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新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、重症化リスクは少ないとして、ワクチン接種の呼びかけ以外はほとんど野放しの状態です。しかし、発熱外来には患者が詰めかけて診療制限する病院も出ていますし、病床使用率も軒並み上がっています。

NHKがまとめた12月21日現在の都道府県別の病床使用率を見ると、60%を超えている自治体は以下のとおりです。なお、全国平均も既に55%に達しています。

神奈川県 81%
滋賀県 77%
埼玉県 75%
群馬県 75%
茨城県 70%
愛知県 67%
栃木県 66%
岡山県 65%
福岡県 64%
青森県 61%
福島県 60%
愛媛県 60%
長崎県 60%

ワクチン接種状況も、デジタル庁が発表した接種率を見ても、3回目以降の接種率が大きく落ちているのがわかります。12月21日現在の数字は以下のとおりです。

※全人口に対する割合
1回目 77.81%
2回目 77.30%
3回目 67.54%
4回目 42.73%
5回目 16.44%

一方、ゼロコロナ政策を転換した中国では、転換した途端に感染が急拡大しており、朝日新聞は、「中国政府が21日に開いた内部会議の議事録が出回り、12月1~20日の国内の新型コロナ感染者数が2億4,800万人に達するとの推計が示された」と伝えていました。

朝日新聞デジタル
コロナ感染、20日間で2.5億人? 中国政府、内部会議で推計

また、別の記事では、「コロナによるとみられる死者が増え続けて」おり、「北京では火葬場の予約が埋まり、お別れが滞る事態も始まった」と伝えていました。「敷地内の火葬場に向かう道にも、ひつぎをのせた車の行列が出来ていた」そうです。

朝日新聞デジタル
中国で統計に表れぬ死、次々と 渋滞の火葬場、遺影の行列は1時間超

何だか習近平の「ざまあみろ」という声が聞こえてきそうです。「愚かな人民の要求を受け入れるとこのざまだ」「思い知るがいい」とでも思っているのかもしれません。

中国がどうしてこんなに感染が急拡大しているのかと言えば、隔離優先でワクチン接種が疎かにされたからだという見方があります。

日本でも日本版Qアノンや参政党のような反ワクチン派がいつの間にか市民権を得たかのように、「オミクロンは風邪と同じ(風邪よりリスクは低い)」「ワクチンなんか不要(無駄)」の風潮が広がっていますが、個人として重症化リスクを回避するためにはやはりワクチンは無駄ではなく、中国が置かれている状況から学ぶべきものはあるでしょう。

一方、入国制限の(事実上の)撤廃によって、外国人観光客も徐々に増えており、また、全国旅行支援などによって、国内旅行も大幅に回復、観光地は千客万来とまではいかないまでも、久々に賑わいが戻っているそうです。観光庁が発表した宿泊旅行統計調査でも、10月の宿泊者数は前年同月比38%増でした。

ところが、観光地ではせっかくの書き入れどきなのに、人出不足が深刻だそうで、ついこの前まで閑古鳥が鳴いていると嘆いていたことを考えれば、180度様変わりしているのでした。

産経ニュース
人手不足でホテルや旅館が悲鳴 「稼ぎ時なのに」予約や夕食中止に 外国人活用の動きも

記事ではこう書いていました。

本来なら稼ぎ時だが、人手不足のため宴会や夕食の受付をストップして朝食のみにしたり、客室の稼働を減らしたりしているといい、「清掃やベッドメイキングも、午後3時に終わらせるように、みんなで大慌てでやっている」と語る。


(略)需要急増に人材確保が追いつかず、帝国データバンクが全国2万6752社(有効回答企業数は 1 万1632社)を対象に行った調査「人手不足に対する企業の動向調査」(10月18~31日)によると、旅館・ホテル業では、65・4%が正社員が不足していると回答し、75・0%が非正社員が不足していると答えた。時間外労働が増加した企業は66・7%に及ぶという。


また、先日のテレビのニュースでも、人出不足のため、部屋食をやめてバイキングにしたり、浴衣やアメニティなどもお客が各自で持って部屋に入るなど、セルフサービスに切り替えて対応している温泉ホテルの「苦肉の策」が放送されていました。

でも、ひと言言いたいのは、今の人出不足は、従業員が自主的に離職からではなく、雇用助成金を手にしながら、最終的にはリストラして辞めさせたからでしょう。仕方ない事情があったとは言え、何をいまさらと言えないこともないのです。

しかも、話はそれだけにとどまらないのでないか。私は、以前、山で会った会社経営者だという人が言っていた、「コロナによって今まで10人でやっていた仕事が実は5人でもできるんだということに気づかされたんですよ」という言葉が思い出されてなりません。

アメリカのように、レイオフ(離職)された労働者に手厚い支援策があれば、職場に戻ってくる人間が少ないというのはわかりますが、日本の場合そうではないので、「職場に戻って来ない」のではなく、「戻れない」のではないか。あるいは他の業種に移ってしまったのではないか。

上記の観光ホテルにしても、「困っている」というのは建前で、これを機会に人件費を削って省力化したサービスに転換する、というのが本音かもしれません。日本人が集まらないので外国人を「活用」するというのも、賃金の安い方にシフトするのをそう言っているだけようにしか聞こえません。

もちろん、完全にコロナが終息したわけではなく、またいつ前に戻るかもわからないので積極的に雇用できないという事情もあるでしょう。

今の物価高にしも同じです。円安だからという理由でいっせいに値上げしたにもかかわらず、今のように再び円高に戻っても、価格を戻すわけではないのです。それどころか、今度はエネルギー価格の高騰を理由に、第二弾第三弾の値上げもはじまっています。まるで円安やエネルギー価格の高騰を奇貨に、横並びでいっせいに値上げするという、「赤信号みんなで渡れば怖くない」”暗黙の談合”の旨味を知ったかのようです。この際だからと値上げラッシュを演じているような気がしないでもありません。でも、資本主義の法則に従えば、それは最終的には自分たちの首を絞めることになるのです。

今まで日本の企業は、原価が上がっていたにもかかわらず、消費者の買い控えと低価格志向によって価格に転嫁できなかったと言われていました。そのため、賃上げもできず、いわゆるデフレスパイラルの負の連鎖に陥ったと言われていたのです。しかし、一方で、企業の内部留保は拡大の一途を辿っていました。

岸田首相が経団連に賃上げを要請しても、経団連に加盟しているのは僅か275社で、誰でも知っているような大企業ばかりです。日本では、大企業に勤める労働者は約30%で、残りの70%は賃上げなど望めない中小企業の労働者です。しかも、賃労働者は4,794万人しかいません。年金生活者や自営業者など、最初から賃上げとは関係ない人たちも多いのです。そんな中で、今のように生活必需品に至るまで横並びの値上げが進めば、貧困や格差がいっそう広がって深刻化するのは目に見えています。

折しも、昨日、11月の消費者物価指数が3.7%上昇し、これは40年11カ月ぶりの水準だった、というニュースがありました。前も書きましたが、これでは貧乏人は死ねと言われているようなものです。ところが、帝国データバンクの調査によれば、来年の1月から4月までに値上げが決まっている食品は、既に7,152品目にのぼるそうです。年が明ければ、さらなる値上げラッシュが待ち受けているのです。

このように、資本が臆面もなく、半ば暴力的に、欲望(本音)をむき出しにするようになっているところに、私は、資本主義の危機が表われているような気がしてなりません。

仮に負のスパイラルに陥っているのであれば、まず今の貧困や格差社会の問題を改善することが先決でしょう。たとえば、低所得者に毎月現金を支給するとか、全体的に底上げして購買力を上げない限り、エコノミストたちが言うように、企業も価格転嫁できないし、価格転嫁できなければ賃上げもできないでしょう。そういう循環が生まれないのは誰でもわかる話です。

収入が増えないのに物価だけが上がれば、多くの国民が追い詰められ、社会に亀裂が生じるのは火を見るよりあきらかです。この異次元の物価高=資本主義の危機に対して、世界各地では大衆蜂起とも言えるような抗議デモが起きていますが、ワールドカップの会場でゴミ拾いしてお行儀のよさをアピールするような日本ではその兆候すらありません。それどころか、逆に軍拡のために増税や社会保障費の削減が取り沙汰されているあり様です。このままでは座して死を待つしかないでしょう。

くり返しになりますが、今まで価格転嫁できなかったからと、万単位の品目がいっせいに値上げされ、そのくせ、大企業は史上最高の516兆円(2021年)の内部留保を溜め込んでいるのです。その一方で、相対的貧困率は15.4%にも達し、約1,800万人の国民が、単身者世帯で約124万円、2人世帯で約175万円、3人世帯で約215万円、4人世帯で約248万円の貧困線以下で生活しているのです。

最後に再び『対論 1968』から引用します。と言って、私は、『対論 1968』を無定見に首肯しているわけではありません。むしろ、後ろの世代としては違和感を覚える部分も多いのです。ただ、いくつになっても愚直なまでに青臭い彼らの”状況論”には、耳を傾けるべきものがあると思っています。本土決戦を回避してのうのうと生き延びた親たちへのアンチ・テーゼとして新左翼の暴力があった、という解釈などは彼らにしかできないものでしょう。それは感動ですらあります。

笠井 (略)アメリカでは、階級脱落デクラセ化した産業労働者のアイデンティティ回復運動が、現時点ではトランプ支持派として顕在化している。そうした力は右にも左にも行きうるし、”68年”には日本でも全共闘として左翼的な方向に進んだ。しかし今の日本には、仮にそういった動きが現れたところで、左翼側にそれを組織できるヘゲモニー力は存在しないから、アメリカと同じで排外主義的な方向に流れる可能性の方が高い。


笠井 ”主権国家の解体”は、我々がそれを望もうと望むまいと、従来のそれがどんどん穴だらけになって弱体化していくし、あとは単にどういう崩れ方をするかというだけの問題になってきている。ナショナリズムが声高に主張されたり、国家による管理の強化がおこなわれたりするのは、そういう解体過程における過渡的な逆行現象の一つにすぎないと思う。



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