
(写真AC)
■ヤフーの表明
昨日(25日)、朝日に次のような記事が出ていました。
朝日新聞デジタル
ヤフー「メディアとの契約内容の見直し検討」 公取委の報告受け表明
公正取引委員会が、ヤフーニュースを運営するヤフーが記事の配信元のメディア各社との関係で「優越的地位にある可能性がある」と指摘する調査報告書を公表したことを受け、ヤフーは25日、「ニュース配信市場全体の更なる発展に向けて、真摯(しんし)に取り組んでいく」とする文書を公開した。
公取委は21日、ニュースプラットフォーム(PF)事業者と、記事を提供する新聞などメディア各社の取引実態に関する調査報告書を公表した。記事使用料の支払総額でみたニュースポータルのうち、ヤフーが約半分のシェアを占めるとしたうえで、ヤフーを名指ししてメディア各社に対し「優越的地位にある可能性がある」と指摘。ヤフー以外のPF事業者についても「優越的な地位にある可能性は否定されない」とした。
ヤフーは25日付ヤフーニュースのブログのなかで、公取委による調査報告書を受けた記事を更新。「報告書で示された考え方を踏まえて真摯に取り組んでいく必要があると考えている」と説明。そのうえで検討中の取り組みとして、提携するメディアに対し「契約内容の丁寧な説明と実績に応じた見直し」を順次行う方針を明らかにした。提供記事の読まれ方などのデータ開示やサービス仕様・ガイドラインの変更の事前説明、問い合わせ窓口の充実などを検討していく考えも示した。
公正取引委員会は、昨年の11月、ヤフーやLINEなどIT企業と報道機関のニュースコンテンツの取引実態の調査に着手し、今月の21日にその調査結果を公表したのですが、記事にもあるように、ヤフーの表明はその調査結果を受けてのものです。
記事によれば、Yahoo!ニュースは、月間のページビュー(PV)が約170億PVで、「約720のメディアが一日約7500本の記事を提供」しているそうです。また、LINE NEWSのPVは、月間約154億PVだそうです。それらの数字は、報道各社の自社サイトとは比較にならないほど莫大なものです。しかし、記事の使用料については、「個別契約のため適正価格の水準や決定根拠がわからず、メディア側には公平な交渉ができないと不満があった」ということです。
■1PV0.124円
公正取引委員会の調査によれば、2021年度にヤフーやLINEなどプラットフォーマー6社がメディアに支払った記事の対価の平均は、1ページビュー(PV)0.124円だったそうです。ただ、各社によって0.251円~0.049円までの開きがあるのだとか。とりわけ、Yahoo!ニュースは、支払総額の半分以上を占める最大の取引相手であり、「公取委はヤフーが『取引先であるメディアとの関係で優越的地位にある可能性がある』と指摘した」ということでした。
言うまでもなく、新聞を取り巻く経営環境は厳しさを増す一方です。ネットの普及で発行部数は下落の一途を辿り、2022年は3084万部で、前年比で約200万部減り、10年前より約1700万部減ったそうです。そのため、夕刊の発行をやめる新聞も相次いでいます。さらに、地域紙の中には休刊(廃刊)する新聞さえ出ているのでした。
経営環境の厳しさが増す中で、記者のリストラや取材費の削減なども取り沙汰されていますが、そうやってジャーナリズムが弱体化すれば、益々報道の翼賛化は進んでいくでしょう。
■ヤフーにとっての”ニュースの価値”
もっとも、Yahoo!ニュースの問題は、記事の使用料だけではありません。ヤフーはニュースをバズらせてページビューを稼ぐために、トップページに掲載する記事を恣意的に選択して、扇動的なタイトルを付けているのでした。ヤフーにとって、“ニュースの価値”はどれだけバズるか、どれだけPVを稼げるかということなのです。そのためには、ヘイトや誹謗中傷の巣窟と言われるヤフコメやコタツ記事は絶対に欠かせないものです。あれだけ批判を浴びても、やめようとしない理由もそこにあるのです。
たまたま先週のポリタスTVの「報道ヨミトキ」でも、この公取の調査結果が取り上げられていましたが、その中で、津田大介氏が「日本が右傾化したのは、マイクロソフト(MSN)のトップページが産経新聞の記事で覆われたことが大きい」と言っていました。たしかに、ネットの黎明期にMSNのシェアが高かった頃、MNSのニュースは産経新聞が独占していました。おそらく他の新聞社が記事の提供を拒む中で、産経新聞が火事場泥棒のように、無料化あるいは安価で記事を提供したからでしょう。
ポリタスTV
報道ヨミトキ FRIDAY #122|岸田新内閣で副大臣政務官に女性ゼロ、ジャニーズ事務所が社名変更か、公取がヤフーにニュース使用料開示を求める……|ゲスト:青木理(9/22)
しかし、現在、プラットフォーマーに記事を提供してないのは、自社サイトの有料化が成功している日本経済新聞だけです。
■「言論の自由」は絵に描いた餅
それにしても、1PV0.124円というのは、ユーチューブの配信料とほぼ同じです。新聞記事も低く見られたものだと思います。
だったら記事の提供をやめればいいじゃないかと思いますが、しかし、そうなれば、ネットにはスポーツ新聞や週刊誌のコタツ記事と産経新聞の記事ばかりが溢れ、昔の二の舞になるという指摘があります。ポリタスTVも同じようなことを言っていました。
とは言え、今のように恣意的に取捨選択した上で、ヤフコメやコタツ記事でバズらせるやり方が続く限り、この右傾化、翼賛化は避けられないのです。
GAFAに対する規制も同じですが、結局、言論に関しても国家の手に委ねるしかないというこのネットの時代においては、そもそも「権力の監視」や「野党精神」を基本とする「言論の自由」など所詮は絵に描いた餅にすぎないと言うべきかもしれません。