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(Wikipediaより)


■SVBの破綻


3月10日、総資産が2090億ドル(約28兆円)で、全米16位の資産規模をほこるアメリカシリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻したというニュースがありました。SVBの破綻は、FRB(米連邦準備理事会)の量的緩和(QE)から量的引締め(QT)への、金融政策の転換による急速な利上げで資金調達が悪化したためと言われています。

さらに2日後、総資産が1103億ドル(約15兆円)で、全米29位のシグネチャーバンクでも取り付け騒ぎが起こり、破綻に追い込まれたのでした。シグネチャーバンクの破綻は、もともと暗号資産(仮想通貨)関連の顧客が多く、経営基盤が脆弱な中で、SVBの破綻で信用不安が高まったためと言われています。

SVBの破綻について、金融当局や市場関係者は、「特殊事例」で、信用不安につながる可能性は低いと言っていたのですが、その舌の根が乾かぬうちに”連鎖倒産”が起きたのです。もっとも、考えてみれば、金融当局や市場関係者が信用不安が起きるなどと言うわけがないのです。彼らは、リーマンショックのときも同じことを言っていたのです。

3月12日のシグネチャーバンクが破綻した当日、アメリカ財務省とFRBと米連邦預金保険公社(FDIC)は、通常の預金保険では1口座当たり最大25万ドルまでしか保護されないのですが、今回は25万ドルを超えても全額保護するとの声明を発表したのでした。それが信用不安を防ぐための特例処置であり、表向きの”楽観論”とは裏腹に、深刻な事態を懸念しているのはあきらかです。

■経済制裁の返り血


このようにアメリカ経済は、未曾有のインフレに見舞われて疲弊し、金融システムにも軋みが生じはじめているのでした。もちろん、それはアメリカだけではありません。いわゆる西側諸国はどこも同じで、資源高やエネルギー価格の高騰によって、国民生活はニッチもサッチもいかなくなっているのです。そのため、労働者は賃上げを要求して立ち上り、中には治安当局と衝突するような”暴動”まで起きているのでした。

この遠因にあるのは、言うまでもなくウクライナ戦争に伴うロシアへの経済制裁です。言うなれば、西側の国民たちはその返り血を浴びているのです。

■中国の存在感


そんな中で、SVBが破綻した3月10日、2016年から断交していたイランとサウジアラビアが、中国の仲介によって、外交関係の正常化で合意したというニュースがありました。西側諸国がロシア制裁で自縄自縛に陥る中で、中国の存在感がいっそう高まっているのでした。その発表に対して、「ホワイトハウスのジョン・カービー米国家安全保障会議(NSC)の戦略広報調整官は、アメリカ政府は『地域の緊張関係を緩和させようとするあらゆる取り組み』を支持すると述べた」(BBCより)そうです。また、国連のアントニオ・グテーレス事務総長も、「中国による仲介努力に感謝し、『湾岸地域に持続する平和と安全を確保』するための努力を支援する用意があると、報道官を通じて述べた」(同)そうです。国連のロシア非難決議では、世界の全人口の半分にも満たない国しか賛成しなかったのですが、中国は中東においても、(アメリカに代わる)その影響力を見せつけたと言っていいでしょう。

BBC NEWS JAPAN
イランとサウジアラビア、7年ぶりに外交関係正常化で合意 中国が仲介

さらには、今日(3月14日)、びっくりするニュースが飛び込んで来たのでした。それは、次のようなものです。

Newsweek ニューズウィーク日本版
中国・習近平、ウクライナ・ゼレンスキーと会談へ

米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は13日、中国の習近平国家主席が、ロシアのウクライナ侵攻後初めてウクライナのゼレンスキー大統領と会談する予定だと伝えた。

WSJが関係者の話として伝えたところによると、ゼレンスキー大統領との会談は、習主席が来週、ロシアを訪問してプーチン大統領と会談した後に行われる公算という。


報道によれば、もともと「中国はロシアとウクライナの和平交渉に積極的に関与する姿勢を示していて、ゼレンスキー大統領も習主席との対話を望んできた」そうです(ロイターより)。しかし、日本のメディアは、中国は台湾や日本を攻めて来ると言うばかりで、そんなことはひと言も報じていません。そのため、こういったニュースが流れると、文字通り青天の霹靂のような気持になるのでした。

一方、アメリカ国務省のプライス報道官は、今回の報道を受けて、「ウクライナ侵攻を終わらせるために中国が影響力を行使することを望む」と述べたそうです(同)。

■アメリカの落日と中国の台頭


こういった発言を見てもわかるとおり、ウクライナ戦争に限らず世界秩序の維持において、アメリカが完全に当事者能力を失っていることがわかります。ウクライナ戦争においても、バイデン政権がやって来たことは、ただ火に油を注ぎ戦火を拡大することだけでした。

バイデン政権が当事者能力を失っていることについては、国内でも懸念の声が上がっています。今やウクライナへの軍事支援に賛成している国民は半分もいないのです。

アメリカのプロパガンダを真に受けて、「ウクライナが可哀そう、ロシアは鬼畜」という印象操作の虜になり、「勝つか負けるか」「ウクライナかロシアか」の戦時の言葉でしかものごとを考えることができない日本国民には信じられないかもしれませんが、アメリカ国内では下記のようなテレビ番組さえ存在しているのでした。


私は、昨年の侵攻直前、このブログで、ウクライナ侵攻を目論むロシアの強気の背景には、アメリカが唯一の超大国の座から転落して、世界が多極化する歴史的転換があると書きました。それを象徴するのがあの惨めなアフガン撤退ですが、今回のウクライナ戦争でアメリカの威信は完全に地に堕ちたと言っても過言ではないでしょう。

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世界の覇権は100年ごとに移譲するという説がありますが、あえて挑発的な言い方をすれば、300年ぶりに中国が世界史の中心に返り咲くのはもはやあきらかで、それがわかってないのは、カルト(ネトウヨ)的思考にどっぷりと浸かり歴史的な方向感覚を失っている日本国民だけです。

日本人は見たくないものからは目を背ける怯懦な傾向がありますが、しかし、好むと好まざるとにかかわらず、世界の歴史は大きく変わろうとしているのです。今のような対米従属一辺倒のカルト(ネトウヨ)的思考に呪縛された状態では、日本が”東夷の国”として歴史に翻弄されるのは目に見えているような気がします。


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