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(イラストAC)


■格差という共通の問題


『ニューズウィーク』のウェブ版で、「デジタル権威主義とネット世論操作」というコラムを連載している作家の一田いちだ和樹氏が書いていた下記の記事は、非常に示唆に富んだものでした。

Newsweek(ニューズウィーク日本版)
陰謀論とロシアの世論操作を育てた欧米民主主義国の格差

一田氏は、国際的な陰謀論や世論操作などは、相手国に「分断と混乱」を招いている問題をターゲットする、と書いていました。

情報戦、フェイクニュース、偽情報、ナラティブ戦、認知戦、デジタル影響工作といったネットを介した世論操作は相手国の国内にある問題を狙うことが多い。その問題は相手国ですでに国内の問題として存在し、分断と混乱を生んでいる。そのためどこまでが他国からの世論操作によるものなのか、自国の国内問題なのかという判別は難しい。
(上記記事より。以下引用は同じ)


代表的なのは「格差」です。「格差」は、今や世界の「共通の問題」になっているのです。フェイクの標的になるのは、「格差」によって忘れられた存在になった社会的弱者たちです。彼らは、メディアや「政治の場で取り上げられることも少なく、不可視の状態になっている」と言います。そのため、社会的な共感を得ることも難しく、彼らを「共感弱者」と呼ぶのでした。

一田氏が書いているように、世界の人口の半数を占める貧困層が保有している資産は、僅か2%にすぎません。一方、世界の人口の10%の富裕層の人々が保有している資産は、全体の76%の資産を占めているのです。

インバウンドでは、中国や台湾やシンガポールは言わずもがなですが、タイやマレーシアやインドネシアやフィリピンやベトナムなどのアジアの国からやって来た観光客たちが、私たちが目を見張るような羽振りのよさを見せるのは、彼らがグローバル資本主義の勝ち組の富裕層だからです。私たちも口にできないような高価な和牛を次々と注文して、「安くて美味しい」と言い放つ彼らは、間違いなく私たちより豊かな生活をしているのです。でも、その背後には、海外旅行など想像すらできないような人々がその何倍も存在するのです。インバウンドばかりに目を奪われる私たちにとっても、彼らは「不可視な存在」になっているのです。

一田氏は、続けてこう書きます。

かつて欧米の民主主義国の左派政党は低学歴・低所得者層を支持母体としていたが、徐々に高学歴・高所得層へとシフトしていった。その結果、格差の下位にいる人々の声を政治の場に届けるのはポピュリストのみになった。(略)
民主党を支持の中心は、投票者の90%を占める低位の人々ではなく、上位10%の人々に変化している。同様の傾向は他の欧米の民主主義国でも見られる。
(略)
現在、格差の下位にいる人々がまとまって影響力を行使することは難しい。彼らは多様であり、まとまるためのイデオロギーもない。共通しているのは富裕層=エスタブリッシュメントへの反発である。また、共感弱者(男性、白人など)は共感強者(LGBT、移民など)に反感を持つ傾向がある。共感弱者とはさきほどの共感格差の下位にいる人々でメディアで取り上げられることが少なく、共感を得にくい。共感強者とはメディアに取り上げられ、結果として政治の場でも取り上げられやすい。


それを一田氏は、「ガソリンがまかれている状況=格差が放置されている状況」と言います。

もちろん、日本も例外ではありません。貧困対策より、子育て支援が優先されるのはその典型です。与党も野党も、中間層を厚くしなければならないとして、中間層向けの政策ばかりを掲げるのでした。

しかし、話はそれだけにとどまらないのです。

■スマートシティ


日本政府は、バイデンの要請に従って、今にも中国が台湾や沖縄に攻めて来るかのように言い募り、民主党のスポンサーである産軍複合体に奉仕するために軍拡に走っていますが(実態は型落ちの在庫品を割高な値段で買わされているだけですが)、その一方で、行政の効率化の名のもとに、中国式の“デジタル監視社会”をお手本にして、似たようなシステムを導入しようとしているのでした。

私たちの個人情報をマイナンバーカードに一元管理しようとする試みなどはその最たるものでしょう。また、公共空間における監視カメラと顔認証の普及も然りです。それらが紐付けされれば、中国のような便利で効率のいい、行政官が理想とする社会になるのです。にもかかわらず、パンデミックを経て、それがディストピアの社会であるというような声はほとんど聞かれなくなりました。『1984年』を書いたジョージ・オーウェルも、そのタイトルのとおり、完全に過去の人になってしまった感じです。

問題はガソリンがまかれている状況=格差が放置されている状況なのだから、格差を是正するか、徹底的に低所得層を抑圧して活動を制限するしかない。現時点でもっとも効果的なのは後者、つまり徹底した抑圧を実現するための統合社会管理システムになる。中国やインドが推し進めている監視、行動誘導、国民管理を一体化したシステムである。古い言葉で言えば高度監視社会であり最近の言葉で言えばスマートシティだ。中国はすでにこのシステムを他国に販売している。
(略)
格差を是正するよりは、格差を不可視のままにして、中露の世論操作への対策を口実に中国やインドのような統合社会管理システムを構築し、徹底した抑止を行う方がよい。
(略)
早期にシステムを作れば多くの国に販売・運用代行することも可能であり、産業振興にもつながる。アメリカ、特にSNSプラットフォーム企業は意図的にそうしている可能性が高い。


極端なことを言えば、僅か10万円の給付金のために私たちはみずからの自由を国家に差し出すことに何の抵抗もなくなったのです。そして、今度は「産めや増やせよ」の現代版である「異次元の少子化対策」の餌をぶら下げられ、一も二もなく”デジタル監視社会”への道に身を委ねているのでした。

もちろん、政治においても同様です。この「格差」の時代に、上か下かの視点をみずから放棄した左派リベラルの(階級的な)裏切りは万死に値しますが、それが今の翼賛的な野党なき、、、、政治を招来しているのは論を俟たないでしょう。国際的な陰謀論と連動したミニ政党が跋扈したり、まるで目の上のたん瘤だと言わんばかりに立憲民主党界隈かられいわ新選組に対する攻撃が激しさを増しているのも、その脈絡で考えれば腑に落ちるのでした。


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