昨年の8月に、京都府宇治市のウトロ地区の建物などに放火したとして、放火や器物損壊などの罪に問われた被告対して、8月30日、京都地方裁判所は、求刑どおり懲役4年の実刑を言い渡しました。

この事件に関して、BuzzFeedNewsは、今年の4月に下記のような記事を掲載していました。

BuzzFeedNews
在日コリアン狙ったヘイトクライム、ヤフーが被害者に「心よりお見舞い」動機に“ヤフコメ”その責任は

BuzzFeed Newsの接見と文通を通じた取材に対し、被告は、不平等感や嫌悪感情が根底にあったと説明。「(在日コリアンが)日本にいることに恐怖を感じるほどの事件を起こすのが効果的だった」と話した。

さらに、自らの情報源が「Yahoo! ニュース」のコメント欄にあったと説明。「ある意味、偏りのない日本人の反応を知ることができる場だと思っていました」としたうえで、こんな狙いがあったと明かした。

「日本のヤフコメ民にヒートアップした言動を取らせることで、問題をより深く浮き彫りにさせる目的もありました」


つまり、被告の話で示されているのは、Yahoo!ニュースがネットで自分が見たい情報しか表示されなくなる「フィルターバブル」の役割を果たしているということです。そして、ヤフコメが、かつて津田大介が朝日新聞の「論壇時評」で紹介していたように、「人々は他者からの承認目的で共通の『敵』を見つけ、みずからの敵視の妥当性を他者の賛意に求め、それを相互に確認し続ける解釈の循環を作り出す」(朝田佳尚「自己撞着化する監視社会」・『世界』6月号)場になっているということです。

朝日新聞デジタル
(論壇時評)超監視社会 承認を求め、見つける「敵」 

BuzzFeedNewsはヤフーとつながりが深い媒体ですが、ヤフーに対して「プラットフォームの社会的責任」についてどう思うか、取材しています。しかし、ヤフー広報室の回答は、相変わらず通りいっぺんなもので、コメント欄を見ればわかりますが、現在もヘイトな投稿は事実上「放置」されたままです。判決を伝えるニュースに対しても、判決を肯じない「でも」「しかし」のコメントが多く見られました。

ヤフー広報室の回答に対して、記事は次のように疑問を呈していました。

「Yahoo! ニュース」は月間225億PVを達成したこともある、日本最大級のニュースプラットフォームだ。「Yahoo! Japan」全体では月間アクティブユーザーは8400万人(2022年3月)。運営するヤフーは、企業として大きな社会的責任を背負っている。

事業者の「使命」を掲げるのであれば、自社のサービスが一因となった「ヘイトクライム」に対し、より一層はっきりとしたメッセージの発出と、これまでの対策の見直し、強化が必要なのではないだろうか。


しかし、私も何度も書いていますが、Yahoo!ニュースにとって、ニュースはページビューを稼いでマネタイズするためのコンテンツにすぎないのです。そのためには、とにかくニュースをバズらせる必要があるのです。その手段としてコメント欄はなくてはならないものです。Yahoo!ニュースがコメント欄を閉鎖することなど、天地がひっくり返ってもあり得ないことです。

ヤフー広報室が言う「健全な言論空間を提供することがプラットフォーム事業者としての使命」なるものが建前にすぎず、パトロールやAIを使った「悪意ある利用者や投稿の排除」や「外部有識者の意見を受けた見直し」も、単なるアリバイ作りにすぎないことは、誰が見てもあきらかです。それは、前から言っていることのくり返しにすぎません。

本来「公共」であるべきプラットホームを、マネタイズのツールにすること自体が「社会的責任」を二の次にしたえげつない守銭奴の所業と言わねばなりません。それは、KADOKAWA(ドワンゴ)も同じです。

プラットホームであるからには、言論・表現の自由を担保しなければなりません。でないと、ユーザーも「自由」に投稿することはないでしょう。要するに、ヤフーやKADOKAWAは、言論・表現の自由で釣って、「自由」に投稿するプラットフォームを提供しているのです。動機がどうであれ、それ自体はきわめて「公」おおやけなものです。

しかし、ヤフーやKADOKAWAは、その一方で、「自由」な投稿を(ユーザーのあずかり知らぬところで!)お金に換えているのでした。ページビューやビッグデータがそれです。だから、「自由」に投稿できると言いながら、会員登録を求めているのです。そうやって他のサービスを利用した履歴と紐付けることで、個人情報に付加価値を付けているのでした。にもかかわらず、彼らは会員の投稿に責任はないと言うのでした。

折しも私は、KADOKAWAの問題を考えるために、大塚英志氏の『日本がバカだから戦争に負けた 角川書店と教養の連帯』(星海社新書)という本を読んでいたのですが、同書の中に、次のようなヤフーに関する記述を見つけました。

   「投稿」はプラットフォームにとっては「コンテンツ」です。ヤフーニュースだけ見て、コメントは読まない、ということはあまりない。「投稿」する場を提供しているだけで、「投稿」の中味に責任はありません、って明治時代以降「中央公論」も「文學界」も、どの論壇誌も文芸誌も、言ってない。でも、プラットフォームの連中はずっとそう言って来た。
   もういい加減、それは詭弁だろ、プラットフォームとメディアは「同じ」なんだ、と誰かが言うべきですからぼくが言います。


(略)新聞も政治的ポジションは違いますが、それは記事を新聞社が自ら書き、社説その他で立場を明確にしているわけで、その責任は新聞社にあります。メディアの責任、というのは「公器」としての責任で、新聞社で立場が異なることも「公」の形成の大事な容器です。報道した内容の責任は新聞社が負う。だから、ネトウヨはあれだけ朝日新聞を叩く「大義」があったわけです。本当はヤフニュースが転載した朝日の記事が気に入らなければ、朝日じゃなくて転載したヤフーニュースを叩くべきです。Googleニュースと違ってヤフーニュースはヤフーの人間が記事をセレクトしている。つまり、「編集」しているのです。そこには「朝日の記事を選んだ責任」がある。それなのにヤフーは読者に「叩く材料」をただ提供している。


ヤフーは、そうやって巧妙に責任回避しながら、ニュースをマネタイズしているのでした。そこで求められるのは、ニュースの真贋や価値などではありません。多くのコメントが寄せられてバズるかどうかなのです。ヤフーにとっての価値は、どれだけページビューを稼げるかなのです。そのために、編集者みずからがリアルタイムにバズりそうな記事を選び、キャッチーなタイトルを付けてトピックスに上げているのです。それがYahoo!ニュースの編集者の仕事です。彼らはジャーナリストではありません。言うなれば、ハサミと糊を持ったまとめサイトの主催者のようなものです。そこにYahoo!ニュースの致命的な欠陥があるように思います。

ここからは個人的な悪口ですが、子どもの頃、佐賀県の鳥栖の駅前の朝鮮人部落で暮らしていた孫正義の頭には、「朝鮮人出て行け」と言われて日本人から投げ付けられた石によってできた傷跡がまだ残っているそうです。そんな孫正義が成りあがったら、今度は同胞に対するヘイトクライムを煽ってお金を稼いでいるのです(と言っても言いすぎではない)。しかも、ユーザーが勝手にやっていることだ、自分たちには責任はないとしらばっくれているのです。

人間のおぞましさとまでは言いませんが、ヘイトクライムの問題を考えるとき、孫正義のような存在をどう捉えればいいのか、と思ってしまいます。ひどい民族差別の記憶を持っている(はずの)彼でさえ、自分が民族差別に加担しているという自覚がないのです。

被告が在日コリアンに憎悪を募らせる根拠になった「在日特権」なるものも、まったくの子どもじみた妄想にすぎまないことは今更言うまでもありません。被告は拘置所で面会するまで、実際の在日コリアンと会ったことすらなかったそうです。単なるアホだろうと思いますが、しかし、被告は特別な人間ではありません。過半の国民も似たようなものでしょう。

Yahoo!ニュースのコメント欄が、そんな無知蒙昧な人間に差別感情を吹き込み、類は友を呼ぶスズメの学校になっているのです。被告は、犯行を振り返って、「ヤフコメ民」を多分に意識していたような発言をしていますが、そうやってヒーローになりたかったのかもしれません。彼らにとって、ヤフコメはまさにトライブのような存在なのでしょう。

被告の背後には、裁判で裁かれることのない”共犯者”がいるのです。その陰の”共犯者”は人の負の感情を煽ることで、それをビジネスにしているのです。そういったネットの錬金術師たちの存在にも目を向けない限り、ヘイトクライムの犯罪性をいくら法律に書いても、なくなることはないでしょう。


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他者からの承認目的で共通の「敵」を見つけ、「みずからの敵視の妥当性を他者の賛意に求め、それを相互に確認し続ける解釈の循環を作り出す」
2022.09.13 Tue l ネット l top ▲