
(Laos – China Railway Company Limited)
■「中国ラオス鉄道」と日本のメディア
たまたま早起きしたので、テレビ東京が早朝にやっている「経済報道番組」の『モーニングサテライト』を観ていたら、「中国焦点」というコーナーで、中国の雲南省の昆明とラオスのビエンチャンを結ぶ1035キロの国際旅客列車「中国ラオス鉄道」のことを取り上げていました。
番組では、「中国ラオス鉄道」は習近平国家主席が提唱する「一路一帯」構想に基づいた事業で、ゆくゆくはマレー半島を南下し、タイ・マレーシアを経てシンガポールまでを結ぶ予定だと言っていました。実際に、中国外交部も「中国ラオス鉄道」を「一帯一路」の縮図と位置づけているそうです。
ラオス国内の建設費用約60億ドル(約7800億円)のうち、3割の18億ドルをラオスが負担したということですが、その大半は中国からの借り入れによるもので、そのため、ラオスが中国の「債務の罠」に陥り、中国に首根っこを押さえられることになるのではないか、と言われているのでした。
実際に、中国の雲南省と接するラオスのボーテン駅周辺は、昔は検問所と数軒の食堂や商店があるだけの田舎の町にすぎなかったのに、今はオフィスビルやホテルやマンションやショッピングモールの建設ラッシュの只中にあり、既に住民の7割は中国人に占められているということでした。
しかし、これは日本のメディアではおなじみのパターン化された中国報道にすぎません。「一路一帯」構想の野望、みたいなトーンで報じられるのが常です。
もちろん、「一路一帯」構想が、ユーラシア大陸を陸と海から縦横に結ぶ壮大な経済圏構想で、そこに新しい覇権国家としての中国の野望が伏在していることは否定できないでしょう。実質的な”ドル本位制”とも言うべき今の国際通貨体制に代わって、中国が新たな通貨体制を作ろうとしているのも事実かもしれません。
■両国の思惑
しかし、個々のケースを見ると、日本のメディアが一律に伝えるものとは若干異なる背景があるようです。
「中国ラオス鉄道」についても、アジア経済研究所の研究員は、下記のチャンネルで、もともとはラオス側から提案されたものだと言っていました。
YouTube
アジア経済研究所
【アジジ-アジ研時事解説 No.9】ラオス・中国鉄道(山田紀彦研究員)
ラオス政府は、国境を接するベトナムやカンボジアやタイとの間でも鉄道を敷設する構想があるのだそうです。「中国ラオス鉄道」も、そういった「経済開発戦略」の一環で、ラオスの提案に、中国がビジネスチャンスと渡りに船で応じたのが真相だと言うのでした。
中国は、「中国ラオス鉄道」を利用して、農業に適したラオス南部のボラベン高原に、将来の食糧不足に備えた食糧生産基地を造る計画だそうです。また、同じくラオス南部の観光地であるコーンパペンの滝に90億ドルを投じて、経済特区を設けた一大リゾート地にする計画もあるということでした。中国企業は、コーンパペンの滝周辺を、温暖な土地で老後を過ごしたいという中国東北部の富裕層向けの保養地として売り出す狙いもあるのだとか。
■アメリカに梯子を外される日本
一方、アメリカのブリンケン国務長官が今月18日から2日間中国を訪問し、中国政府の高官と会談することがアメリカ政府により正式に発表されましたが、「米中対立」も何だか怪しい雲行きになってきました。
YouTubeで「中国ラオス鉄道」に関する番組を探していたら、「中国ラオス鉄道」は乗客が0人で既に計画が破綻した、というようなネトウヨ系の番組がいくつもあり、いづれも10万回以上視聴されていることがわかりました。未だにそういった「愛国ビジネス」の話を信じて、「ニッポン凄い!」と自演乙する人間がいることに驚きましたが、日本政府の”中国敵視政策”も、案外それに近いものがあるのかもしれません。
1972年のニクソン訪中のときと同じように、日本はアメリカに梯子を外されるかもしれないのです。「米中対立」を煽るだけ煽られて、産軍複合体と深い関係のあるバイデン政権から在庫品の武器を言い値で買わされて、それで梯子を外されたのでは目も当てられませんが、対米従属を国是とするこの国は、それでも黙然と(奴隷のように)アメリカに従うしかないのでしょう。
中国が300年振りに覇権国家として世界史に復活することの意味は、好むと好まざるとに関わらず、私たちが想像する以上に大きな意味があるのです。しかし、日本は、小心な駄犬のように遠くからワンワン吠えるようなことしかできないのです。それも、飼い主からけしかけられて吠えているだけです。