東京都八王子市の東京都立大南大沢キャンパスの構内で、宮台真司氏が何者かに襲われ、重傷を負うという事件がありました。

報道によれば、事件が起きたのは29日の午後4時15分過ぎで、宮台氏は4限目の講義を終えたあと、次のリモート講義のために、自宅に帰宅しようと駐車場方向に歩いていたときに背後から襲われたそうです。

現在、宮台氏の講義が大学で行われるのは火曜日のみで、犯人は、そういった宮台氏のスケジュールを把握していた可能性があるという、警察の見方を伝えている報道もありました。ただ、大学の構内と言っても、都立大の南大沢キャンパスは、地元民が普段から近道として自由に行き来していたようなところで、実際に犯人も、宮台氏を襲ったあと、植え込みを越えて駅と反対側の住宅街の方へ小走りで逃走したことが近辺のカメラの映像で確認されているそうです。

「宮台真司」という固有名詞を狙ったというより、「人を刺してみたかった」とか「殺してみたかった」というような、カミュの『異邦人』のような動機による事件と考えられなくもないのです。

もし、言論封殺を狙った思想的な背景によるものであれば、「赤報隊事件」や筑波大学の「悪魔の詩訳者殺人事件」のように、”難事件”などと言われ迷宮入りになる可能性はあるでしょう。通り魔や個人的な恨みによる犯罪であれば、早晩、犯人は捕まるような気がします。警察とはそんなものです。

事件後、ヤフコメなどには、遠回しに「宮台はやられて当然」みたいな書き込みが結構見られました。ミャンマー国軍に拘束され、先頃解放された映像作家の久保田徹氏についても、「自己責任」「自業自得」という書き込みがありましたが、もしかしたら、投稿した人間のかなりの部分は重なっているのかもしれません。

ヤフーは、先日、ヤフコメに投稿する際に携帯番号の登録を必須にしたことで、不適切な投稿が目に見えて減ったと自画自賛していましたが、ヤフコメが相変わらず下衆なネット民の痰壺、負の感情のはけ口であることにはいささかも変わりがないのです。水は常に低い方に流れるコメント欄を設置している限り、どんな対策を取っても同じです。不適切投稿の対策というのは、ヤフーの「やってますよ」というアリバイ作りにすぎないのです。

そんな中、公正取引員会が、ネットに記事を配信している新聞やテレビや雑誌などのメディアと、ヤフーやGoogleやLINEなどのポータルサイトやアプリの運営事業者との間で、適切な取り引きが行われているか、実態調査に乗り出すことになった、というニュースがありました。まず国内の新聞社やテレビ局、出版社など300社にアンケート調査を行い、今月7日までの回答を求めているそうです。

杉田水脈議員と同じような「ヘイトスピーチのデパート」(日刊ゲンダイ)と化しているヤフコメの背景に、ニュースをバズらせてページビューを稼ぎ、広告収入を稼ぐというヤフーの方針があるのはあきらかです。不適切な投稿を根絶するにはコメント欄を閉鎖するしかないのですが、ヤフーがコメント欄を閉鎖することは天地がひっくり返っても絶対にあり得ないでしょう。孫正義氏の”拝金思想”がそれを許すはずがないのです。

芦田愛菜が、ネットのCMで、ワイモバだと「5Gは無料です」とか「SIMはそのままで乗り換えできます」(eSIMの場合)とか「余ったデータを翌月に繰り越すことができます」などとアピールしていますが、そんなのは当たり前です。どこの会社でもやっていることです。むしろ、翌月繰り越しなどはワイモバが一番遅かったくらいです。それをあたかもワイモバイルのウリのようにCMで強調するところに、ヤフーという会社の体質がよく表れているように思います。

プラットフォーマーがユーザーに無断でネットの閲覧履歴などを収集し、それを個人の属性と紐づけて利用していることが問題視され、現在は一応、(有無を言わせないかたちで)ユーザーの承諾を得るようになっていますが、その閲覧履歴を自分で削除しようとしても、ヤフーの場合はほとんど不可能です。

Google(chrome)だと一括して削除することが可能ですが、ヤフーの場合は、1回にチェックを入れて削除できるのは30件だけです。

削除できるのは過去1年分のデータですが、たとえば、私の場合、「サイト閲覧履歴」は30万件ありました。全部削除しようと思うと、1件つづチェックを入れて削除する作業を1万回くり返さなければならないのです。「広告クリック履歴」は、6万件でした。こんなユーザーをバカにしたシステムはないでしょう。ヤフーに比べれば、Googleの方がまだしも良心的に思えるほどです。

ヤフコメはTwitterなどのSNSと比べて敷居が低く、その分低劣な投稿が集まりやすいのは事実でしょう。相互批判がないので、かつての2ちゃんねると比べても夜郎自大になりやすく、文字通り克己のない「バカと暇人」の巣窟になっているような気がします。

そもそもコメント欄に巣食う人間たちはただの・・・ユーザーなのか、という問題もあります。カルト宗教の信者たちが巣食っているのではないか、という指摘さえあるくらいです。

ヤフーの担当者が見ているのは、アクセス数だけです。彼らにとっては、アクセス数の多い記事ほどニュースの価値があるのです。彼らは、「もっとアクセスが多くなる記事を並べろ」「もっとバズらせろ」とハッパをかけられて、ニュースサイトを運営しているのです。そうやってニュースをマネタイズすることが仕事なのです。

記事を書いている記者たちは、自分たちが苦労して取材して書いた記事が、こんな扱いを受けていることに何も思わないのだろうかと思います。Yahoo!ニュースでは、記事の配信料もPV(閲覧数)などに基づいて計算されているそうです。記事をバズらせてPVを上げるためには、コメント欄はなくてはならないものです。「便所の落書き」という言葉がありましたが、記者たちが書いた記事は、まるで便所の尻ふきみたいに使われているのです。

一方で、前も書いたように、少しでもPVを稼ぐために、週刊誌やスポーツ新聞は、「便所の落書き」をまとめた”コタツ記事”を量産しています。炎上目的で書いているような”コタツ記事”も多いのです。

最近はさすがに、全国紙の記事にはコメントが投稿できないようになっていますが、ミソもクソも一緒にされることで、ネットの「バカと暇人」にオモチャにされ、いいように愚弄されていることには変わりがありません。ヤフーに記事を提供することで、記事の価値を貶め、その結果、読者離れを招いて、みずから首を絞めていることにどうして気が付かないのかと思います。

ウトロの放火事件のように、ヤフコメの中から英雄気取りの”突破者”が湧いて出ることだって当然あるでしょう。宮台真司氏は、「感情の劣化」ということを盛んに言っていましたが、GoogleがWeb2.0で提唱した「総表現社会」の行き着く先にあったのは、このようなネットで勘違いしたり、勘違いさせられた人間たちの、散々たる「感情の劣化」の光景なのです。しかも、それは、ネット特有の夜郎自大と結びついた、下衆の極みみたいなものになっているのです。


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