また、床屋政談ですが、22県市の首長と地方議会の議員らが対象となる台湾の統一地方選の投開票が26日に行われ、与党の民主進歩党(民進党)が大敗し、蔡英文総統が選挙結果を受けて辞職を表明する、というニュースがありました。

今回の統一地方選は、2024年1月に行われる総統選の前哨戦として注目されていたのですが、台北市長選では蒋介石のひ孫で野党の国民党の蒋万安氏が当選するなど、民進党は21の県・市長選でポストを減らしたのでした。

この選挙結果について、日本のメディアでは「親中派の野党・国民党が勝利」という見出しが躍っていますが、ホントにそうなのか。

8月のナンシー・ペロシアメリカ下院議長の電撃的な台湾訪問をきっかけに、一気に米中対立なるものが浮上し、日本でも防衛力の強化が叫ばれるようになりました。

既に、政府・与党は、2023年度から向こう5年間の中期防衛力整備計画(中期防)の総額を、40兆円超とする方向で調整に入ったそうです。これは、現行(2019~23年度)の27兆4700億円から1.5倍近くに跳ね上がる金額です。

台湾の民進党も、大陸の脅威を前面に出して対中政策を争点にしようとしたのですが、それが逆に裏目に出て、今回は蔡政権誕生を後押しした若い層の反応も鈍かったと言われています。

今回の選挙結果は、必ずしも「親中派の勝利」ではなく、アメリカが煽る米中対立に対する国民の懸念が反映されたと見ることができるように思います。米中対立に対して、台湾国民は冷静な判断を下したのではないか。

8月のナンシー・ペロシ下院議長の電撃的な台湾訪問は、きわめて不純な意図をもって行われたのは間違いありません。わざわざ米軍機を使って訪台し、中国を挑発したのです。それでは、中国も外交上「やるならやるぞ」という姿勢を見せるしかないでしょう。

ジョー・バイデンは、ウクライナ支援でも取り沙汰されていましたが、巨大軍需産業とのつながりが深い大統領として有名です。ウクライナ侵攻では、各国の軍需産業が莫大な利益を得ており、株価も爆上げしています。

唯一の超大国の座から転落したアメリカは、もはや世界の紛争地に自国軍を派遣する“世界の警察官”を担う力はありません。相次ぐ大幅利上げに見られるように、経済的にも未曽有のインフレに見舞われ苦境に陥っています。

トランプが共和党の大統領候補になることは「もうない」と言われていますが、しかし、トランプが主張した「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」は、民主・共和党を問わず、アメリカの本音でもあるのです。

そこで新たな戦略として打ち出されたのが、“ウクライナ方式”です。しかし、今回の選挙結果に見られるように、台湾の国民は、ウクライナの二の舞になることを拒否したのです。

アメリカと一緒になって徒に大陸を刺激する蔡政権にNOを突き付けることによって、戦争ではなく平和を求めたのだと思います。「親中」とか「媚中」とかではなく、ただ平和を希求しただけで、それが大陸に対して融和策を取る野党に票が集まる結果になったのです。

台湾と日本は立場が異なるので一概に比較はできませんが、日本の議会では、アメリカの戦略に正面から異を唱える政党が、共産党やれいわ新選組のような弱小政党を除いてありません。その選択肢の欠如が、アメリカの尻馬に乗った「防衛力の抜本的な強化」という同調圧力をさらに増幅させることになっているのはたしかでしょう。

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それは、今のワールドカップでも言えることです。国別の対抗戦であるワールドカップが、ナショナリズムとむすびつくのは仕方ないとは言え、しかし、同時に、ボール1個があれば誰でもできるサッカーは、競技人口がもっとも多いスポーツで、それゆえに「世界」と出会うことのできる唯一のスポーツでもある、と言われているのです。

主にヨーロッパ各国の選手やサッカー協会(連盟)がカタール開催を決定したFIFAに反発して、カタールの人権問題やFIFAの姿勢を批判しているのも、サッカーが単に偏狭なナショナリズムの発露の場だけではなく、「世界」と出会うことができるインターナショナルなスポーツだからなのです。

一方、FIFAのインファンティーノ会長が、ヨーロッパでカタールの人権問題に批判が集まっていることに対して、「私は欧州の人間だが、欧州の人間は道徳的な教えを説く以前に、世界中で3000年にわたりやってきたことについて今後3000年謝り続けるべき」「一方的に道徳的な教えを説こうとするのは単なる偽善だ」、と中東の金満国家のガスマネーに群がったFIFAの所業を棚に上げて、フランツ・ファノンばりの反論を行っていたのには唖然とするしかありませんでした。

また、FIFAは、ヨーロッパ7か国のキャプテンが、LGBTへの連帯を示す虹色のハートが描かれた腕章を巻いてプレーすることに対しても、イエローカードを出すと恫喝して中止させたのでした。

そんなFIFAの妨害にもめげずに、オーストラリアの選手たちはカタールの人権侵害を批判するメッセージを動画で発信していました。ドイツやイングランドの選手たちも試合前のセレモニーで抗議のポーズを取っていました。また、イランの選手たちは、自国政府の女性抑圧に抗議して、国家斉唱の際に無言を貫いたのでした。それに比べると、カタール大会の問題などどこ吹く風の日本代表の選手たちは、まるで甲子園に出場した高校生のように見えました。彼らの多くはヨーロッパのクラブに所属していますが、BTSと同じような「勝てば官軍」みたいな野蛮な(動物的な)考えしかないかのようでした。それは、サッカー協会もサポーターも同じです。もちろん、韓国も似たようなものです。文字通り、スポーツウォッシングと言うべきで、はなからサッカーを通して「世界」と出会う気もさらさらないし、そういうデリカシーとも無縁です。

そして、メディアは、災害復興プロジェクトから招待された応援団が、日の丸を背にスタンドでゴミ拾いをするパフォーマンスを取り上げて、「世界から称賛」などと、まるで”お約束事”のように「ニッポン凄い!」をアピールするのでした。と思ったら、案の定、疑惑の渦中にある秋葉賢也復興相が、みずからのTwitterで件の災害復興プロジェクトに触れていました。それによれば、「日本の力を信じる」なるスローガンを掲げ、災害に遭った高校生をカタール大会に招待した災害復興プロジェクトは、国家が多額の公金を出して後押ししたものだったのです。

莫大な放映権料を回収するために動員されたサッカー芸人たちが、朝から晩までテレビで痴呆的な”応援芸”を演じているのも、うんざりさせられるばかりでした。どのチャンネルに切り替えても同じような企画の番組ばかりで、口にしている台詞も同じです。

日本VSドイツに関して言えば、ドイツが今ひとつチグハグな感じがあったものの、サッカーにあのような番狂わせはつきものなのです。その一語に尽きるように思いました。「人権問題などに関わっているからだ」「ざあまみろ」という日本人サポーターの声が聞こえてきそうですが、たまたま運が日本の味方をしただけです。

ドイツ戦のヒーローとして、浅野拓磨や堂安律やGKの権田修一が上がっていますが、ヒーローと言うなら後半途中から出場してドリブルで流れを変えた三笘薫でしょう。その意味ではまともに解説していたのは、私の知る限り闘莉王だけだったと思いました。

ちなみに、今日対戦するコスタリカは、非武装中立を掲げる国で常備軍を廃止しています。アメリカの没落で南米のほとんどの国が左派政権になったということもあり、現在も非武装中立を堅持しているのでした。また、LGBTや移民政策なども、カタールや日本よりはるかに進んでいます。

世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数(男女平等格差指数)の2022年版でも、コスタリカは12位ですが日本は116位です。コスタリカは軍事費が少ないということもあって経済的にも豊かな国なのです。少なくとも、ウクライナのアゾフ連隊のようなサポーターとは無縁な国のはずです。

サッカーはルールも簡単で、わかりやすく面白いスポーツなので、熱狂するのもわかりますが、しかし、サッカーの背後にある「世界」に目を向ける冷静さも忘れてはならないのです。「勝てば官軍」ではないのです。

追記:
コスタリカは後半の唯一のシュートが決勝点になった(それも吉田のクリアミスのボールを)という、如何にもサッカーらしいゲームでした。コスタリカVSスペインのときのスペインのように、日本は圧倒的にボールを支配しゲームをコントロールしていたにもかかわらず、スペインのような決定打が欠けていたのです。ニワカから見ても、海外でプレイしている選手が多いわりには、まだ個の力が足りないように思いました。いくら合掌してお題目を唱えても、浅野に2匹目のドジョウを求めるのは酷というものです。サッカーは偶然の要素が大きいスポーツですが、何だか運をドイツ戦で使い切っていたことにあとで気づかされたような試合でした。


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2022.11.27 Sun l 社会・メディア l top ▲