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■先客万来の虚構


観光地でゲストハウスや飲食店などを経営している友人から電話があったので、いつものように「景気はどうか?」と訊いたら、ゴールデンウィークの前半はよかったけど、「後半はダメだった」と言っていました。

「テレビは元に戻ったみたいな言い方をしているけど、元には戻ってないよ」と嘆いていました。
「結局、パンデミックの反動で一時的に戻っただけということか?」
「そうだよ。外国人観光客も完全に戻って来てないので、いい状態が続かないんだよ」

客単価も低くて、言われるほど千客万来の状態ではないと言います。

たしかに、コロナ禍前の2019年度の外国人観光客の「旅行消費額」4兆8135万円のうち、36.8%の1兆7704万円を占めていた中国人観光客は完全に戻って来てないのです。

今のような中国敵視政策が続けば、以前のようにドル箱の中国人観光客が戻って来るのか疑問です。核の脅威を謳いながら核戦争を煽っているG7サミットと同じで、中国を鬼畜のように敵視しながら観光客が来るのを首を長くして待っている矛盾を、矛盾と思ってないのが不思議でなりません。

メディアのいい加減さは、インバウンドでも、G7サミットでも、ジャニー喜多川問題でも同じです。たとえば、欧米の観光客はケチでショボいというのが定説でしたが、いつの間にか中国人観光客に代わる(言い方は変ですが)大名旅行をしているみたいな話になっているのでした。

もっとも、「外国人観光客が戻って来て大賑わい」というのも、外国人が日本の食べ物や景色や日本人の優しさに「感動した」「涙した」という、YouTubeでおなじみの動画の二番煎じのようなものです。その手の動画をあげているのはほとんどが在日の外国人で(その多くがロシア人で、最近は韓国人も増えてきた)、日本人の中にある「ニッポン、凄い!」の”愛国心”をくすぐって再生回数を稼ぎ、配信料を得るためにやっているのですが、テレビも視聴率を稼ぐために同じようなことをやっているだけです。

■被爆者の「憤り」


今回のサミットに対しては被爆者の間から批判が出ており、平岡敬元広島市も、次のように憤っていました。

朝日新聞デジタル
元広島市長「岸田首相、ヒロシマを利用するな」 核抑止力維持に憤り

平岡元市長は、「岸田(文雄)首相が、ヒロシマの願いを踏みにじった」「岸田首相は罪深い」と言います。

(略)本来は核が人間に与えた悲惨さを考えるべきです。核を全否定し、平和構築に向けた議論をすべきでした。

 加えて、19日に合意された「広島ビジョン」では、核抑止力維持の重要性が強調されました。

 戦後一貫して核と戦争を否定してきた広島が、その舞台として利用された形です。


 核を否定し、平和を訴えてきたヒロシマを、これ以上利用するなと言いたいです。

 広島を舞台にしてウクライナ戦争を議論するならば、一日も早い停戦と戦後復興について話し合われるべきでした。

 中国とロシアを非難するだけでは、緊張が高まるだけです。いかに対話をするか、和解のシグナルを発信する必要があります。

 戦争の種をなくし、平和を構築する。それが、岸田首相をはじめとするG7首脳たちに求められていることです。


しかし、翼賛体制下にある今の日本では、こんな発言もお花畑の理想論と一蹴されるだけです。

今回のG7サミットは、ゼレンスキー大統領の参加というお膳立てもあり、さながら第三次世界大戦の決起集会のようでした。どうすれば核戦争を回避し和平に導くことができるか、という議論ははなからありませんでした。とは言え、G7の拡大会議に出席したインドやブラジルの態度に見られるように、それも一枚岩とは言い難いものでした。

翼賛体制に身を委ねているのは、メディアだけでなく左派リベラルも同じです。彼らもウクライナVSロシアという戦時の発想に依拠するだけで、“戦争サミット”を批判する視点を持ってないのです。野党風な態度を取りながら、今の”戦争体制”を補完しているだけなのでした。

それは、新左翼も同じで、一部を除いてはロシアの侵略戦争というベタな視点しか持ちえず、アメリカの戦争政策に追随しているあり様です。そのため、前回のドイツ・エルマウのサミットのときのような、「戦争反対」のデモもまったく見られなかったのです。彼ら自称「革命的左翼」も完全に終わっているのです。

唯一行われた中核派系のデモも、下記の動画のように、警察によって徹底的に封じ込められたのでした。デモの様子は、日本のメディアではほとんど報じられませんでしたが、イギリスBBCによって、警察がデモ隊を暴力的に制圧するシーンが世界に拡散されるというオチまで付いてしまったのでした。また、現場となった商店街の市民が撮影した動画もネットにあげられ、それぞれ万単位の再生数を記録することになりました。こんなことを言うと叱られるかもしれませんが、ネットの時代のカンパニアとしては、大成功と言えるのかもしれません。

G7の首脳たちが円卓を囲んで微笑んでいるシーンや、ゼレンスキー大統領が各国首脳と握手しているシーンだけがG7ではないのです。こういったシーンも、G7広島サミットを記録する上で欠かせないものなのです。と言うか、唯一台本のないガチなシーンだったと言えるのかもしれません。


■資本主義の危機


ウクライナ戦争の天王山とも言われるバフ厶トを巡る攻防についても、一時はバフムトの陥落は近いと言われていました。しかし、最近は形勢が逆転して、ロシア軍が退却しているというような陥落を否定するニュースが出ていました。ところが、G7の最中に、ロシア国防省と軍事会社のワグネルがバフ厶トを掌握したと発表し、それに対して、ゼレンスキー大統領も、記者会見で、郊外で抵抗しているとか何とか言うだけで、完全に否定はしなかったのでした。どうやら当初の話のとおりバフ厶トの陥落は事実のようです。このように日本のメディアは、イギリス国防省やアメリカの国防総省のプロパガンダをそのまま垂れ流しているだけなのでした。そのため、ときどき「話が全然ちがうじゃないか」と思うようなことがあるのでした。

ウクライナ戦争や米中対立によって、西側の経済は大きな傷を負っています。そのことをいちばん痛感しているのは私たち自身です。資源高&エネルギー価格の高騰による物価高に見舞われ、生活苦も他人事ではなくなっています。その一方で、商社や金融機関や自動車メーカーなど大企業は相次いで好決算を発表しているのでした。つまり、大儲けしているのです。

財務省の法人企業統計によれば、大企業の内部留保は2021年度末で484.3兆円まで膨れ上がっているのですが、ウクライナ戦争を好機に、さらに積み増ししようとしているかのようです。この火事場泥棒のような現実こそ、資本主義の危機の表れとみなすことができるでしょう。

■中国抜きでは成り立たない現実


そもそも、国際的な分業体制が確立し、それを前提に成り立っている今のグローバル経済にとって、アメリカが言うような中国抜きのサプライチェーンなど絵に描いた餅にすぎないのです。

『週刊ダイヤモンド』の今週号(5月27日号)では、「半導体・電池『調達クライシス』」という記事の中で、中国ぬきでは成り立たないサプライチェーンの現実を次のように指摘していました。尚、記事の中のCATLというのは、世界最大の半導体メーカーである中国の寧徳時代新能源科技のことです。

 そもそも電池のサプライチェーンは、半導体とは全く異なる特殊性がある。半導体の場合は、設計、半導体材料、半導体製造装置、製造のあらゆる主要工程を米国、日本、台湾、オランダが握り、西側諸国でサプライチェーンを完結できる。だが電池の場合は、中国を介さずに調達できる国は一つとしてない。
 鉱物資源からレアメタルを取り出しす製錬工程が中国に完全に握られている他、日本に強みがある電池材料でも中国勢がコストや品質で猛追。さらに中核の電池製造では、日本と韓国を抑えて、中国電池メーカー2社が圧倒的だ。調査会社テクノ・システム・リサーチによると、22年(見込み値)で世界首位のCATLの出荷額は270GWh、シェアは46%に達する。
 すでにCATLは、中国EVメーカーだけにとどまらず、欧州各国、米テスラ、米ビックスリー、日系大手3社など世界中のEVに車載電池を供給している。「中国排除」のサプライチェーンなど成り立たないのは明白だ。
(『週刊ダイヤモンド』5月27日号)


また、今朝のNHKニュースでは、福岡の市場で競り落とされたノドグロやマナガツオ、アラカブ、タチウオといった高級魚が、香港や韓国や台湾などへ輸出されている現状を特集で伝えていました。そのために中国人の仲買人を雇っている仲卸会社もあるそうです。

NHK NEWSWEB
ビジネス特集・「日本人は金払えない」アジアの胃袋に向かう高級魚

番組によれば、市場に出入りする仲卸会社の大半が輸出に関わっており、既に売り上げの4割近くを輸出が占めている仲卸会社もあるそうです。

「もう国内だけではだめだと思います。われわれとしては、高く買ってくれるところに売るのが一番いいんです。今は海外のほうが確実にもうかります」という仲卸会社の社長の言葉が、今の日本を象徴しているように思います。

似たような話は、横浜橋の商店街でもありました。どこかのニュースでも取り上げられていましたが、横浜橋の商店街では中国人が経営する八百屋や魚屋や総菜屋が増えており、しかも、日本人経営の店より価格が安いので買い物客で賑わっているそうです。と言うと、ネトウヨと同じように、怪しい野菜や魚を売っているんだろうと言われるのがオチですが、しかし、実際は市場から正規のルートで仕入れているちゃんとした商品だそうです。要するに、日本人経営の店と違って、豊富な資金で大量に仕入れるため、その分仕入れ価格が安くなり安売りが可能になるというわけです。

中国が豊かになり、一方で日本が「安い国」になったので、ひと昔前だったら考えられないような”逆転現象”が起きているのでした。先の友人の話では、観光地のホテルや飲食店も、中国資本や韓国資本に次々と買収されているそうです。あそこもあそこもと私も知っているホテル名をあげて、みんな買収されたんだと言っていました。

■梯子を外される日本


米中対立も、超大国の座から転落したアメリカの悪あがきと言えなくもありません。日本はそんなアメリカの使い走りのようなことをやっているのですが、それはホントに国益に敵っていることなのだろうかと思ってしまいます。

昨年10月に国際決済銀行(BIS)が発表した、世界の外国為替取引高における通貨別シェアによれば、トップは言うまでもなくアメリカドルの88%で、第2位がユーロの31%、第3位が日本円の17%、第4位がイギリスポンドの13%で、中国の人民元は4%から7%に上昇したものの第5位でした。アメリカドルの圧倒的な強さは変わらないものの、アメリカが人民元のシェアが伸びていることに神経を尖らせているのは間違いないでしょう。言うまでもなく、今の通貨体制がアメリカの生命線でもあるからです。

一方で、中国は、BISとは別に独自の人民元国際決済システム(CIPS)を導入して、「一帯一路」沿線の国やいわゆるグローバルサウスと呼ばれる国を中心に人民元(それもデジタル人民元)での決済をすすめており、金融面においてもアメリカの覇権(アメリカドルの実質的な基軸通貨体制)に対抗しようとしているのでした。それが今の米中対立の要諦です。

ただ、深刻度を増す金融危機に見られるようにアメリカ経済も疲弊していますので、アメリカの対中政策が一転して軟化する可能性もあり、バイデンも最近、それらしきことをほのめかしているという指摘もあります。米中接近のときもそうでしたが、日本がいつアメリカに梯子を外されるかわからないのです。
2023.05.23 Tue l 社会・メディア l top ▲