
先日のゼレンスキー大統領のアメリカ訪問は、何だったんだと思えてなりません。ゼレンスキー大統領がワールドカップの決勝戦の前に演説することをFIFAに申し出て拒否されたというニュースがありましたが、アメリカ議会でのまさに元俳優を地で行くような時代がかった演説と映画のシーンのような演出。
しかし、アメリカ訪問の目玉であったパトリオットの供与も、報道によれば1基のみで、しかも旧型だという話があります。1基を実践配備するには90人の人員が必要だけど、運用するのは3人で済むそうです。あのアメリカ訪問の成果がこれなのか、と思ってしまいました。
もちろん、配備や運用には兵士の訓練が必要で、それには数ヶ月かかるそうですが、「訓練を受ける人数や場所はまだ未定」だそうです。
今回の中間選挙で下院の多数派を奪還した共和党は、ウクライナへの軍事支援に対して反対の議員が多く、国民の間でも反対が50%近くあるという世論調査の結果もあります。
折しも今日、ウクライナが再びロシア本土を攻撃したというニュースがありました。ゼレンスキー大統領は、奪われた領土を奪還しない限り、戦争は終わらないと明言しています。
今回の大山鳴動して鼠一匹のような「電撃訪問」には、アメリカがウクライナ支援に対して、徐々に腰を引きつつある今の状況が映し出されているような気がしないでもありません。
反米のBRICS側からの視点ですが、アメリカとウクライナの関係について、下記のような指摘があります。私たちは日頃、欧米、特にアメリカをネタ元にした報道ばかり目にしていますが、こういった別の側面もあるということを知る必要があるでしょう。
BRICS(BRICS情報ポータル)
米国企業は、ウクライナの耕地の約 30% を所有しています
記事の中で、執筆者のドラゴ・ボスニック氏は、次のように書いていました。
米国の3つの大規模な多国籍企業 (「カーギル」、「デュポン」、「モンサント」) は合わせて、1,700 万ヘクタールを超えるウクライナの耕作地を所有しています。
比較すると、イタリア全体には 1,670 万ヘクタールの農地があります。要するに、3 つのアメリカ企業は、イタリア全土よりも多くの使用可能な農地をウクライナに所有しています。ウクライナの総面積は約60万平方キロメートルです。その土地面積のうち、170,000 平方キロメートルが外国企業、特に大多数が米国に本拠を置いている、または米国が資金を提供している欧米企業によって取得されています。(略)オーストラリアン・ナショナル・レビューによる報告(ママ)米国の 3 つの企業が、6,200 万ヘクタールの農地のうち 17 を 1 年足らずで取得したと述べています。これにより、彼らはウクライナの総耕地の 28% を支配することができました。
また、ドラゴ・ボスニック氏は、ロシア派のヤヌコーヴィチ政権を倒した2014年の「ユーロマイダン革命」のことを「ネオナチによるクーデター」と表現していました。
ウクライナでは、2004年の「オレンジ革命」と、その10年後の「ユーロマイダン革命」という、欧州派による二つの政治運動があり、現在は「ユーロマイダン革命」後の政治体制下にあります。ただ、それらが選挙で選ばれた政権を倒したという意味においては、「クーデター」という言い方は必ずしも間違ってないと思います。しかも、欧州派が掲げたのは、ありもしない「民族」を捏造したウクライナ民族主義でした。それが「ネオナチ」と言われる所以です。
奪われた領土を奪還するまで戦争はやめないというゼレンスキー大統領の主張は、「オレンジ革命」や「ユーロマイダン革命」で掲げられたウクライナ民族主義に依拠した発言であるのは間違いないでしょう。しかし、ウクライナは、ロシア語しか話さないロシア語話者が3割存在し、公用語も実質的にウクライナ語とロシア語が併用されていた多民族国家でした。ゼレンスキー自身も、母語はロシア語でした。しかし、「ユーロマイダン革命」以降、ウクライナ民族主義の高まりから、公的な場や学校やメディアにおいてロシア語の使用が禁止されたのでした。多民族国家のウクライナに偏狭な民族主義を持ち込めば、排外主義が生まれ分断を招くのは火を見るよりあきらかです。
そんなウクライナ民族主義の先兵として、少数民族のロマやロシア語話者や性的マイノリティや左派活動家などを攻撃し、誘拐・殺害していたのがアゾフ連隊(大隊)です。アゾフ連隊のような準軍事組織(民兵)の存在に、ウクライナという国の性格が如実に示されているような気がしてなりません。
最近やっとメディアに取り上げられるようになりましたが、一方でウクライナには、ヨーロッパでは一番と言われるくらい旧統一教会が進出しており、国際勝共連合がアゾフ連隊を支援していたという話もあります(国際勝共連合は否定)。それに、ウクライナは、侵攻前までは人身売買や違法薬物が蔓延する、ヨーロッパでもっとも腐敗した“ヤバい国”である、と言われていました。ウクライナにおいて、オリガルヒ(新興財閥)というのは、違法ビジネスで巨万の富を築いた、日本で言えば”経済ヤクザ”のフロント企業のような存在です。腐敗した社会であるがゆえに、ヤクザが「新興財閥」と呼ばれるほど経済的な権益を手にすることができたのです。
私は、サッカーのサポーターから派生したアゾフ連隊のような準軍事組織について、ハンナ・アレントが『全体主義の起源』で書いていた次の一文を想起せざるを得ませんでした。アゾフ連隊が、ハンナ・アレントが言う「フロント組織」の役割を担っていたように思えてなりません。
フロント組織は運動メンバーを防護壁で取り巻いて外部の正常の世界から遮断する、と同時にそれは正常な世界に戻るための架け橋になる。これがなければ権力掌握前のメンバーは彼らの信仰と正常な人々のそれとの差異、彼ら自身の虚偽の仮構と正常な世界のリアルティとの間の相違をあまりに鋭く感じざるを得ない。
また、牧野雅彦氏は、『精読 アレント「全体主義の起源」』(講談社選書メチエ)の中で、ハンナ・アレントが指摘した「フロント組織の創設」について、次のように注釈していました。
非全体主義的な外部の世界と、内部の仮構世界との間の媒介、内外に対する「ファサード」、一種の緩衝装置としてフロント組織は機能する。(略)この独特の階層性が、(略)全体主義のイデオロギーの機能、イデオロギーと外的世界のリアルティとの関係・非関係を保証するのである。
日本のメディアもそうですが、ジャーナリストの田中龍作氏なども、ウクライナは言論の自由が保証された民主国家だと盛んに強調しています。しかし、それに対して、アジア記者クラブなど一部のジャーナリストが、でまかせだ、ウクライナの実態を伝えていない、と反論しています。そもそも、アゾフ連隊のような準軍事組織が存在したような国が民主国家と言えるのか、という話でしょう。
ゼレンスキー大統領の停戦拒否、徹底抗戦の主張に対して、さすがにアメリカも腰が引けつつあるのではないか。そんな気がしてなりません。
とまれ、どっちが善でどっちが悪かというような“敵・味方論”は、木を見て森を見ない平和ボケの最たるものと言えるでしょう。
何度も言いますが、私たちは、テレビで解説している事情通や専門家のように、国家の論理に与するのではなく、反戦平和を求める地べたの人々の視点からこの戦争を考えるべきで、それにはロシアもウクライナもないのです。
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