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■所得制限撤廃で8兆円が必要
岸田首相が突如として打ち出した「異次元の少子化対策」が、具体的に進められようとしています。ここでも立憲民主党をはじめとする野党は、推進側にまわり岸田首相にハッパをかけているのでした。
現在の子ども手当(児童手当)は、3歳未満の子ども1人につき月額1万5千円、3歳~小学生までは1万円(第3子以降は1万5千円)、中学生は1万円が支給されています。一方、所得制限があり、子ども2人と年収103万円以下の配偶者の場合、年収ベースで960万円が所得制限の限度額で、それ以上は児童1人当たり月額一律5000円が特例給付されています。ただ、昨年(2022年)の10月に所得制限が強化され、夫婦どちらかが年収1200万円以上の場合は、特例給付の対象外になったのでした。
ところが、僅か数ヶ月で、「異次元の少子化対策」として、大幅に緩和し増額する方針があきらかにされたのでした。
報道によれば、現在、政府・自民党は、第2子以降の支給額の増額、支給対象年齢を高校生までに引き上げ、所得制限の撤廃等を検討しているそうです。
具体的には、第2子を3万円、第3子を6万円とする案が検討されており、最大で3兆円が必要になるそうです。また、支給対象を高校生まで引き上げたり、所得制限を撤廃したりすれば、子ども手当(児童手当)に必要な予算は、2022年度の約2.0兆円から5.8兆円へと一気に3倍近くにまで膨れ上がるそうです。
それ以外に、自治体でも医療費を無償にしたり、独自で子ども手当を支給したりしていますので、子どものいる家庭では、結構な金額の手当て(公金)が入る仕組みになっているのです。
もちろん、そのツケはどこかにまわってくるのです。「異次元の少子化対策」の財源として、既に与党内から消費税の引き上げの声が出ています。社会全体で子どもを支えるという美名のもと、消費増税が視野に入っているのは間違いないでしょう。
少子化が深刻な問題であるのは論を俟ちませんが、しかし、お金を配れば子どもを産むようになるのかという話でしょう。そもそも結婚をしない生涯未婚率も年々増加しているのです。
内閣府が発表した最新の「少子化社会対策白書」によれば、1970年には男性1.7%、女性3.3%だった生涯未婚率が、2020年には男性28.3%、女性17.8%まで増加しているのです。結婚しないお一人様の人生は、もはやめずらしくないのです。特に男性の場合、4人に1人が生涯独身です。しかも、近い将来、男性の3人に1人、女性の4人に1人が結婚しない時代が訪れるだろうと言われています。
軍備増強と軌を一にして「異次元の少子化対策」が打ち出されたことで、お国のため産めよ増やせよの時代の再来かと思ったりしますが、いづれにしても価値観が多様化した現代において、お金を配れば出産が増えると考えるのは、如何にも官僚的な時代錯誤の発想と言わねばなりません。
顰蹙を買うのを承知で言えば、”副収入”と言ってもいいような、結構な金額の手当て(公金)を手にしても、結局、子どものために使われるのではなく、ママ友とのランチ代や家族旅行の費用や、はては住宅ローンの補填などに消えるのではないかという意地の悪い見方もありますが、中でも万死に値するような愚策と言うべきなのは、立憲民主党などが要求している所得制限の撤廃です。
そこには、上か下かの視点がまったくないのです。この格差社会の悲惨な状況に対する眼差しが決定的に欠けているのです。もっと厳しい所得制限を設けて、その分を低所得の子ども家庭に手厚く支給するという発想すらないのです。
■深刻化する高齢者の貧困
「異次元の少子化対策」も大事かもしれませんが、高齢者や母子家庭や非正規雇用の間に広がる貧困は、今日の生活をどうするかという差し迫った問題です。でも、真摯にその現実に目を向ける政党はありません。野党も票にならないからなのか、貧困問題よりプチブル向けの大判振舞いの施策にしか関心がありません。だから、成田悠輔のような”下等物件”(©竹中労)の口から「高齢者は集団自決すればいい」というような、身の毛もよだつような発言が出るのでしょう。
成田悠輔の発言は、古市憲寿と落合陽一が以前『文學界』の対談で得々と述べた、「高齢者の終末医療をうち切れ」という発言と同じ背景にあるものです。人の命を経済効率で考えるようなナチスばりの“優生思想”は、ひろゆきや堀江貴文なども共有しており、ネット空間の若者たちから一定の支持を集めている現実があります。そういった思考は、現在、世情を賑わせている高齢者をターゲットにした特殊詐欺や強盗事件にも通じるものと言えるでしょう。
しかし、テレビ離れする若者を引き留めようと、無定見に彼らをコメンテーターに起用したメディアは、ニューヨークタイムズなど海外のメディアが成田悠輔の発言を批判しても、「世界中から怒られた」などとすっとぼけたような受け止め方しかできず、成田自身も何事もなかったかのようにテレビに出続けているのでした。その鈍磨な感覚にも驚くばかりです。
■ネットの卓見
今日、ネットを見ていたら、思わず膝を打つような、次のようなツイートが目に止まりました。と同時に、こういう無名の方の書き込みを見るにつけ、あたらめて知性とは何か、ということを考えないわけにはいきませんでした。
Kfirfas
@kfirfas
日本は特殊なんですよねえ。官僚制社会主義の下部構造(国内)と、満州モデルの市場資本主義(対米)の上部構造で階層化していて、税金をどう使っているか、政治が正しく行われているかを、監視する市民や言論が育たない。権益にまみれたメディアとコマーシャルの帝国。深い視座など求めないんです。
— Kfirfas (@kfirfas) February 18, 2023
この、世界に稀な社会は、上下関係を監視しないで横を監視するんだよね。官は事業を作って国益を出す親方で、国民はその汁をすすって生きるのだけど、汁で満足できる仕組みができあがってるうえ、国民は構造批判を嫌う。政治・金融・事業の回転ドアの別世界を、盲目的に尊敬すらしている。 https://t.co/OVdNL07R9q
— Kfirfas (@kfirfas) February 19, 2023
中間の調整弁に力があることが民主主義のはずだけど、日本では、上位の金の回転ドアの旨い汁を下位ですすれることが民主主義であるかのような歪んだ思想が幅を利かせている。それは民主主義の能力ではなくて、民主主義を含んだ大きな構造の設計にすぎない。構造上に特に民主主義が不可欠ではない。 https://t.co/F0ddnfctuk
— Kfirfas (@kfirfas) February 19, 2023
追記:
2月20日、立憲民主党と日本維新の会が、現行の児童手当に関して、所得制限を廃止する改正案を衆議院に共同で提出したというニュースがありました。所得制限を廃止するということは、上記で書いたように、モデル家庭で年収960万から一律5000円の特例給付になるケースや、年収1200万円から特例給付も対象外になるケースを廃止するということです。つまり、そんな高所得家庭を対象にした”救済”法案なのです。にもかかわらず、法案提出のパフォーマンを行っていた立憲の女性議員は、「これは社会全体で子育て家庭を応援するという大きなメッセージになります」と自画自賛していました。私は、それを見て立憲民主党は完全に終わったなと思いました。社会全体で応援しなければならないのは、先進国で最悪と言われる格差社会の中で、最低限の文化的な生活を営むこともできないような貧困にあえぐ人々でしょう。そんな1千万人も喃々とする人々は、今の物価高で文字通り爪に火を灯すような生活を強いられているのです。明日をも知れぬ命と言っても決してオーバーではないのです。政治がまず目を向けなければならないのはそっちでしょう。