「これでウクライナが東アジアに飛び火した」と論評した専門家がいましたが、まさにそれこそがナンシー・ペロシの「電撃的な台湾訪問」に隠されたバイデン政権の狙いだったように思います。
アメリカ空軍の軍用機(要人輸送機C-40C)を使った今回の訪問が、露骨に中国を挑発するものであることは誰が見てもあきらかでしょう。でも、対米従属の日本では、「挑発」という言葉はまるで禁句であるかのようです。メディアにもその言葉は一切出て来ないのでした。
ナンシー・ペロシの行動をバイデン大統領が止めることができなかった。個人的な旅行なのに、中国が「メンツを潰された」と過剰に反応して、台湾や日本に軍事的な圧力をかけている。このまま行けば中国が戦争を仕掛けて来るかもしれない、というような報道ばかりです。
今回の挑発行動には、米中対立によって、半導体の一大供給地である台湾の戦略的な重要性が益々増しているという、近々の状況が背景にあることは間違いないでしょう。石油や天然ガスのような天然資源ではなく、今の時代ではデジタル技術も大事な資源なのです。そういった新たな資源争奪戦という帝国主義戦争の側面は否定できないように思います。
しかし、それだけではなく、アメリカ経済が陥っている苦境とも無縁ではないような気がします。FRBは、6月に28年ぶりの大幅利上げを行なったのですが、翌月にも同様の利上げを再度行なって世界を仰天させたのでした。このように、現在、アメリカは「経済危機」と言ってもいいような未曽有のインフレに見舞われているのです。そのため、アメリカは、起死回生のために新たな戦争を欲しているのではないか。台湾有事という”危機”を現前化することで、今やコングロマリットと化した軍需産業を起爆剤に、低迷するアメリカ経済を好転させる魂胆があるのではないか、と思いました。もとより、蕩尽の究極の場である戦争ほど、美味しいビジネスはないのです。1機100億円以上もする戦闘機がどんどん撃ち落とされるのを見て、歓喜の声を上げない資本家はいないでしょう。
アメリカは戦後、朝鮮戦争からシリア内戦までずっと他国の戦争に介入してきました。そうやって超大国の座を維持してきたのです。ただ、ウクライナ戦争を見てもわかる通り、既に直接介入する力はなくなっています。しかしそれでも、他国の人々の生き血を吸って虚妄の繁栄を謳歌する”戦争国家”であることには変わりがありません。
もちろん、どうして今なのか?を考えたとき、中間選挙をまじかに控えた民主党の党内事情も無視できないように思います。苦戦が伝えられる中間選挙で逆転するためには、”強いアメリカ”を演出しなければなりません。しかし、ロシアは役不足です。案の定、ウクライナ戦争はインパクトに欠け、国民も冷めています。やはり、中国を民主主義と権威主義の戦いに引き摺り込むしかない。バイデンらはそう考えたのかもしれません。
でも、バイデンは79歳、ナンシー・ペロシは82歳です。私たちは、ガーシー当選に勝るとも劣らない悪夢を見ているような気持になってしまいます。
ナンシー・ペロシの台湾訪問のひと月前に発売された『紙の爆弾』(7月号)で、天木直人氏(元駐レバノン大使)と対談した木村三浩氏(一水会代表)は、今回の挑発行為を予見していたかのように、次のように発言していました。
木村   (略)米国が次に狙うのが中国で、だからこそ台湾有事の勃発が危惧されている。しかし、日本にはその視点がない。独裁者のプーチンが暴走した。香港・ウイグル・チベットなどで人々を弾圧している習近平も暴走するに違いない、と事態が極度に単純化されている。この論調に政治が乗っかり、日米同盟を強化すべきだ、NATOに入るべきだといったことまで公言されています。防衛費増強にしても、米国からさらに武器を買って貢ぐことにすぎません。
(「台湾有事」の米国戦略と「沖縄」の可能性)
一方、天木氏は、台湾有事に備えるには、沖縄の平和勢力が「反戦平和」を唯一の公約にする、つまり、その一点で結集できる「沖縄党」をつくって国政に参加するべきだと言っていました。
唯一の地上戦を経験しながら、戦後も基地の負担を強いられてきた沖縄には、本土のように対米従属に対する幻想はありません。だから、ネトウヨには、沖縄は「左傾」した「中共のスパイ」のように見えるのでしょう。天木氏の提案は、そんな対米従属の幻想から「覚醒」した沖縄が、日本の対米従属からの脱却を促し、日本を「覚醒」させることができるという、沖縄問題を論じる中でよく聞く”沖縄覚醒論”の延長上にあるものと言えます。
何度もくり返しますが、日本という国は、国民に「愛国」を説きながら、その裏では、サタンの日本人は「アダムの国」の韓国に奉仕しなければならないと主張する韓国のカルト宗教と密通していたような、ふざけた「愛国」者しかいない国なのです。それは政治家だけではありません。”極右の女神”に代表されるような右派のオピニオンリーダーたちも同じです。嫌韓で自分を偽装しながら、陰では韓国のカルト宗教から支援を受け、教団をヨイショしていたのです。また、旧統一教会の魔の手は、「愛国」の精神的支柱とも言うべき神社本庁にまで延びているという話さえあります。
自民党の改憲案と旧統一教会の政治団体である国際勝共連合の改憲案が酷似しているというのはよく知られた話ですが、胸にブルーリボンのバッチを付けた「愛国」者たちが、ジェンダーフリーやLGBTや同性婚や夫婦別性に反対するのも、教団からの受け売り(働きかけによるもの)だったのではないかと言われています。それどころか、女系天皇反対もそうだったのではないかという指摘もあるくらいです。
そんなふざけた「愛国」者が煽る戦争に乗せられないためにも、「沖縄の覚醒」を対置するという考えはたしかに傾聴に値するものがあるように思います。しかし、同時に、もう沖縄に頼るしかないのか、また沖縄を利用するのか、という気持も拭えないのでした。
天木   米国はいまでも「一つの中国」について変わらないと繰り返す一方で、あいまい戦略を、どんどんあいまいではないようにしています。台湾への軍事支援を公然と行ない、独立をそそのかしている。五月に来日したバイデンは岸田首相との会談で「武器行使」を肯定する発言をしました。(略)そんな発言をすること自体、バイデンは米中関係を損ねているのです。
天木   この現実を変えるには、沖縄に期待するしかないと思うに至りました。(略)このままいけば再び沖縄は捨て石にされる。今度は中国と戦うことを迫られる。これだけは何があっても避けたいはずです。沖縄の人たちは、「ぬちどぅたから(命こそ宝)や
万国津梁 」という言葉を琉球王国時代からの沖縄人の魂だと言います。ならば、それを唯一の公約とした「沖縄党」をつくって国政に参加してほしい。
天木   (略)本当に有事になったときは、日本人は皆”反戦”に傾くはずです。そのときに民意を集約できるのは、既存の左翼勢力ではなく「沖縄党」だと、私は思っているのです。
天木氏の発言に対して、木村氏も次のように言っていました。
木村   (略)このまま台湾有事に向えば、今のロシアと同じように、冷静な意見も「お前は親中か!」と排斥が始まるでしょう。それでも沖縄が「二度と戦争の犠牲にならない」と言えば、誰も反論はできない。
ただ、中には、台湾有事になれば自衛隊が戦うだけ、沖縄が犠牲になるのは地政学上仕方ない、自分たちが安全圏にいられるならいくらでも防衛費を増強すればいい、と考えているような日本人も少なからずいます。彼らもまた、”対米従属「愛国」主義”に呪縛され、戦争のリアルから目を背けているという点では、ふざけた「愛国」者と五十歩百歩と言うべきなのです。
関連記事:
『琉球独立宣言』