
日曜日(11月13日)、テレビを点けたら、テレビ朝日で世界ラリー選手権(WRC)の第13戦、ラリージャパンの模様がハイライトで放送されていました。しかも、驚くべきことに、放送されたのは日曜日の21時から22時55分までのゴールデンタイムなのです。
ラリーの会場となったのは、愛知県の岡崎市・豊田市・新庄市・設楽町と、岐阜県の恵那市・中津川市にまたかる山間部で、言うまでもなくWRCに参戦し、しかも、豊田章男社長みずからがこのレースに人一倍入れ込んでいるトヨタ自動車の地元です。
レースは、11月10日(木)から13日(日)の日程で行われましたので、地元民にとってはレース中は生活道路が利用できず迷惑千万な話だったと思いますが、なにせ相手は地元では行政も配下に従える“領主”のような存在のトヨタ自動車なのです。黙って従うしかないのでしょう。
私は、テレビ朝日の放送に対して、玉川徹氏ではないですが、「当然これ、電通が入ってますからね」と言いたくなりました。いくら12年ぶりの日本開催とは言え、ラリーごときマイナーなモータースポーツをどうして地上波で放送するのか。しかも、日曜日のゴールデンタイムにです。常識的に考えても、電通とテレビ朝日の関係を勘繰らざるを得ません。
案の定、放送は前半はスタジオからお笑い芸人のEXITとヒロミの掛け合いによるラリーに関する初歩知識の紹介で時間を潰し、後半は、YouTubeで新車紹介を行っている自称「自動車評論家」とラリー経験者だとかいう俳優の哀川翔の二人が解説を務めていましたが、ライブではないハイライト(総集編)なので臨場感に欠け、スポーツニュースを延々見せられているような間延びした感は免れませんでした。どう考えても、ゴールデンタイムに放送するには無理があったように思いました。
海外では、広告代理店は「ハウスエージェンシー」と言って一業種一社が当たり前なのだそうです。しかし、日本では電通が同じ業種の会社でも複数担当しています。そのため、日本は、欧米のような「比較広告」がありません。タレントなどを使ったイメージ広告が主流です。
国鉄の分割民営化のとき、国鉄(当時)が電通に頼んでCI広告を大々的に打ったのですが、ウソかホントか、分割民営化に反対していた国労も電通に反対の意見広告を依頼していたという、笑えない話さえあるくらいです。
日本の広告宣伝費は、電通の資料によれば、2021年は6兆7998億円(前年比110.4%)でした。
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2021年 日本の広告費
広告宣伝費は、①新聞、雑誌、ラジオ、テレビメディアの「マスコミ四媒体広告費」、②「インターネット広告費」、③イベントや展示や交通、折込などの「プロモーションメディア広告費」の3つに分類されるそうです。それぞれの広告費は、以下のとおりです。
①マスコミ四媒体広告費 2兆4,538億円(前年比108.9%)
②インターネット広告費 2兆7,052億円(前年比121.4%)
③プロモーションメディア広告費 1兆6,408億円(前年比97.9%)
もちろん、コロナ禍で広告費は大きく落ち込んでいますが、ただ、東京五輪関係の需要があったので、2019年(6兆9381億円)より1400億円弱の落ち込みでとどまっています。電通が、パンデミック下であろうが、是が非でも東京五輪を開催したかったのは想像に難くありません。
電通の2021年12月期の売上高は約5.2兆円、連結収益は前期比15.6%増の1兆855億9200万円です。ただ、これは海外事業も含めた数字です。
国内における売上高のシェアですが、各社によって会計が日本基準と国際基準を採用してバラつきがあるため比較が難しいそうですが、日本の会計基準に合わせると、電通のシェアは60%にのぼるという説もあります。
『新装版・電通の正体』(週刊金曜日取材班)には、2000年頃の話で、「テレビ広告費の三八パーセント(七五〇〇億円)、新聞広告費の二〇パーセント(一九八〇億円)を取り扱っている」と書いていましたので、その頃よりさらにシェアを伸ばしているのかもしれません。
テレビ広告の単価の基準となる視聴率の調査を一手に引き受けるビデオ・リサーチも、電通が設立し、一時は電通本社の中にオフィスがあったくらいですから、野球の試合で選手と審判を同じチームがやっているようなものです。
『電通の正体』によれば、電通のコミッション(手数料)は15~20%だそうです。一業種一社が原則の海外の広告会社のコミッションは5%前後ですから、ここにも一社が同じ業種の複数のクライアントを担当する日本の“商習慣”の弊害が出ているように思います。そして、それが電通の寡占につながったのは間違いないでしょう。
そんな中、一時、大手企業が広告のコストを下げるために、「ハウスエージェンシー」をつくる流れがありました。トヨタ自動車がデルフェス、ソニーがフロンテッジ、三菱電機がアイプラネットと自社の広告会社を設立したのでした。
と言うことは、トヨタにはデルフェスがあるのに、今回の第13戦・ジャパンラリーの放送が行われたのはどうしてなのかと思ったら、何のことはない、デルフェスは2021年1月1日付で社名を「トヨタ・コニック・プロ」に変更し、トヨタ自動車と電通が出資する持株会社「トヨタ・コニック・ホールディングス」の傘下に入っているのでした。ゲスの勘繰りを承知で言えば、今のようなトヨタと電通の関係は、2005年の愛知万博からはじまったのかもしれません。
で、どうしてテレビ朝日の放送に、電通を連想したかと言えば、『電通の正体』に書かれていた、電通と「ニュースステーション」の関係を思い出したからです。
電通は「ニュースステーション」の広告を一手に引き受けていたそうです。つまり、「ニュースステーション」の広告枠を買い取っていたのです。
(略)番組枠まで買い切ってしまえば、売れる番組にするために番組の内容まで左右する力を持つのは当然だ。
「電通も異例ともいえるテコ入れを行っている。電通ラ・テ局(ラジオ・テレビ局)のテレビ業務推進部は企画開発段階から特別スタッフを投入。視聴者のニーズや動向の分析からCMのはさみ方による視聴率シュミレーションまで実施、その結果に沿って基本構想がまとめられていった」(ジャーナリスト・坂本衛『久米宏』論)
電通が、スポンサーを手当てし、視聴者の分析を行ない、基本構想までつくっていたというのだ。
(『電通の正体』
ちなみに、当時、「ニュースステーション」の担当者だった電通社員は、のちにテレビ朝日の副社長に就任したそうです。
業界には「電通金太郎アメ説」というのがあるのだとか。それは、葬式から五輪まで、日本のイベントの裏側に必ず電通の影があることをヤユした言い方です。もうひとつ、「石を投げれば有名人の子息に当たる」という、コネ入社をヤユした言葉もあるそうです。
テレビ朝日と言えば、長寿番組の「朝まで生テレビ!」や(既に終了した)「サンデープロジェクト」の司会を務める田原総一郎が有名ですが、2004年、彼の妻の葬儀が築地本願寺で営まれた際、葬儀委員長を務めたのが電通の成田豊前社長(当時、のちに電通グループ会長、最高顧問に就任)だったそうです。
「葬式から五輪まで」と、イベントと名のつくものなら、片っ端から手がける電通が、有名人の結婚式や葬式を仕切ることは珍しくない。(略)
現在の電通本社は汐留にあるが、かつては築地にあったことから、「築地本願寺で大物の葬式が多いのは、電通本社が近いから」と冗談で言う関係者もいるほどだ。
(同上)
安倍晋三元首相の国葬には電通は直接関与してなかったみたいですが、関与したかどうかというより、玉川徹氏が電通の名前を出したこと自体が、既に地雷を踏む行為だったと言えるのです。ただ、玉川氏も、テレビ業界では(特にテレビ朝日では)電通がタブーであるのはよくわかっていたはずですので、あえて意図的に(反骨精神で)地雷を踏んだのではないか、という憶測も捨て去ることはできません。
テレビ業界における電通の力を物語る例として、(ちょっと古いですが)TBSの「水戸黄門」があります。私も記憶がありますが、「水戸黄門」の脚本のクレジットは「葉村彰子」という名前になっていました。しかし、「葉村彰子」などという脚本家はいなくて、脚本を書いていたのは、電通が株を持つ(株)C・A・Lという制作会社だったそうです。C・A・Lが「一話完結」「最後に印籠を出す」というマンネリパターンをつくり、長寿番組に育てたのです。また、NHKの番組を制作するNHKエンタープライズという会社がありますが、NHKエンタープライズもNHKと電通が共同で出資した会社だそうです。
もちろん、電通は、元役員(専務のち顧問)の高橋治之容疑者が主導した”汚職”でクローズアップされたオリンピックにも大きく関わっています。あの”汚職”と言われているものも、組織委員会の理事だった高橋治之容疑者が、オリパラ特別処置法(東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法)の規定で、「みなし公務員」だったので(たまたま)受託収賄罪が適用されただけです。高橋自身も言っているように、ああいった”コミッション(手数料)ビジネス”は普段電通がやっていることなのです。
オリンピックがアマチュア規定を外し商業主義の門戸を開いたことで、オリンピックと深く関わるようになった電通は、五輪選手は五輪スポンサー企業のCMしか出ることはできないという縛りを設け、五輪選手の肖像権の管理をJOCで行うようにして、五輪開催とは別に、五輪選手を金づるにするシステムをつくったのでした。
電通はオリンピックマークを企業が商業的に使い、その収益をオリンピック員会に集めるシステムも考え出した。だがオリンピックマークでは国際オリンピック委員会(IOC)の規定に抵触してしまう。そこで電通はおなじみとなった「がんばれ! ニッポン!」ブランドを作り出した。
(同上)
電通は、政治にも大きく関わるようになっています。小泉政権の「自民党をぶっ壊す」「聖域なき構造改革」のようなキャッチフレーズを生み出したのも電通だと言われています。そういったワン・フレーズ・ポリティックスで小泉人気を演出したのでした。現在、日本の政治をおおっている世も末のような衆愚政治が小泉政権からはじまったことを考えれば、日本の政治のタガを外したのは電通だとも言えるのです。
玉川徹氏が地雷を踏んだ電通タブーについて、『電通の正体』は「あとがき」で次のように書いていました。
日本にはマスコミタブー、つまりテレビ・新聞・雑誌などの報道機関が、取材の結果知りえた事実を報道することを忌避する、そもそも取材することを忌避するという自己矛盾を起こす取材対象がいくつかある。天皇制、被差別部落、芸能界、組織暴力団、創価学会、作家、警察などが思いつくだろう。これらに並んで記者や編集者の口にのぼるのが、日本最大の広告会社・電通という東証一部上場企業だ。電通と並びメガ・エージェンシーと呼ばれる業界第二位の博報堂については、タブーという認識は業界にほとんどないから、広告会社がタブーなのではなく電通がタブーということになる。
(同上)
昔、『噂の真相』も、「タブーなきスキャンダリズム」と謳っていました。どうしてタブーがないのかと言えば、『週刊金曜日』もそうですが、広告収入に依存してないからです。広告収入に依存しなければタブーがなくなるのです。その代わり、『週刊金曜日』が自嘲するように、薄っぺらなわりに定価が高い雑誌になってしまうのです。
玉川徹氏を執拗に叩いていた、週刊誌やスポーツ新聞があざとく見えたのも電通タブーゆえです。彼らは「電通サマのお名前を出すなど言語道断」とでも言いたげでした。その報道は、大衆リンチを煽り玉川氏の存在を抹殺しよう(テレビから追放しよう)としているかのように見えました。どこも経営的に青息吐息なので、そうやって下僕のように(!)「電通サマ」に忠誠を誓ったのでしょう。彼らにとって、「言論の自由」は所詮、「猫に小判」「豚に真珠」でしかないのです。
そもそも電通に関する本も極端に少ないし、ましてや電通を特集する雑誌など皆無です。週刊文春や週刊新潮も、電通を扱うことはありません。あり得ないのです。上を見てもわかるように、電通のシェアを調べようと思ってもほとんど情報がなく、あのように曖昧な書き方をするしかないのです。
電通は、戦前に設立された「日本電報通信社」という広告と情報を兼ねた通信社が母体です。その中で、広告部門が独立して電通になり、情報部門が今の時事通信社になったのでした。ネットの出現で、日本の広告業界は大きく揺さぶられていますが、電通が圧倒的なシェアで君臨する日本の広告業界は、このように今なおブラックボックスと化しているのでした。
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