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熊野古道(public domain)


■日本のアニメが大ヒット


昨日の各テレビは、中国で公開がはじまった日本のアニメ「スラムダンク」に観客が殺到して徹夜組まで出ている、というニュースを伝えていました。既に前売り券の販売だけでも22億円を超えており、大ヒットは間違いないそうです。

テレビ朝日の「報道ステーション」では、上海支局長が現地から中継し、「中国全体の1日の映画興行収入20億円のうち、約86%にあたる18億円をスラムダンクが占めている」「アニメは日中の架け橋”と一言で括れないほど偉大な力を持っていて、その中でもスラムダンクは別格」だと伝えていました。

中国では、既に新海誠監督の「すずめの戸締まり」が大ヒットしており、日本のアニメ映画としては歴代1位を記録したそうです。4月17日の時点で、中国での興行収入は7億5200万人民元、日本円にして146億円余りを記録。一方、日本では4月16日の時点で144億7900万円で、中国での興行収入が日本のそれを上回ったそうです。

また、「報道ステーション」は、経団連が「日本のゲームやアニメ、漫画などの海外市場規模を、2033年に現在の3~4倍の15兆~20兆円に拡大させる目標を掲げていることも伝えていました。

私は、このニュースを見て、「あれっ、中国と戦争するんじゃなかったの?」と思いました。話が全然違うのです。戦争する国に対して、揉み手してソロバン勘定しているのです。

日頃、“鬼畜中ロ”みたいに戦争を煽っていながら、何と節操のない話だろうと思いました。

■日本は「売る国」


日本はもう「買う国」ではありません。「売る国」なのです。それも安く売る、年中バーゲンセールをやっているような国です。

テレビは、銀座のユニクロに外国人観光客が殺到しているというニュースもやっていました。開店前から外国人観光客が並んでいるのだそうです。

ユニクロは今や世界中に出店しています。観光で来てわざわざ買うほどめずらしいものではないはずです。どうしてかと言えば、自分たちの国で買うより日本のユニクロが安いからです。日本で買った方がお得なのです。

そこで出て来るのは、このブログでも紹介したことがありますが、「ビックマック指数」です。

「ビックマック指数」は、それぞれの国で販売されているビッグマック1個当たりの価格を比較し、それによって購買力平価、つまり、「お金の価値」を比較した指数です。

2022年のビックマック指数の20位までは以下のとおりです。
※引用元:https://ecodb.net/ranking/bigmac_index.html
※2022年7月時点・1ドル=137.87円で計算。
※順位のみ。価格等は省略。

 1位 スイス
 2位 ノルウェー
 3位 ウルグアイ
 4位 スウェーデン
 5位 カナダ
 6位 アメリカ
 7位 レバノン
 8位 イスラエル
 9位 アラブ首長国連邦
10位 ユーロ圏
11位 オーストラリア
12位 アルゼンチン
13位 サウジアラビア
14位 イギリス
15位 ニュージランド
16位 ブラジル
17位 バーレーン
18位 シンガポール
19位 クウェート
20位 チェコ


日本は20位どころか、何と54ヶ国中41位でした。サッカーで対戦したような国をあげれば、コスタリカ、ニカラグア、クロアチア、チリ、ポーランド、ペル―、カタール、メキシコなども日本よりビッグマックが高いのです。中国、韓国、スリランカ、タイ、ベトナム、パキスタン、ヨルダンも日本より上です。外国人観光客が銀座のユニクロに行列を作るのは当然なのです。

■日本人の節操のなさ


今にはじまったことではありませんが、やたら「ニッポン、凄い!」と自演乙するのも、節操のなさと自信のなさの裏返しと言えるのかもしれません。

横浜DeNAは、3月、3年前のレッズ時代にサイ・ヤング賞を獲得した前ドジャースのトレバー・バウアーと推定年俸300万ドル(約4億円)で契約を結んだことを発表し、大きな話題になりました。

サイ・ヤング賞を獲得した大リーグの現役投手が、日本のプロ野球のマウンドに立つのは61年ぶり2度目ですが、そこにはバウアーが抱える個人的な事情があったのでした。

バウアーは、2021年に知人女性に対するドメスティックバイオレンスで、メジャーリーグ機構から324試合の出場停止処分を受け(その後、処分は194試合に短縮)、今年1月にドジャースとの契約が解除されたのでした。しかし、DVにきびしいメジャーでは、新たにバウアーと契約を結ぶ球団は現れなかったのでした。そのため行き場を失ったバウアーは、日本にやって来たというわけです。

そして、「日本でプレーすることが夢だった」と見え透いたリップサービスを行なったり、グローブも持参しなかったため、日本で宮崎産の黒毛和牛を使った専用グローブを発注したりして、単細胞な日本の野球ファンの心を掴んだのでした。4月16日、横須賀スタジアムで行われたイースタン・リーグ西武戦に先発した際には、2軍戦では異例の2680人の観客が詰めかけたそうです。

YouTubeでは、「ニッポン、凄い!」の自演乙を利用した(つけ込んだ)、外国人による日本賛美の動画がキラーコンテンツになっています。日本の食べ物の美味しさに涙したとか、景色のすばらしさに恋したとか、日本人の優しさに感動したという、何でも涙したり恋したりするあの動画です。そして、もう自分の国に帰りたくないという決め言葉で、日本人の琴線にとどめを刺して再生回数の爆上げを狙うのです。バウアーのおべんちゃらも同じようなものでしょう。でも、彼にとって日本は、あくまで一時凌ぎの腰掛にすぎないのです。

一方、日本での熱狂に対して、海外メディアは多分に冷めた目で見ているという記事もありました。

Yahoo!ニュース
中日スポーツ
NPBデビューのバウアー、快投も海外メディアは冷淡 「日本のファンはDV疑惑もお構いなしのようだ」【DeNA】

(略)過去に家庭内暴力(DV)疑惑が伝えられたこともあり、海外メディアの報道は冷ややかな論調が目立った。英紙デーリーメール(電子版)は「スキャンダルまみれのバウアーが日本球界デビュー」と見出しを打ち、AP通信は「メジャー球団からそっぽを向かれたバウアーは、日本で生きる道を探そうとしている。日本のファンは、セレブのようなステータスに引かれ、DV疑惑もお構いなしのようだ」と報じた。


ここでも日本人の節操のなさがヤユされているのでした。

一夜明けると軍国主義者が民主主義者や社会主義者に変身し、本土決戦が回避される安堵感から、当時の海軍大臣が、広島・長崎の原爆投下を「天佑てんゆう」(※天の恵みという意味)と言い、軍人たちは我先に昨日の敵にすり寄って行ったのです。それが日本という国です。節操のなさは何も今にはじまったわけではありません。三島由紀夫や坂口安吾が喝破したように、日本人の心性とも言うべきものなのです。


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