蒼ざめた馬


■金平茂紀氏の指摘


先日、YouTubeで「エアレボリューション」という番組を観ていたら、ゲストで出ていたジャーリストの金平茂紀氏の面白い、と言ったら語弊がありますが、番組に対する鋭い指摘があり、あらためて現実を「こする言葉」とは何か、ということを考えさせられました。

エアレボリューション
金平茂紀氏生出演! 「緊急提言!大政翼賛をいかに抜けだすか」(2023年1月29日放送・前半無料パート)

「エアレボリューション」というのは、ジョー横溝氏がMCを、島田雅彦氏と白井聡氏がレギュラーコメンテーターを務める、今年の1月にはじまった有料の番組です。金平茂紀氏が出演したのは第3回目でした。

尚、概要欄に書かれた番組のコンセプトは、次のようになっていました。

① 直訳「革命放送」!
② 理想の社会を実現するための手段を語る「空想革命」!
③ 作家・アーティストも呼び「空想革命」を想像できる右脳を鍛える刺激的な放送!

ニコ生でも、ジョー横溝氏をMCとして、宮台真司氏とダースレイダー氏をレギュラーコメンテーターとする有料番組の「ニコ生深掘TV」というのがありますが、それとどう違うのかという突っ込みはともかく、冒頭でいきなり金平氏がジョー横溝氏の言葉使いに異を唱えたのでした。

FMラジオでDJを務めているだけあって弁舌巧みなジョー横溝氏が、出演者のことを「演者さん」と呼んでいたのですが、それに対して、TBSの報道局記者である金平氏が「演者」というのはテレビのバラエティ番組の言葉で、YouTubeでその言葉を使うのは違和感があると噛みついたのです。

さらに、YouTubeは新しいメディアのはずなのに、結局テレビの真似をしているにすぎない、従来のテレビ的な枠を壊すような姿勢が見えない、というようなことを言って、冒頭から空気を凍り付かせるようなカウンターをかましたのでした。

私は、それを観て思わず膝を叩きたくなりました。たしかに、YouTubeはテレビの真似ばかりです。私も前に書きましたが、ユーチューバーが「撮れ高」とか「視聴者さん」という言葉を使っているのを見ると、それだけでどっちらけになるのでした。

Googleの持ち株会社のアルファベットの業績を見ると、利益の落ち込みが大きく、そのために人員削減などリストラを余儀なくされているのですが、その要因はひとえに「ネット広告」とカテゴライズされる(アルファベットでは「セグメント」と呼ばれる)YouTubeの広告の不振によるものです。

たしかに、最近のYouTubeの広告は怪しげなものも多く、また広告が集まらないのか、Googleの自社広告も多くなっています。それは、視聴時間をTikTokやインスタやTwitterのショート動画に奪われているからです。もちろん、Googleも手をこまねいて見ているわけではなく、その対策として、ショート動画のテコ入れや従来の配信料のシステムの見直しなどを既にあきらかにしています。

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「エアレボリューション」と同じような、リベラルな主張をコンセプトに掲げる番組は他にもありますが、どれも似たような感じで、ゲストで登場する人物も重なっている場合も多く、企画のマンネリは否定できないのです。

今やニコ生のコアな視聴者は40代~50代だそうで、それはネトウヨの年齢層と重なるのですが、おそらくYouTubeも似たようなものではないかと思います。一方、左派リベラルは、それよりひとつ上の年代がボリュームゾーンです。

地上波のテレビの視聴者もいまや中高年が主流で、中高年向けのコンテンツが必須と言われています。それでは大塚英志氏が言う「旧メディアのネット世論への迎合」も当然という気がします。

■島田雅彦氏の発言と炎上


「エアレボリューション」では、先日、番組の中で、島田雅彦氏が(安倍元首相の)「暗殺が成功して良かった」と発言して炎上し、その余波が今も続いています。発言を受けて、フジサンケイグループなどの右派メディアやネトウヨたちが、まるで号令されたかのようにいっせいに島田叩きを始めたのでした。そこに、バズらせることを狙ったネットメディアの煽りが加わったのは言うまでもありません。

それに対して、「エアレボリューション」は発言した部分を削除し、島田氏も次のように謝罪したのでした。


軽率な発言? このどこが「革命放送」なんだと思いました。そのヘタレようはまさにテレビ並みと言えるでしょう。

この謝罪によって、右派メディアやネトウヨは益々勢いを増したのでした。そして、島田氏はさらに次のような弁明をするはめになったのでした。


まさに屋上屋を架した気がします。

何度も言いますが、今の日本に欠けているのは「闘技」の政治です。タコツボの中から首だけ出してちょっと勇ましいことを言ったら石を投げられて、あわてて首を引っ込める。こんなことを百万篇くり返しても何にもならないでしょう。

一方で、島田氏が首をひっこめたのは、本人も言っているように、YouTubeのガイドラインや利用規約の違反行為とみなされてBANされるのを怖れたということもあるかもしれません。当然、煽られた人間たちが、Googleに対してガイドライン違反の申し立てを行っているでしょう。

何度もくり返しますが、とどのつまりは、ネットの「言論・表現の自由」なるものも、一私企業であるプラットフォーマーによって担保されているにすぎないということです。しかも、プラットフォーマーはすべてアメリカの企業です。これでは「革命放送」なんて、悪い冗談のようにしか思えません。

また、法政大学の教授でもある島田雅彦氏は、「大学の講義で殺人やテロリズムを容認するような発言をした事実は一切ない」と弁明していましたが、でも、文学では殺人やテロリズムを容認することはあるでしょう。むしろ、そういったところから文学は生まれるのです。

私は、ロープシンの『蒼ざめた馬』が好きで、最近も読み返したばかりですが、東京外国語大のロシア語学科を出た島田氏は、テロリストが書いたこの小説をどう思っているのか、問い質したい気がします。何だか語るに落ちたという感じがしないでもありません。

■大衆に迎合するマーケティング


映像というのは残酷なもので、文章で書いた言葉とは違って、修辞のマジックが通用しない分その薄っぺらさがモロに透けて見えるということがあります。残念ながら、島田雅彦氏や白井聡氏も例外ではありません。

政治でも文学でも同じですが、今の時代に、感情をゆさぶるような、心が打ち震えるような、そんな私たちの心をこするような言葉を探すのは至難の業です。これは決して郷愁などではなく、昔はもっとヒリヒリするような、心をえぐられるような緊張感のある言葉がありました。でも、今あるのは、どこを見ても仲間内の駄弁と自己保身のための言葉ばかりです。それは、右も左も関係なく、大衆に迎合するマーケティングが優先され、「闘技」の政治や「闘技」の表現活動がなくなったからでしょう。


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