
(写真AC)
■カットサロン
今日、生まれて初めてカットサロンに行きました。カットサロンというのは、美容院、昔で言えばパーマ屋です。
ただ、実際は想像とは違っていました。昔のパーマ屋のような頭から被せる機械などはなく、カットに特化したような内装でした。メニューも、カットとヘアーカラーだけのシンプルなものでした。
その店はできてまだ半年くらいです。前も似たようなカットサロンがありましたが、コロナ禍の影響もあったのか、数年で閉店したのでした。
もっとも、私が住んでいる東急東横線沿線の街は、住人に若い女性が多いということもあってか、美容院(ヘアーサロン)の激戦区で、入れ替わりが激しく、開店や閉店もめずらしくありません。原宿か青山に本店がある有名ヘアサロンの店も、最近、閉店したという話を聞きました。
ヘアーサロンの前をいつも通るので、お客さんに男性がいることも知っていました。頭の禿げたおっさんが順番待ちをしているのを見たこともあります。しかし、それでも入る勇気がありませんでした。
■散髪屋
一方で、散髪屋はどんどん閉店していくのです。経営者が高齢化して跡継ぎがいないということもあるし、激安のカットサロンが多くなり経営が立ち行かなくなったということもあるのだと思います。
前にこのブログでも書きましたが、私が行っていた散髪屋も前は従業員を雇っていたのですが、その後、店主だけになりました。それにつれ、店内も汚くなり、しかも、店主が煙草を吸うので、店内はいつも煙草の臭いが充満しているようなあり様でした。
散髪をしていると、若者がやって来て、しばらく椅子に座って待っているけど、そのうちスマホに着信があったふりをして外に出て、そのまま戻って来ないということもありました。店に入ったものの、店内の様子を見て、自分が間違って入ったことに気付いたのでしょう。
「あれっ、さっきのお客さん、戻って来ないな」と言ったら、店主は「そんなことはしょっちゅうですよ」と吐き捨てるように言うのでした。
私ももう勘弁したいとずっと思っていたのですが、駅に行くのにその店の前を通るのでやめるにやめられなかったのです。ときどき店の前で店主と顔を合わせることもありました。そのたびに私の髪を見て、「ぼつぼついいんじゃないですか? お待ちしていますよ」と営業をかけられるので、仕方なく通っていたのです。散髪代は4千円近くするので、カットサロンに行った方が全然安いというのもわかっていました。
そんな私が長年通っていた散髪屋に行くのをやめたのはコロナ禍がきっかけです。店主は髪を切る際もマスクをしないのです。しかも、店主は話好きで声も大きく、まくしたてるように喋るのでした。話に熱が入ると、手が動かなくなるので、「手は動かして下さいよ」と言うくらいでした。
窓を開けて換気するということもないので、私は、やんわりと、「横浜市の感染対策の指針では、床屋も細かく対策を指示されていましたよね?」と言ったら、「そうなんですよ。組合がうるさく言って来るので面倒で、それで組合をやめたんですよ」と言うので愕然としました。
それに長年通っていると、お客と店主という関係を度返しような言動も目立つようになり、そのあたりもうっとくしく感じるようになっていました。
それで行くのをやめたのですが、でも、代わりの床屋が見つかりません。ヘアサロンは掃いて捨てるほどあるのに、床屋がないのです。それで、とりあえずカットだけ可能な激安の床屋に行くことにしました。
カットだけだと1000円ちょっとで済むのですが、従業員は高齢の男性二人で、店内はゴミ溜めのように汚くて、前の床屋よりさらにひどい状態でした。客扱いもぞんざいで愛想もくそもありません。それこそ安いだけが取り柄みたいな店でした。
あるとき、金八先生のように髪の長い男性がやって来ました。そして、丸刈りにして帰って行ったのでした。私の髪を切っていたお爺ちゃんの話では、男性は2年ぶりに髪を切ったのだそうです。
「2年に1回やって来るんですか?」
「そうだよ」
「凄いな。何の仕事しているのですかね。オタクみたいな恰好していたけど」
「ひきこもりなのかな? でも、一人で髪を切りに来るくらいだから、ひきこもりじゃないのかもしれない」
■カット代700円
そんなわけで、今日、勇気を奮って「男性客歓迎」の看板が出ているカットサロンのドアを叩いた、いや、開けたのでした。ちょうどタイムセールとかで、カットが700円になっていました。「安っ」「ホントかよ」と思いました。
カウンターに券売機みたいなものがあるのですが、「初めてなのですが」と言ったら、「あっ、そうですか。じゃあ、券を出しておきますので、あちらの椅子にお座りください」と言われました。
椅子に座ると、「いらっしゃいませ」と言って黒ずくめの恰好に黒いマスクをした若い女性がやって来ました。
「おおっ!」と思わず声がもれるほどの美人です。もっとも、それはマスクをした上での話なので、実際はどうかわかりません。もちろん、店内も今まで通っていた床屋とは比べものにならないくらいきれいで清潔感があります。
こんなベッピンさんに髪を切って貰って、料金が僅か700円だなんて、何だか申し訳ないような気持になりました。タイムセールを外しても980円だそうなので、これからはタイムセールを外して行こうと思ったくらいです。
髪を洗って髭を剃って行ったのはよかったなと思いました。カットだけの場合、それがマナーでしょう。
あんな頭の禿げたおっさんが行っていたくらいなのに、どうして今まで行く勇気を持てなかったんだろうと思ったほどです。これでは、散髪屋が淘汰されるのも無理がないなと思いました。
■「やりがい搾取」
ただ、私の悪い癖で、ハサミを動かしているベッピンさんを鏡越しに見ながら、ふと「やりがい搾取」という言葉が浮かんで来たのでした。これも、このブログで書いたことがありますが、美容関係は典型的な「やりがい搾取」の業種でもあります。
ネットを見ると美容師の求人の多さに驚きますが、人出不足だということは、それだけ給料が安くて労働条件が悪いからでしょう。介護職などと同じなのでしょう。
「資格さえあればOK」
「ブランクがあっても大丈夫」
「昼間の数時間だけでも働けます」
そんな言葉が躍っていました。中には、「介護の相談に応じます」という文言がありました。親の介護をしていても、その間に勤務できますよという意味なのかもしれません。
もっとも、カットが980円、タイムサービスだと700円では、「やりがい搾取」で夢を奪われるのも当然という気がします。
激安を享受しながらこんなことを言うのは矛盾していますが、何だか痛ましささえ覚えました。便乗値上げで史上空前の利益を叩き出している業界がある一方で、このように競争が激しくて値上げしたくてもできない業界もあるのです。そして、そのツケは従業員にまわされているのでした。
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