
(写真AC)
■トーンポリシング
斎藤幸平氏は、ジャニー事務所の2回目の記者会見のあとに出演したTBSの「news23」で、井ノ原快彦の発言を「トーンポリシング」だと言っていました。私も、たまたま同番組を観ていましたが、正鵠を得ているコメントだなと思いました。
「(略)要するに加害者の側、ルールを破った加害者がルールを持ち出したり、子供に対して性加害をした側が子供たちの名を出して“あなたたちがルールを守りなさいよ”と言うというのは、加害者の側が追及者を丸め込む方法なんです」
スポニチ・アネックス
ジャニ会見での井ノ原発言は「明らかにトーンポリシング」 東大大学院・斎藤幸平准教授が指摘
そして、会場にいた報道陣が井ノ原の発言に拍手したことについても、次のように言っていました。
「報道側もそうやってルールを過剰に守ることで今まで隠ぺいする共犯関係でそれが被害を拡大した面もあるにもかかわらず、そのことにどれぐらい自省、反省があるのかということに、このシーンを見て違和感を感じたということですね」
(同上)
まさに愚劣な光景と言うしかないのですが、しかし、さらにそれは二重三重に愚劣だったことがあきらかになったのでした。
■「NGリスト」の発覚
今回の記者会見に際して、同日の「news23」に斎藤氏とともにコメンテーターとして出演していた鈴木エイト氏も含めて、質疑応答の際に指名をしない「NGリスト」を顔写真付きで作成していたことが、NHKのスクープによって暴露されたからです。
その後、『FRIDAY』にリストの画像がアップされ、リストには質問させない「氏名NG記者」6名、質問させる「氏名候補記者」8名(「氏名」は「指名」の間違いと思われる)の名前と写真が掲載されていることが判明したのでした。そして、「NGリスト」に名前が上がっていたのは、鈴木エイト氏のほかに、望月衣塑子氏、緒方聡彦氏、本間龍氏、佐藤章氏、松谷創一郎氏(当日欠席)だったことがあきらかになったのでした。
一方、「指名リスト」には、ジャニーズ事務所に近い読売テレビ「ミネ屋」の芸能リポーター駒井千佳子氏と、「報道特集」から「ニュース23」のキャスターに移動したTBSの藤森祥平アナウンサーの名前が記載されていたことが判明したのですが、さらに、『FRIDAY』の画像でモザイクがかかっていた残りの6名も、それぞれ日経ビジネス、東洋経済、読売新聞、日本経済新聞、ロイター通信、ニューヨーク・タイムズの記者だということが特定されたのでした。ちなみに、会見では8名のうち5名が指名され質問したということでした。
ジャニーズ事務所は、「NGリスト」について、コンサルティング会社が勝手に作成したもので、事務所は関知してないと言っていますが、事務所が関知しないで作成などできるわけがなく、それこそ子供だましの嘘としか言いようがありません。実際に、弁明の中で、会見の2日前だったかの役員会にリストが示されたことを証言しているのです。
それどころか、あのときの拍手やテレビのカメラマンからもヤジが飛んだことなどを考えると、リストは”与党総会屋”の人間たちと共有していたのではないかという疑いすら抱かせるのでした。驚くのは、会場の整理係のアルバイトにまで、そのリストが配られていたという話があることです。
■デイリースポーツと新潮のゲスぶり
先月行われた1回目の記者会見の際も、東京新聞の望月衣塑子記者が、東山紀之新社長に過去のセクハラ疑惑について質問したことに対して、神戸新聞系列のディリースポーツが、「ジャニーズ記者会見 質問4分超の女性記者に疑問の声『自己主張をダラダラ』『悪いことした奴には失礼な対応してもいい?』」などという見出しで、望月記者を批判したのですが、ディリーは今回も同様に、(前の記事で紹介したように)「ルールを守らない」望月記者を批判しているのでした。
それがこのあり様なのです。彼らが如何にクソであるかということも、同時に露呈されたと言えるでしょう。
また、「ディリー新潮」も同様に、指名されないことに抗議した望月記者らの行動について、次のような記事を掲載していました。
ディリー新潮
ジャニーズ会見で再注目「東京新聞・望月記者」の記者会見トラブル歴 そこに「自己陶酔」はないのか
しかも、あろうことか、拍手した記者の言い分まで記事にしているのでした。
ディリー新潮
ジャニーズ会見で賛否 異例の「拍手」をした記者が明かす「“いい加減にしろよ”という思いが…」
言論に携わる人間として恥知らずとしか言いようがありませんが、新潮にそんなことを言っても馬の耳に念仏でしょう。こんな記事でスカートをめくったつもりになっている新潮は、相変わらずのゲスぶりを晒しているのでした。スポーツ新聞のコタツ記事とどこが違うんだと思います。
その後、緒方聡彦氏が新潮の記事に対して、当事者に取材もしないでこんな記事をよく書けたものだと批判したことが逆鱗に触れたのか、新潮は狂ったように望月衣塑子氏を誹謗する記事を次々とアップしています。
こんなネトウヨのネタ元のような会社が日本文学のスポンサーであり、三島由紀夫賞をはじめ文学賞の勧進元でもあるのです。大江健三郎のいかがわしさも新潮との関係にあったのですが、ここは是非、新潮で文芸部門を担当している編集者や葡萄のマークの本を出してステータスを得たと思っている作家センセイたちの見解を聞きたいものです。「文芸出版社」が聞いて呆れますが、ホントに「身過ぎ世過ぎのためには仕方ない」「いじわる」というような話で済ませることなのかと言いたいのです。
■ジャニーズ事務所は追放するしかない
「NGリスト」の発覚で、ジャニーズ事務所の一連の反省ポーズも無に帰した感じです。新会社の設立や東山紀之と井ノ原快彦の社長と副社長の就任(しかも、新旧の会社の兼任)には疑問の声も多かったのですが、これでは、好感度の高い人気タレントを風除けにして批判をかわす、姑息なやり方だと言われても仕方ないでしょう。ジャニーズ事務所の苦しい言い訳は、私にはもはや断末魔のようにしか聞こえません。
大手メディアの報道を見ると、ジャニーズ事務所の反省ポーズについて、その”判定”を財界のお偉方に求めるような姿勢が目立ちますが、そこには、早く元に戻したい、以前のようにタレントを使いたい、という思惑がチラついているように思えてなりません。そのために、スポンサーである財界の出方を伺っているような感じです。
「タレントに罪はない」と言いますが、しかし、プロデュースするのは会社なのですから、会社はタレントを通して大きな利益を得ることができるのです。「タレントに罪はない」というのは、ある意味で格好の”隠れ蓑”にもなり得るのです。「タレントに罪はない」ことにすれば、会費収入年間500億円のファンクラブ(ジャニーズファミリークラブ)も温存できるのです。
それに、事務所の最古参で”番頭役”でもあったと言われる白波瀬某氏が、タレントの個人的なスキャンダルをもみ消していたことはよく知られていますので、当然のことですが、タレントと事務所が持ちつ持たれつの関係であったことは否定すべくもない事実でしょう。
私は、前の記事で、「藤島ジュリー景子前社長氏も東山紀之新社長も井ノ原快彦新副社長も、テレビも新聞も週刊誌も、口で言うほどジャニー喜多川氏の性加害を深刻に受け止めてないのではないか。BBCに糾弾されたので仕方なく対応しているだけではないのか。彼らの頭の中には保身しかないのではないか」と書いたのですが、こんな反省しないサルのような会社は、新会社など言語道断で、芸能界から追放するしかないのではないか、とあらためて思いました。
ジャニーズ事務所のタレントたちも、ホントに技芸に優れたものを持っているのなら(そう自負するなら)、いつまでも篭の鳥でいるのではなく、大空に羽ばたいて自分で生きる術を身に付けた方がいいし、そうすべきでしょう。
関連記事:
ジャニーズ事務所の記者会見と自滅への道を歩むメディア
ジャニーズ事務所の記者会見と日本のメディアの惨憺たる光景