サンデーLIVE
(「サンデーLIVE!!」のサイト)


■「サンデーLIVE!!」の日本再生論


先日、東山紀之がキャスターを務めるテレビ朝日の「サンデーLIVE!!」が、台湾の半導体メーカーTSMCが熊本県の菊陽町に二つの工場を建設する、というニュースを取り上げていました。

TSMC(台湾積体電路製造股份有限公司)は、圧倒的な供給力と3ナノ半導体を製造する高水準の技術を持つ半導体の受託製造企業で、2022年第3四半期の段階で世界シェアの56.1%を占め、23年2月時点の時価総額はトヨタの倍以上の約62兆円を誇る巨大企業です(日経ビジネスより)。

そのため、「実質的に半導体の価格決定権を握っている」と言われるほどの、業界のリーディングカンパニーなのです。尚、日本法人の本社は横浜のみなとみらいにあります。

そんなTSMCの工場が日本にできるというのは、たしかに朗報ではあるでしょう。10年間で4兆3000億円の波及効果をもたらすという試算さえあるそうです。しかし、こう言うと語弊があるかもしれませんが、地政学上のリスク回避という特殊事情があるにせよ、たかが外国企業が日本に工場を造るという話にすぎないのです。

それを「サンデーLIVE!!」は、田中角栄の「日本列島改造論」になぞらえて、半導体による「新日本列島改造論」を唱える、東京理科大学の若林秀樹教授をゲストに迎え、これが日本再生の「最後で最大のチャンス」だなどとぶち上げているのでした。何だかひと昔前に、トヨタの工場ができると言って国中で大騒ぎしてしていた、アジアや中南米の発展途上国のようです。

中でも驚いたのは、日本株が33年振りの高値を付けたことまで引き合いに出して、いよいよ日本経済が反転攻勢に打って出たかのように太鼓を打ち鳴らしていたことでした。もちろん、日本株が高値を付けたのは、TSMCの工場建設とはまったく関係がありません。

下記の朝日の記事が書いているように、今の株高は、過去最高を更新するほどの異常な自社買いが大きな要因です。本来なら設備投資や従業員のベースアップに使われるべき資金が、自社買いに向けられているのです。

5月だけで3.2兆円という途方もない自社買いで極端に流通量が減った日本株が、実体経済の数倍、レバレッジを含めると数十倍とも言われる余剰マネーを駆使する海外の投資家によって、マネーゲームの対象になっているだけです。

朝日新聞デジタル
自社株買い過去最高、バブル後高値を演出 投資・賃金とバランスは?

また、「サンデーLIVE!!」は、北海道の千歳市に、「日の丸半導体」の復活をめざすラピダスの新工場が建設されることも日本再生の起爆剤になると、取らぬ狸の皮算用みたいに伝えているのでした。

ラピダスについては、エコノミストたちの間で、先行きは不透明だという見方があります。私もこのブログで次のように書きました。

■日の丸半導体


米中対立によって、中国に依存したサプライチェーンから脱却するために、国際分業のシステムを見直す動きがありますが、ホントにそんなことができるのか疑問です。

日本でも「日の丸半導体」の復活をめざして、トヨタ・ソニー・NTTなど国内企業8社が出資した新会社が作られ、北海道千歳市での新工場建設が発表されましたが、軌道に乗せるためには課題も山積していると言われています。

2027年までに2ナノメートルの最先端の半導体の生産開始を目指しているそうですが、半導体生産から撤退して既に10年が経っているため、今の日本には技術者がほとんどいないと言うのです。

さらに、順調に稼働するためには、5兆円という途方もない資金が必要になり、政府からの700億円の補助金を合わせても、そんな資金がホントに用意できるのかという疑問もあるそうです。

また、工場を維持するためには、台湾などを向こうにまわして、世界的な半導体企業と受託生産の契約を取らなければならないのですが、今からそんなことが可能なのかという懸念もあるそうです。

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エマニュエル・トッドの指摘


テレビ朝日は、ニュースに対する掘り下げ方に問題があるように思えてなりません。意図的なのかどうかわかりませんが、あまりに薄っぺらな捉え方しかしてないのです。

ジャニー喜多川氏の性加害の問題に関して、「報道ステーション」のなおざりな姿勢を指摘する声が多くありましたが、それは「報道ステーション」に限らないのです。「モーニングショー」でも、玉川徹氏のいつものツッコミは影をひそめ、当たり障りのない”公式論”に終始するだけでしたが、そこには、それこそ玉川徹氏の電通発言の際に取り沙汰された、テレビ朝日の体質が露呈されているように思いました。

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■戦争プロパガンダに踊らされる日本のメディア


これはテレビ朝日に限った話ではありませんが、たとえばウクライナ戦争においても、メディアはどこまで真実を伝えているのか、非常に疑問です。ウクライナ南部のドニエプル川流域のカホフカ水力発電所のダムが破壊された問題でも、メディアが伝えるように、ホントにロシアがやったのか、首を捻らざるを得ません。

ウクライナ側の住民の被害ばかりが報じられていますが、ダムの破壊による被害は、圧倒的にロシアの支配地域の方が大きいはずです。しかも、ダムの水位の低下は、ロシアが管理する欧州最大規模のザポリージャ原発の安全にも影響を及ぼすのではないかと言われているのです。もしロシアがやったのなら、それこそ常軌を逸した自殺行為としか言いようがありません。

昨年9月のロシアとヨーロッパを結ぶ海底パイプラインの「ノルドストリーム」で起きた大規模なガス漏れのときも、西側のメディアはロシアの自作自演だと言っていました。ところが、実際はウクライナ軍の特殊部隊によるものであったことが、先日、ワシントン・ポストによって暴露されたのでした。しかも、アメリカがその計画を事前に把握していたと言うのです。

ワシントン・ポストによれば、アメリカ空軍の州兵が対話アプリの「ディスコート」で流出させた例の機密文書の中にその記述があったそうです。

機密文書には、ゼレンスキー大統領には知らされないまま、現在重傷説が流れているウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官の直属のグループが実行した、と記されていたそうです。ただ、一方でアメリカがそれを「阻止した」とも書かれているのだとか。

何度も言うように、ウクライナがどういう国なのかという検証もなしに、ただ可哀そうという短絡思考でものごとを見ると、とんでもない戦争プロパガンダの餌食になるだけでしょう。

「サンデーLIVE!!」の「新日本改造論」の打ち上げ花火は、まともにニュースを伝えることさえできない日本のメディアの劣化を象徴していると言えますが、それでは戦争プロパガンダに踊さられるのも当然でしょう。


■追記:


上の記事をアップしたあと、作家の甘糟りり子氏が書いた下記の記事が「NEWSポストセブン」にアップされたことを知りました。

NEWSポストセブン
作家・甘糟りり子氏、『報道ステ』全仏オープンを2日連続トップ扱いに疑問 「他に優先すべきニュースがあるのではないか」

やはり、みんな「テレ朝はおかしい」と思っているんだなと思いました。

私は、前に次のように書きましたが、全てはそれに尽きるように思います。もちろん、これはテレ朝だけの問題ではないのです。テレ朝があまりにひどすぎる、、、、、ので目立っているだけです。

「早河王国」になって、テレ朝はエンタメ路線に舵を切り、報道部門が弱体化していると言われます。「ニュースを扱う資質に欠けるような人物」が報道局に送り込まれているという指摘さえあるそうです。

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2023.06.13 Tue l 社会・メディア l top ▲