昨夜、アメリカのペロシ下院議長宅が襲撃され、夫のポール氏が怪我をして病院に搬送された、というニュースがありました。
毎日新聞
ペロシ米下院議長の自宅襲撃され、夫搬送 襲撃者の身柄拘束
ペロシ氏は、筋金入りの対中強硬派で、先日の台湾訪問で米中対立を煽った(その役割を担った)人物です。その際、日本にも立ち寄っているのですが、まるでマッカーサーのように、羽田ではなく横田基地に米軍機で降りているのでした。ちなみに、トランプが訪日した際も横田基地でした。「保守」を名乗るような右翼と一線を画す民族派は、そのやり方を「国辱だ」として抗議していました。
私は、このニュースを見て、『週刊東洋経済』10月29日号の「『内戦前夜』の米国社会 極限に達する相互不信」という記事を思い出しました。まだ犯人の素性や背景等があきらかになっていませんが、「内戦前夜」と言われるほど分断が進むアメリカを象徴している事件のように思えてならないのでした。
『週刊東洋経済』の同号の特集には、「米中大動乱 暴発寸前!」という仰々しいタイトルが付けられていましたが、唯一の超大国の座から転落したアメリカはまさに内憂外患の状態にあるのです。次回の大統領選では、へたすればホントに「内戦」が起きるのではないか、と思ったりするほどです。
そんな中で、米中の「ハイテク覇権」をめぐるアメリカの中国対抗政策はエスカレートするばかりです。言うなればこれは、アメリカが唯一の超大国の座から転落する副産物(悪あがき)にようなものです。と同時に、「内戦前夜」とも言われるアメリカの国内事情も無関係とは言えないでしょう。
しかし一方で、過剰な中国対抗政策のために、アメリカ自身が自縄自縛に陥り、みずから経済危機を招来するという、負の側面さえ出ているのでした。今の日米の金利差による急激な円安を見ても、もはや経済的には日米の利害は一致しなくなっています。それはヨーロッパとの関係でも同じです。同盟の矛盾が露わになってきたのです。今後”ドル離れ”がいっそう加速され、アメリカの凋落がよりはっきりしてくるでしょう。
アメリカは520億ドル(約7兆円)の補助金と輸出規制を強化するCHIPS法というアメとムチのやり方で、自国や同盟国のハイテク企業に中国との関係を絶つ、いわゆるデカップリングを求める方針を打ち出したのですが、当然ながら中国との取引きに枷をはめられた企業は、業績の後退を招いているのでした。片や中国は、既にアメリカに対抗する、「グローバルサウス」と呼ばれる巨大な経済圏を築きつつあります。
また、EV(電気自動車)に搭載する電池製造のサプライチェーンから中国を排除するインフレ抑制法(IRA)も今年の5月に成立しましたが、しかし、車用のリチウムイオン電池のシェアでは、中国メーカーが48%を占めており、その現実を無視するのはビジネスとしてリスクがありすぎる、という声も出ているそうです(ちなみに、第2位は韓国で30%、第3位は日本で12%です)。
さらには、電池の原料であるリチウムとコバルトの精錬技術と供給量では、世界の供給量の7割近くを中国が握っているそうです。そのため、中国を排除すると電池が供給不足になり、車の価格が上昇する懸念も指摘されているのでした。
半導体にしろ電池にしろ、デカップリングで自給率を上げると言っても、時間と手間がかかるため、言うほど簡単なことではなく混乱は避けられないのです。それこそ返り血を浴びるのを覚悟の上で体力勝負しているような感じになっているのでした。
米中対立は民主主義と権威主義の対立だと言われていますが、私には、全体主義と全体主義の対立のようにしか見えません。「ハイテク覇権」をめぐる熾烈な争いというのは、まさに世界を割譲する帝国主義戦争の現代版と言ってもいいのです。
渋谷が100年に一度の再開発の渦中にあると言われますが、世界も100年に一度の覇権の移譲が行われているのです。でも、当然ながら資本に国境はなく、覇権が中国に移ることは資本の「コンセンサス」と言われています。今どき、こんなことを言うと嗤われるだけでしょうが、「万国の労働者団結せよ!」というのは、決して空疎なスローガンではない(なかった)のです。
もちろん、東アジアで中国と対峙しなければならない日本にとっても、米中対立は大きな試練となるでしょう。今はアメリカの後ろでキャンキャン吠えておけばいいのですが、いつまでも対米従属一辺倒でやっていけるわけではないのです。
アメリカが世界の覇権国家として台頭したのは第二次大戦後で、たかだかこの75年のことにすぎません。中国が覇権国家としてアジアを支配していたのは、千年単位の途方もない期間でした。だから、英語で「chinese characters」と書く漢字をはじめ、仏教も国家の制度も、皇室の伝統行事と言われる稲刈りや養蚕も、日本文化の多くのものは朝鮮半島を通して大陸から伝来したものなのです。
関東近辺の山に登ると、やたら日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の東征に関連した神社や岩やビュースポットが出て来ますが、日本武尊とは半島からやってきて先住民を”征伐”して日本列島を支配した渡来人のことで、それらは彼らを英雄視した物語(英雄譚)に由来したものです。ちなみに、九州では、同じ日本武尊でも、九州の先住民である熊襲を征伐した話が多く出てきます。
国家は引っ越すことができないので、好き嫌いは別にしてこれからも東アジアで生きていくしかないのです。中華思想から見れば、日本は”東夷”の国です。それが日本の”宿命”とも言うべきものです。同時にそれは、河野太郎が主導するような、デジタル技術を駆使して人民を管理・監視し、行政的にも経済的にも徹底した省力化・効率化をめざす、中国式の全体主義国家に近づいて行くということでもあります。これは突飛な話でも何でもなく、地政学的に「競争的共存」をめざすなら、そうならざるを得ないでしょう。「競争的共存」というのは、米中関係でよく使われた言葉ですが、今や米中関係は「共存」とは言えない関係に変質してしまいました。
中国のチベット自治区でゼロコロナ政策に抗議して暴動が起きたというニュースもありましたが、私たちにとってそういった民衆蜂起が唯一の希望であるような全体主義の時代が訪れようとしているのです。覇権が300年振りに欧米からアジア(中国)に移ることによって、世界史は大きく塗り替えられようとしているのですが、それは、「反日カルト」の走狗のようなショボい「愛国」など、一夜で吹っ飛んでしまうほどの衝撃をもたらすに違いありません。
中国式の全体主義国家を志向しながら(僅かなお金に釣られて無定見にそれを受け入れながら)、日本は中国とは違う、中国に対抗していくんだ、みたいな言説はお笑いでしかないのです。
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新しい覇権と日本の落日
毎日新聞
ペロシ米下院議長の自宅襲撃され、夫搬送 襲撃者の身柄拘束
ペロシ氏は、筋金入りの対中強硬派で、先日の台湾訪問で米中対立を煽った(その役割を担った)人物です。その際、日本にも立ち寄っているのですが、まるでマッカーサーのように、羽田ではなく横田基地に米軍機で降りているのでした。ちなみに、トランプが訪日した際も横田基地でした。「保守」を名乗るような右翼と一線を画す民族派は、そのやり方を「国辱だ」として抗議していました。
私は、このニュースを見て、『週刊東洋経済』10月29日号の「『内戦前夜』の米国社会 極限に達する相互不信」という記事を思い出しました。まだ犯人の素性や背景等があきらかになっていませんが、「内戦前夜」と言われるほど分断が進むアメリカを象徴している事件のように思えてならないのでした。
『週刊東洋経済』の同号の特集には、「米中大動乱 暴発寸前!」という仰々しいタイトルが付けられていましたが、唯一の超大国の座から転落したアメリカはまさに内憂外患の状態にあるのです。次回の大統領選では、へたすればホントに「内戦」が起きるのではないか、と思ったりするほどです。
そんな中で、米中の「ハイテク覇権」をめぐるアメリカの中国対抗政策はエスカレートするばかりです。言うなればこれは、アメリカが唯一の超大国の座から転落する副産物(悪あがき)にようなものです。と同時に、「内戦前夜」とも言われるアメリカの国内事情も無関係とは言えないでしょう。
しかし一方で、過剰な中国対抗政策のために、アメリカ自身が自縄自縛に陥り、みずから経済危機を招来するという、負の側面さえ出ているのでした。今の日米の金利差による急激な円安を見ても、もはや経済的には日米の利害は一致しなくなっています。それはヨーロッパとの関係でも同じです。同盟の矛盾が露わになってきたのです。今後”ドル離れ”がいっそう加速され、アメリカの凋落がよりはっきりしてくるでしょう。
アメリカは520億ドル(約7兆円)の補助金と輸出規制を強化するCHIPS法というアメとムチのやり方で、自国や同盟国のハイテク企業に中国との関係を絶つ、いわゆるデカップリングを求める方針を打ち出したのですが、当然ながら中国との取引きに枷をはめられた企業は、業績の後退を招いているのでした。片や中国は、既にアメリカに対抗する、「グローバルサウス」と呼ばれる巨大な経済圏を築きつつあります。
また、EV(電気自動車)に搭載する電池製造のサプライチェーンから中国を排除するインフレ抑制法(IRA)も今年の5月に成立しましたが、しかし、車用のリチウムイオン電池のシェアでは、中国メーカーが48%を占めており、その現実を無視するのはビジネスとしてリスクがありすぎる、という声も出ているそうです(ちなみに、第2位は韓国で30%、第3位は日本で12%です)。
さらには、電池の原料であるリチウムとコバルトの精錬技術と供給量では、世界の供給量の7割近くを中国が握っているそうです。そのため、中国を排除すると電池が供給不足になり、車の価格が上昇する懸念も指摘されているのでした。
半導体にしろ電池にしろ、デカップリングで自給率を上げると言っても、時間と手間がかかるため、言うほど簡単なことではなく混乱は避けられないのです。それこそ返り血を浴びるのを覚悟の上で体力勝負しているような感じになっているのでした。
米中対立は民主主義と権威主義の対立だと言われていますが、私には、全体主義と全体主義の対立のようにしか見えません。「ハイテク覇権」をめぐる熾烈な争いというのは、まさに世界を割譲する帝国主義戦争の現代版と言ってもいいのです。
渋谷が100年に一度の再開発の渦中にあると言われますが、世界も100年に一度の覇権の移譲が行われているのです。でも、当然ながら資本に国境はなく、覇権が中国に移ることは資本の「コンセンサス」と言われています。今どき、こんなことを言うと嗤われるだけでしょうが、「万国の労働者団結せよ!」というのは、決して空疎なスローガンではない(なかった)のです。
もちろん、東アジアで中国と対峙しなければならない日本にとっても、米中対立は大きな試練となるでしょう。今はアメリカの後ろでキャンキャン吠えておけばいいのですが、いつまでも対米従属一辺倒でやっていけるわけではないのです。
アメリカが世界の覇権国家として台頭したのは第二次大戦後で、たかだかこの75年のことにすぎません。中国が覇権国家としてアジアを支配していたのは、千年単位の途方もない期間でした。だから、英語で「chinese characters」と書く漢字をはじめ、仏教も国家の制度も、皇室の伝統行事と言われる稲刈りや養蚕も、日本文化の多くのものは朝鮮半島を通して大陸から伝来したものなのです。
関東近辺の山に登ると、やたら日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の東征に関連した神社や岩やビュースポットが出て来ますが、日本武尊とは半島からやってきて先住民を”征伐”して日本列島を支配した渡来人のことで、それらは彼らを英雄視した物語(英雄譚)に由来したものです。ちなみに、九州では、同じ日本武尊でも、九州の先住民である熊襲を征伐した話が多く出てきます。
国家は引っ越すことができないので、好き嫌いは別にしてこれからも東アジアで生きていくしかないのです。中華思想から見れば、日本は”東夷”の国です。それが日本の”宿命”とも言うべきものです。同時にそれは、河野太郎が主導するような、デジタル技術を駆使して人民を管理・監視し、行政的にも経済的にも徹底した省力化・効率化をめざす、中国式の全体主義国家に近づいて行くということでもあります。これは突飛な話でも何でもなく、地政学的に「競争的共存」をめざすなら、そうならざるを得ないでしょう。「競争的共存」というのは、米中関係でよく使われた言葉ですが、今や米中関係は「共存」とは言えない関係に変質してしまいました。
中国のチベット自治区でゼロコロナ政策に抗議して暴動が起きたというニュースもありましたが、私たちにとってそういった民衆蜂起が唯一の希望であるような全体主義の時代が訪れようとしているのです。覇権が300年振りに欧米からアジア(中国)に移ることによって、世界史は大きく塗り替えられようとしているのですが、それは、「反日カルト」の走狗のようなショボい「愛国」など、一夜で吹っ飛んでしまうほどの衝撃をもたらすに違いありません。
中国式の全体主義国家を志向しながら(僅かなお金に釣られて無定見にそれを受け入れながら)、日本は中国とは違う、中国に対抗していくんだ、みたいな言説はお笑いでしかないのです。
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