広島拘置所より
(『紙の爆弾』2023年1月号・上田美由紀「広島拘置所より」)


■YMO


YMOのドラム奏者の高橋幸宏氏が、今月の11日に誤えん性肺炎で亡くなっていたというニュースがありました。高橋氏は、2020年に脳腫瘍の手術した後、療養中だったそうで.す。享年71歳、早すぎる死と言わねばなりません。

若い頃、初めてYMOを聴いたとき、その”電子音楽”に度肝を抜かれました。人民服を着て「東風」や「中国女」を演奏しているのを見て、一瞬、毛沢東思想マオイズムか、はたまたポスト・モダンに媚びるオリエンタリズムかと思いました。「テクノポップ」なんて、むしろ悪い冗談みたいにしか思えませんでした。でも、今ではいろんな意味で「テクノポップ」が当たり前になっています。YMOは時代の一歩先を行っていたと言えるのかもしれません。ただ、長じて「テクノポップ」がYMOのオリジナルではないことを知るのでした。

高橋幸宏氏は、昨年の6月にTwitterで「みんな、本当にありがとう」とツイートしていたそうですが、癌で闘病している坂本龍一も、先月配信されたソロコンサートで、「これが最後になるかもしれない」とコメントしていたそうです。

前も書いたように、みんな死んでいくんだな、という気持をあらためて抱かざるを得ません。

■手記


また、いわゆる「鳥取連続不審死事件」の犯人とされ、2017年に死刑が確定した上田美由紀死刑囚が、14日、収容先の広島拘置所で「窒息死」したというニュースもあり、驚きました。

Yahoo!ニュースに下記のような記事が転載されていますが、Yahoo!ニュースはすぐに記事が削除されて読めなくなりますので、主要な部分を引用しておきます。

Yahoo!ニュース
TBSテレビ
鳥取連続不審死事件 広島拘置所に収容の上田美由紀死刑囚(49)が14日に死亡 窒息死 法務省が発表

法務省によりますと、上田死刑囚はきのう午後4時過ぎ、収容先の広島拘置所の居室で食べ物をのどに詰まらせむせた後、倒れたということです。

職員が口から食べ物を取り除くなどしたものの意識がなく、救急車で外部の病院に搬送されましたが、およそ2時間後、死亡が確認されました。死因は窒息でした。

遺書などは見つかっていないということで、法務省は、自殺ではなくのどに食べ物を詰まらせたことが原因とみています。


上田美由紀は、月刊誌『紙の爆弾』に2014年10月号から8年以上手記を連載していました。今月7日に発売された2月号の同誌には、法学者で関東学院大学名誉教授の足立昌勝氏の「中世の残滓 絞首刑は直ちに廃止すべきである」という記事が掲載されていましたが、上田死刑囚の手記は休載になっていました。

先月発売された2023年1月号の「第82回」の手記が最後になりましたが、その中では次のようなことが書かれていました。

 官の売店の物も、次々と値上げです。トイレなどにも使うティッシュも、108円だったのが116円になったのはとても大変なことです。官の支給のチリ紙と違い、量も多く、8円は大きな差です。官の支給ではとても足りず、この生活で、チリ紙はお金と同じくらい大切なものです。この数ヶ月、値上げの告知を月に何回も受け、そのたびにゾッとしています。


自殺ではなく食べたものを喉に詰まらせた窒息死だそうですが、上田死刑囚はまだ49歳です。そんなことがあるのかと思いました。

■『誘蛾灯』


私は、2014年にこのブログで、青木理氏が事件について書いた『誘蛾灯』(講談社)の感想文を書いています。それは、二審で死刑の判決が言い渡された直後でした。

関連記事:
『誘蛾灯』

事件そのものは、青木氏も書いているように、女性が一人で実行するのは無理があるし、検察が描いた事件の構図も矛盾が多いのですが、しかし、上田死刑囚には弁護費用がなかったため、国選弁護人が担当していました。青木氏は、「大物刑事裁判の被告弁護にふさわしい技量を備えた弁護団」とは言い難く、「相当にレベルの低い」「お粗末な代物」だったと書いていました。上田死刑囚は、無罪を主張していたのですが、その後、最高裁でも上告が却下され死刑が確定したのでした。

上の関連記事とダブりますが、私は、記事の中で次のように書きました。

(略)上田被告は、死刑判決が下された法廷でも、閉廷の際、「ありがとう、ございました」と言って、裁判長と裁判員にぺこりと頭を下げたのだそうです。著者は、そんな被告の態度に「目と耳を疑った」と書いていました。上田被告は、そういった礼儀正しさも併せ持っているのだそうで、その姿を想像するになんだかせつなさのようなものさえ覚えてなりません。

これで二審も死刑判決が出たわけですが、青木理氏が言うように、「遅きに失した」感は否めません。事件の真相はどこにあるのか。無罪を主張する被告の声は、あまりにも突飛で拙いため、まともに耳を傾けようする者もいません。被告に「無知の涙」(永山則夫)を見る者は誰もいないのです。そして、刑事裁判のイロハも理解してない素人裁判員が下した極刑が控訴審でも踏襲されてしまったのでした。そう思うと、よけい読後のやりきれなさが募ってなりませんでした。


そして、予期せぬ死去のニュースに、再びやりきれない思いを抱いているのでした。
2023.01.15 Sun l 訃報・死 l top ▲