アマゾン


案の定と言うべきか、Twitter、メタに続いてアマゾンもリストラに着手するというニュースがありました。ほかの記事と合わせると、どうやらキンドルやエコーなどのデバイス部門やリテール部門、それに人事部門が削減の対象になるようです。

Yahoo!ニュース(11月18日)
AFP BB NEWS
米アマゾン、人員削減に着手

もっとも、記事にあるように、アマゾンの従業員は正社員だけで162万人もいるのですから、1万人といっても0.6%にすぎません。Twitterやメタに比べると、同じリストラでも全体に占める割合は微々たるものです。一方で、今年に入って時間給のアルバイトやパート6万人を、既にリストラしているという話もあります。

アメリカのアマゾンの業績については、下記の記事が詳しく伝えていました。

日経クロステック(10月31日)
米Amazonの2022年7~9月期決算は5割減益、AWSにも景気の逆風

記事によれば、直近の2022年7~9月期の売上高は「前年同月比15%増の1271億100万ドル(約18兆5900億円)でしたが、営業利益は48%減の25億2500万ドルで増収減益」だったそうです。

主力の通販事業は7%増加して534億8900万ドルです。増加した要因は、「2021年は6月に開催した有料会員向けのセールであるプライムデーを2022年は7月に実施した」からだそうです。と、例年どおり6月にプライムデーを実施していたら、もっと厳しい数字になったことをみずから認めているのでした。

もう1つの主力事業の(と言うか、いちばんドル箱の)ホスティングサービスのAWS (アマゾンウェブサービス)にも逆風が吹いており、「売上高は前年同期比27%増の205億3800万ドルと伸びたものの、(略)金融、住宅ローン、暗号通貨などの業界で需要が減少している」そうです。

しかも、エネルギーコストの上昇も重荷となっていて、「電気や天然ガスの価格が高騰し、『この数年で2倍になった。これはAWSにとって初めての経験だ』」という、オルサブスキーCFOの言葉も紹介されていました。

これは、7~9月期の話ですから、今はもっとコストの上昇に喘いでいるはずです。それが今回のリストラのひきがねになったのは間違いないでしょう。

デジタルと言っても、電気がないと“宝のもち腐れ”です。アマゾンのCEOが言うように、デジタルの時代も電気や天然ガスに依存せざるを得ず、近代文明を支えてきた“エネルギー革命”から自由ではないのです。デジタルの時代というと、まったく新しい文明が訪れたかのような幻想がありますが、所詮は今ある近代文明の枠内の話にすぎないのです。だからこのように、リストラ(人員整理)などという、古典的な(あまりに古典的な!)資本の矛盾からも逃れることができないのです。

私がネットをはじめた頃は、「無料経済」という言葉が流行っていました。それは結構衝撃的な言葉でした。しかし、厳密に言えば無料ではなかったのです。だから、「無料経済」という言葉も死語になったのかもしれません。

言うまでもなく、私たちが無料でサービスを利用できるのは広告があるからです。最初は、簡単なシステムでしたが、グーグルが登場してから、グーグルが私たちの個人情報を収集してそれを広告主に提供したり、より効果のある広告を出すために利用するようになったのです。つまり、ネットが「タダより怖いものはない」世界になったのでした。

アレクサに日常生活を覗き見られることで、個人の趣味や嗜好だけでなく、その家族の生活や人生にまつわる仔細な情報が抜き取られる怖さが一部で指摘されていましたが、多くの人たちはそこまで考えることはなく、ただ「便利だからいいじゃん」という受け止め方しかありませんでした。それは、マイナンバーカードなども同じです。考え方が新しいか古いかという、ほとんど意味もない言葉でみずからを合理化しているだけなのです。

とは言え、我が世の春を謳歌しているように見えるデジタルの時代であっても、過剰生産恐慌のような資本主義の宿痾と無関係でいられるわけではないのです。今、私たちが見ているのは、エネルギー価格の高騰によってサーバーの維持管理費の負担が大きくなったり、景気の減速で収益源である広告費が頭打ちになったりして、デジタル革命を牽引してきたプラットフォーマーが打撃を受けているという、資本主義社会ではおなじみの(あまりにもおなじみの!)光景にすぎません。

一方、共同通信は、アマゾンのリストラのニュースが流れた中で、それとは真逆の記事を掲載していました。

Yahoo!ニュース(11月18日)
KYODO
アマゾン、日本に長期投資 チャン社長「成長余地たくさん」

しかし、チャン社長の発言は、どう見ても、外交辞令、リップサービスだとしか思えません。その証拠に、記事は次のように書いていました。

 チャン氏は「成長余地はたくさんある」と強調した。一方で、世界的な景気減速懸念が強まる中、日本への短期的な投資や雇用の方針は「全世界の変動で、日本にどのような影響があるのかによって変わる」と述べるにとどめた。


では、アマゾンジャパンの売上げはどうなっているのか。

2021年の日本事業の売上高は230億7100万ドルで前年比12.8%増です(2020年の日本事業売上高は204億6100万ドルで前年比27.9%増)。1ドル110円で換算すると、2兆5378億1000万円です。

しかし、世界の売上高に占める日本事業の割合は4.9%にすぎません。2010年は14.7%でした。それ以後下がり続けてとうとう5%を切ってしまったのでした(2020年は5.3%)。また、欧米の伸び率はほぼ20%を超えていますが(アメリカだけが19.2%増)、主要国では日本の伸び率(12.8%増)だけが際立って低いのでした。だから、「成長の余地がある」という話なのか、と皮肉を言いたくなりました。

①日本事業シェア推移(%)
(売上げ金額は省略)
2010年 14.7
2011年 13.7
2012年 12.8
2013年 10.3
2014年  8.9
2015年  7.7
2016年  7.9
2017年  7.7
2018年  5.9
2019年  5.7
2020年  5.3
2021年  4.9

②主要国別シェア(%)
2021年の売上高(金額省略)
アメリカ 66.8
ドイツ 7.9
イギリス 6.8
日本 4.9
その他13.5

③主要国伸び率(%)
2021年売上高(金額省略)
アメリカ 19.2
ドイツ 26.3
イギリス 20.5
日本 12.8
その他 38.0


アマゾン全体の項目(業界用語で言うセグメント)別の売上高を見ると、以下のとおりです。

2021年度売上
4698億2200万ドル(前年比21.7%増)
51兆2015億800万円(1ドル=109円)
純利益
333億6400万ドル(56.4%増)
3兆6366億7600円(同)

①直販(オンラインストア)
2220億7500万ドル(12.5%増)
②実店舗(ホールフーズ)
170億7500万ドル(5.2%増)
③マーケットプレイス(手数料)
1033億6600億ドル(28.5%増)
④サブスクリプション(年会費等)
317億6800万ドル(26.0%増)
⑤AWS
662億200万ドル(37.1%増)
⑥広告
311億6000億ドル(前年項目なし)


伸び率がもっとも低いのが「実店舗」の5.2%増で、その次に低いのが「直販」の12.5%増です。ちなみに、「直販」の売上金額は、全体の47.3%を占めています。

こうして見ると、物販の効率がいかに悪いかがわかります。利益率が公表されていませんが、マーケットプレイスの手数料やプライム会員の年会費のようなサブスクに比べると、「直販」の利益率が桁違いに低いのは想像に難くありません。もちろん、「直販」が柱になることで、プライム会員やマーケットプライスなど利益率の高いビジネスが可能になっているのはたしかですが、そのためにあれだけの物流倉庫を抱え、そこで働く人員を揃え、莫大な物流経費を負担しているのです。

アマゾンの看板であるEC事業は赤字で、アマゾン自体はドル箱であるAWSで「持っている」という話は昔からありますが、こうして見ると、あながち的外れではないように思います。

ネット通販をやっていた経験から言っても、ネット通販は言われるほどおいしい商売ではありません。もちろん、実店舗を構えるよりコストは安いですが、敷居が低い分、競争も激しいので売上げを維持するのは大変です。アマゾンのような既存の商品をメーカーや問屋から仕入れて小売する古典的なビジネスでは、利益率はたかが知れているのです。

ネットは金を掘る人間より金を掘る道具を売る人間の方が儲かるというネットの”鉄則”に従えば、マーケットプレイスの方がはるかにおいしいはずです。

楽天と比べてアマゾンはワンストップでいろんなものが買えるので、ユーザーには至極便利ですが、それもアマゾンだからできるとも言えるのです。だから、アマゾンに対抗するようなECサイトが出て来ないのです。ヨドバシカメラがドン・キ・ホーテのように戦いを挑んでいますが、売上高はまだアマゾンの10分の1にすぎません。

ネットが本格的に私たちの生活の中に入って来るようになっておよそ20年ですが、資本主義に陰りが見えるようになった現在、ネットビジネスも大きな曲がり角を迎えているのは間違いないでしょう。
2022.11.22 Tue l ネット l top ▲