
(2020年11月)
最近、マイクロプラスチックによる海洋汚染の問題をよく目にするようになりました。付け焼刃の知識ですが、マイクロプラスチックは、一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックの2種類に分けられるそうです。
一次プラスチックというのは、プラスチック製品に使用される「レジンペレット」と呼ばれるプラスチック粒や、製品の原材料として製造された小さなビーズ状のプラスチックのことで、たとえば、古い角質を削って肌をスベスベにする洗顔料や歯磨き粉などの原料であるスクラブ剤などに使われています。それらは、生活排水と一緒に下水道を通って海へ流れ出るのです。
マイクロプラスチックは、5ミリメートル以下のプラスチックのことを指すそうですが、微小なプラスチックは下水処理施設の装置も通りぬけてしまうので、いったん海に流れ出たマイクロプラスチックを回収するのは難しいのだとか。
二次マイクロプラスチックというのは、投棄されたビニール袋(レジ袋)やペットボトルなどのようなプラスチック製品が、紫外線によって劣化したり波に洗われて破砕され小さくなったものです。
自然界のプラスチックが分解されるには、100~200年、あるいはそれ以上もかかると言われており、その間に海洋生物の体内に取り込まれて、さらに食物連鎖で海藻や魚や貝などを介して人体に入ることになります。プラスチックに使われている有害性の添加物は、マイクロ化しても残留するそうで、人体に対する影響も懸念されているのでした。
また、マイクロプラスチックが、サンゴに取り込まれることによって、サンゴと共生する植物プランクトン(褐虫藻)が減少し、海の生態系のバランスが崩れる影響も指摘されています。
人体に対する影響では、消化器官の中に取り込まれるマイクロプラスチックは、一日程度体内に留まるだけで、便と一緒に排出されるのでそれほどの問題にはならないそうですが、他の器官に吸収されると影響は避けられないそうです。特に肺に入ると呼吸器系の疾患を生じると言われています。また、血液にも混入して体内の隅々にまで運ばれるそうで、それで人体に影響がないと言えばウソになるでしょう。
そのために、日本でもレジ袋の有料化がはじまりましたが、使い捨てプラスチック製品を減らすことは自然環境を守るための世界的な課題になっているのでした。
そこで、目に止まったのは下記の記事です。
GIZMODO(ギズモード)
ポリエステルの服は、着ているだけで大量のマイクロプラスチックを放出している…
記事によれば、「アクリル、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維でできた衣服を洗濯すると、何十万ものマイクロプラスチック繊維が引きはがされ」生活排水とともに海に排出されるそうです。しかし、問題は洗濯だけではないのです。
また、研究チームは4つの衣服の複製を着たボランティアたちに、日常生活と同じような動きをしてもらった結果、わずか20分で1gあたり最大400個のマイクロファイバーが空気中に放出されることがわかりました。つまり、ポリエステル製の服を着て通常の生活を3時間20分続ければ、4,000個のマイクロファイバーが放出され、洗濯時に水を流すのと同じくらいの汚染が生じるというわけです。もっと大きなスケールで考えると、平均的な人は洗濯によって毎年約3億個のポリエステル繊維を放出し、ポリエステル製の衣服を着るとその3倍の繊維を放出してしまうらしい(略)。
(上記記事より)
登山用のウエアは、速乾性と透湿性にすぐれているという理由で、ポリエステルやポリウレタンが多く用いられています。
ただ、パタゴニアに代表されるように、「SDGs」「自然に優しい」を謳い文句に、同じポリエステルでも「リサイクル・ポリエステル」を使っているケースが多く、最近は他のメーカーもそれに追随しています。
しかし、リサイクルであろうが何であろうが、そもそもポリエステルを3時間20分着ているだけで4000個のマイクロファイバー(プラスチック繊維)を自然界に放出している(飛散させている)ことには変わりがないのです。
記事にあるように、「洗濯してもダメ、着てもダメ。いったいどうすれば…」と思ってしまいますが、少なくともアウトドア=自然が好き=自然を大切する気持がある、というのは幻想でしかないのです。欺瞞だと言ってもいいくらいです。
都岳連のハセツネカップの自然破壊はきわめて悪質ですが、でも、私たちも山の中にマイクロプラスチックをばらまきながら山に登っているという点では同罪かもしれません。
マイクロプラスチックを体内に取り込んでいるのは、海洋生物だけでなく、山に生息する野生動物も同じなのです。
高機能を謳い文句に数万円の大金をはたいて買ったウエアで、ハイカーたちがマイクロプラスチックを山中にばらまいているという現実。それで「山っていいなあ」とひとりよがりな自己満足に浸っているのです。
また、車のタイヤが地面と摩擦する際に飛び散るゴム片にも、多くのマイクロプラスチックが含まれているそうです。今のタイヤは、昔のような天然ゴムではなく合成ゴムです。合成ゴムというのは、石油を原料とするポリマー(高分子化合物)で、海に流入するマイクロプラスチックのうち、タイヤのゴム片によるものが28%を占めているという説さえあるそうです。最近はマイカー登山が当たり前になっていますが、林道を通って登山口まで車で行くのも、山中にマイクロプラスチックをばらまいていることになるのです。もちろん、沢もマイクロプラスチックで汚染されます。
こう言うと、「じゃあ、どうすればいいんだ?」と言うに決まっていますが、そう開き直る前に、自称「自然を愛する」ハイカーたちは、自分たちが自然に対して傲慢で欺瞞な存在であることをまず自覚すべきなのです。「そんなこと言ってたらきりがないじゃないか」と言われるかもしれませんが、たしかにきりがないのです。それくらい深刻なのです。
言うまでもなく、再び感染拡大がはじまっている新型コロナウイルスも、鳥インフルエンザも、自然界からのシッペ返しに他なりません。デジタル社会だ、5Gだ、AIだ、シンギュラリティだ、などと言っても、新型コロナウイルスによるパンデミックが示しているように、人間は自然に勝てないのです。人間が自然に対して傲慢である限り、これからもシッペ返しは続くでしょう。
登山もまた、「自然保護」とは対極にある行為なのです。だったら、せめてマイカーで行くのをやめたり、保護活動のために入山料を払ったりして、少しでも「自然保護」に協力すべきでしょう。
著名な登山家の一部も、身過ぎ世過ぎのためか、登山用品のメーカーと契約して、マイクロプラスチックの問題などどこ吹く風で、ポリエステルで作られた高級登山ウェアの宣伝に一役買っています。それは、今やカタログ雑誌と化した登山雑誌も同じです。そして、彼らは、エベレストやヒマラヤをプラスチックのゴミ捨て場にしているのです(下記記事参照)。
AFPBB News
エベレスト山頂もマイクロプラスチック汚染、登山具に由来か 研究
ポリエステルのような化繊より、メリノウールなどの天然繊維の方が「環境に優しい」と言われています。人寄せパンダの有名登山家や、節操のない俄かハイカーに過ぎないユーチューバーの商品レビューや、広告代理店と組んだ登山雑誌の特集などに惑わされるのではなく、できる限り天然素材のウエアに変えるのも選択肢のひとつでしょう。
誤解を怖れずに言えば、たとえば山菜取りで山に入って道に迷った高齢者でも、致命的な怪我を負わずに食糧や水さえ持っていれば、数日でも生き延びることができるのです。山菜取りが目的の高齢者は、必ずしも速乾性と透湿性にすぐれた高価な登山用のウエアを着ているわけではありません。アンダーウエアだって普通の綿の下着でしょう。厳冬期だったら別でしょうが、厳冬期以外に私たちが登るレベルの山では、人寄せパンダの登山家や登山雑誌がすすめるような高価な登山ウエアは、言われるほど必要ではないのです。それより予備の食料と水(それとライトと雨合羽と山用のマッチ)を持って行く方がよほど大事です。
それにしても、「自然を大事にしましょう!」という掛け声だけは盛んですが、どうして日本の山はマイカー規制と入山料の徴収が進まないのか、不思議でなりません。