouTubeのトークイベントのタイトルにもあるように、誰もが顔見知りであるような小さな村の利を逆に生かした、「顔の見えすぎる民主主義」なる住民自治を模索する試みもはじまっています。小さな村の人々が思考停止を拒否しているのです。
檜原村の問題は、檜原村に通うハイカーにとっても、自然保護を考える人たちにとっても、日本の国立公園のあり方を考える上でも、見て見ぬふりのできない問題だと言えるでしょう。
関連サイト:
Change.org※ネット署名
東京都の水源地「檜原村」に、産業廃棄物焼却場を建設しないでください!
檜原村に産廃焼却場を建設しないでください
檜原村の産廃施設に反対する連絡協議会
※サムネイル画像をクリックすると拡大画像がご覧いただけます。

人里バス停


登山口





テレビの「ポツンと一軒家」で紹介された民家

400年前から出ているという湧き水



浅間嶺展望台








「払沢の滝入口」バス停


払沢の滝