岸田首相が、旧統一教会に対して、宗教法人法に基づく調査実施の検討に入ることを、17日(月)の国会の予算委員会で表明する、というニュースがありました。

朝日新聞デジタル
政府が旧統一教会の調査検討 法令違反の有無など、首相17日に表明

政府は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題をめぐり、宗教法人法に基づく調査実施の検討に入った。消費者庁の有識者検討会が近くまとめる提言に調査要求が盛り込まれる見通しであることを踏まえ、岸田文雄首相が17日に開かれる衆院予算委員会で表明する考えだ。必要があれば調査をするよう文部科学相に指示するとみられる。

政府関係者が15日、明らかにした。調査は、所轄庁が教団の業務や管理運営についての報告を求める。法令違反など解散命令の要件に該当するかどうかを調べ、結果次第では、教団の宗教法人格を剝奪(はくだつ)する解散命令の請求につながる可能性もある。
(上記記事より)


とは言え、この記事の後半に書いていますが、政府・与党の中では「解散請求」に慎重な声が大勢を占めているようです。その一方で、おざなりなアンケート以外何のアクションも起こさない岸田政権に対して、支持率低下というきびしい世論の声が突き付けられているのです。それで、記事にも書いているように、とりあえず「調査」を指示して世論の批判をかわそうという狙いもあるのかもしれません。「質問権の行使」という迂遠なやり方も、時間稼ぎをして世論が下火になるのを待つという姑息な計算がはたらいているのではないか、と思ったりもします。

ただ、逆に考えれば、いくら向こう3年間選挙がないとは言え、このまま旧統一教会の問題を嵐が去るまでやり過ごすことがさすがにできなくなってきた、そこまで追い詰められた、と言えないこともないのです。岸田首相は、2日前には「解散命令は難しい」と消極的な発言をしていたのです。まさに”急転直下”と言ってもいいような方針転換なのです。

たまたま今の政治に詳しい知人と会った際、この記事が話題にのぼったのですが、彼は、(具体的な発言の内容を待つ必要があるけど)総理大臣が国会でわざわざ表明するということは、国会答弁のノウハウから言えば、「解散命令の請求まで行く可能性がある」と言っていました。

支持率の低下だけでなく、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が、文科大臣と法務大臣に対して、解散命令の請求を行うよう申し入れたことや、消費者庁の有識者検討会も、全国弁連と同様な提言を予定しているなど、「解散命令の請求」という伝家の宝刀に対して、外堀が埋められつつあるのは間違いないようです。

消費者庁の検討会は週1回のペースで進められたそうですが、その会合におけるメンバーの菅野志桜里氏(弁護士・元衆院議員)らの発言を、朝日新聞が記事にまとめています。そこには、私たちが想像する以上に明確な方向性が示されているのでした。

朝日新聞デジタル
悪質宗教法人の根っこ、どう絶つ? 消極的な行政に「猛省促したい」

「税優遇のうまみを前提とした搾取のシステムを壊す必要がある。やはり宗教法人としての法人格を剝奪(はくだつ)することは大きな意味がある」(第3回・菅野氏)


「刑事だけでなく、民事も含めて個別の違法行為を組織的に繰り返す団体が、調査を受けて解散命令も受けるというルールが機能するよう提言が必要」(第2回・菅野氏)


「(民事裁判で)伝道、教化、献金要求行為などに組織的な違法が認められたものが積み上がっているし、そのほか明らかになっている数々の問題を直視すれば要件に該当すると考えるのが自然」「所轄庁において質問・報告徴収権を行使して、解散命令請求の判断に向けた調査を速やかに開始すべき」(第6回)


また、検討会の座長である河上正二東大名誉教授も、「非常に消極的な態度を示しているけれども、その姿勢には猛省を促したい」(同上)と文化庁の姿勢を批判し、メンバーの中央大の宮下修一教授も 「あるものをまず活用してダメだったら次に行こうという話になる時に、そもそも『活用しません』とか『やりません』という姿勢自体について私自身も座長と同じように猛省を求めたい。まずそこからスタートすべきだ」(同上)と、文化庁の(公務員特有の)事なかれ主義を批判しているのでした。

このブログを読んでもらえばわかりますが、私は、いくらでも拡大解釈が可能なフランスのような反カルト法ではなく、現行法で処分(解散命令=法人格を剥奪)する方が適切だと考えていますので、この方向性には賛成ですし期待したい気持があります。

もとより、教団があろうがなかろうが、法人格を持っていようが持ってなかろうが、個人に信仰の自由はあるのです。「信教の自由の観点から慎重でなければならない」という政府・自民党の主張は、旧統一教会との関係を絶つことができない彼らの詭弁にすぎないのです。

もちろん、これから旧統一教会から自民党に対する”ゆさぶり(脅し)”も激しさを増すでしょう。「安倍応援団」と言われ(る旧統一教会の走狗のような)メディアや文化人やコメンテーターたちの、「いつまで統一教会のことをやっているだ。他に大事なことがあるだろう」という大合唱もはじまるでしょう。

当然、自民党内の反発もあります。安倍元首相を「国賊」と呼んだ村上誠一郎衆院議員に対して、自民党の党紀委員会は、「極めて非礼で許しがたい」として1年間の党の役職停止処分を下すなど、旧統一教会との関係に蓋をする(言論封殺の)動きもはじまっています。党内で旧安倍派(清話会)が最大勢力であることには、いささかも変わりがないのです。

玉川徹氏の“失言”に対するバッシングも、その動きに連動したものと言えるでしょう。文字通り、彼は国葬と電通という二つの虎の尾を踏んだのです。それにつれ、旧統一教会と安倍元首相の関係を伝える報道も目立って少なくなってきました。

でも、安倍元首相が、「反日カルト」に「国を売ってきた」中心人物であり、「国賊」と呼ぶべき存在であることはまぎれもない事実なのです。「愛国」と「売国」が逆さまになった”戦後の背理”を体現する人物であることは否定しようがないのです。

戦後の保守政治は虚妄だったのです。「愛国」も壮大なるウソだったのです。

そのことを言い続ける必要があるでしょう。メディアに”腰砕け”の兆候が見られるのが懸念材料ですが、そう言い続けることでもっと外堀を埋めなければならないのです。でないと、大山鳴動して鼠一匹になってしまうでしょう。


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