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パレスチナ自治区(写真AC)



■ハマスの奇襲作戦


10月7日未明、ガザ地区を実効支配するハマスが、イスラエルに向けて3000発とも5000発とも言われるロケット弾を撃ち込み、その一部は世界最強と言われるイスラエルの防空システム「アイアン・ドーム」をかいくぐって、テルアビブなどの主要都市に着弾、市民にも被害をもたらしたということでした。

しかし、これは陽動作戦だったという見方があります。その傍らで、1000名にのぼる戦闘員がイスラエルに越境して、ガザ地区に近い南部の町で開催されていたフェスを奇襲。900人が殺害され、100人以上が人質になって連れ去られたのでした。

その際、下記のように、冷蔵庫に6時間半隠れて、奇跡の生還を果たした女性の恐怖の証言が、日本のメディアでも大きく伝えられました。

TBS NEWS DIG
“冷蔵庫に6時間半、隠れた” ハマスの襲撃受けたイスラエルの女性が恐怖を証言

■イスラエルの「原罪」


それに対して、カリフ制再興を主張するイスラム原理主義者でイスラム学者の中田考氏(元同志社大教授)は、次のようにツイートしていました。


ナチの迫害から逃げ延びたユダヤ人たちが、1948年にパレスチナの土地を略奪しパレスチナ人を迫害して作ったのがイスラエルです。その過程で、万単位の大量殺戮を行い、子どもや若い女性に対する誘拐や性的暴行や人身売買など、暴虐の限りを尽くしたとも言われています。

欧州議会でクレア・デイリー議員(アイルランド選出)は、「2008年以降、西岸やガザ地区でイスラエルは15万人のパレスチナ人を殺し負傷させた。3万3千人は子どもだった。誰もそのことに言及せず、誰も彼らをテロリストと呼ばない」 と演説していましたが、たしかに、ハマスをテロリストと呼ぶならイスラエルもテロリストと呼ぶべきでしょう。




■ガザ地区の悲惨な状況


一方、イスラエルのヨアフ・ガラント国防相は、ガザ地区のパレスチナ人は「人間の顔をした動物」だから、電気も燃料も食糧も水もやる必要はないと発言しているのです。


ジャーナリストの川上泰徳氏によれば、現在、200万人以上が住んでいるガザ地区の人口中央値は18歳で、半分は子供だそうです。イスラエルのガザ空爆の死者の7割以上が民間人で、「犠牲を払うのはハマスではなく、多くの子供を含む一般市民」だと言っていました。そのガザ地区はイスラエルによって封鎖され、国防相が言うように、電気も食糧も水もガソリンもないのです。住民たちはガザから出ることもできないのです。

ガザのことを「天井のない監獄」と称したメディアがありましたが、まさに(皮肉なことに)ガザは現代のゲットーと言えるでしょう。

国連のターク人権高等弁務官も、「生存に必要な物資を奪って、民間人を危険にさらすような封鎖は国際人道法で禁じられている」とイスラエルを非難し、人道回廊の設置を求めています。

そんなガザにイスラエル軍が報復のために侵攻しようとしているのです。地上戦になれば、再び大虐殺が起きる可能性があるでしょう。

■”戦時の言葉”と親イスラエル報道


昨日、渋谷の駅前では、「イスラエルは打ち勝つ」などという横断幕を掲げたイスラエルを支持する集会が行われたそうですが、この集会には、旧統一協会とともに「新しい歴史教科書を作る会」の運動にも深く関与したキリスト教系の新宗教団体が信者を動員していたという話があります。でも、メディアは一切そのことを報じていません。そうやって、再び日本のメディアが”戦時の言葉”にジャックされているのでした。

アメリカの音頭取りで一斉に始まったハマス=テロリスト一掃の戦争キャンペーン。しかし、世界は一枚岩ではないのです。超大国の座から転落したアメリカに、もはや”世界の警察官”としての力はないのです。

世界の分断と対立は益々進み、これからも間隙をぬって世界の至るところで戦火が上がることでしょう。アメリカのウクライナ支援も早くも息切れが生じていますが、第二次世界大戦後、アメリカは”世界の警察官”を自認しながらも、一度も戦争に勝ったことがないのです。この事実を冷徹に考える必要があるでしょう。世界は間違いなく多極化の方向に進んでいるのです。

ましてや来年の大統領選挙でトランプが再び当選するようなことがあれば、世界覇権どころか、アメリカ自身が決定的な分断を招き、自滅への道に突き進むことにもなりかねないでしょう。

それにしても、イスラエルが一方的に被害を受けたかのような報道ばかりしている日本のメディアは、イスラエルやアメリカの戦争プロパガンダの広報機関と化しており、ジャニーズ問題でも指摘された、不都合なものは見て見ぬふりをして長いものに巻かれる体質が、ここでも露呈されているのでした。

どうしてガザのような現代のゲットーが生まれたのか。その責任は誰にあるのか。その根本のことが一切報じられないのでした。

ハマスに関して言えば、2000年の第二次インティファーダ(民衆蜂起)を主導して民衆の支持を集め、2006年の議会選挙で多数を占めて、ヨルダン川西岸にあるパレスチナ自治政府を合法的に掌握した過去があります。しかし、イスラエルと欧米が選挙結果を認めず、ファタハ(現在のパレスチナ自治政府を主導)との連立政権を妨害した上に、ファタハのクーデターを支援して、ハマスをヨルダン川西岸からガザへ追放したのでした。今回のハマスの攻撃を「絶望が突き動かした」と指摘する専門家もいますが、第三次インティファーダという見方もできるのです。

ガザは、イスラエルの南側にありますが、北側のレバノン南部を実効支配するシーア派の軍事組織・ヒズボラも参戦するという話が伝えられています。そうなればイスラエルは南北の二面作戦を強いられ、形勢が大きく変わる可能性があるのです。ガザの大虐殺が現実のものになれば、イスラム諸国も日本のメディアのように見て見ぬふり、、、、、、はできないでしょうから、さらに戦線が拡大することになるでしょう。もとより、アメリカが既に中東での覇権を失っているという現実も無視できないのです。

イスラエルは、自分たちユダヤ人がナチスにやられたことをそのままパレスチナ人にやったのですが、今、その「原罪」のツケを払わされようとしているのです。そして、その過程において、歴史のアイロニーとも言うべきあらたな民族迫害ホロコーストが再現されようとしているのです。そこに示されているのは、人間の愚かさとおぞましさ以外の何ものでもありません。

■追記


イスラエル軍は、ガザの住民に24時間以内の退避勧告を出したそうです。その期限は日本時間の10月14日の午前だと言われていますので、間もなくイスラエル軍の地上侵攻がはじまることが懸念されています。

しかし、それ以前から、イスラエル軍の空爆は始まっており、検問所が爆破されたり港が爆撃されたりしているのです。そうやって避難勧告とは裏腹に、人々がガザから出れられない(ハマスが逃げられない?)状態にしているのです。そもそもガソリンも電気も止められているので、車は使えないし、多くの住民は退避勧告を知ることもできないのです。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、現在の状態で人々が退避するのは不可能だとして、イスラエルの退避勧告を批判したそうです。アムネスティも、民間人にも「懲罰」を与えるようなイスラエルのやり方は戦争犯罪だと非難しています。

イスラエルがやろうとしていることは「皆殺し作戦だ」という声もあるくらいで、未来のテロリストの根を断つために子どもを容赦なく殺害する可能性も指摘されています。20世紀のジェノサイドを生き延びた者たち(の子孫)によって、21世紀のジェノサイドが行われようとしているのです。

BS-TBSの報道番組に重信房子氏の娘の重信メイ氏が出演したことに対して、テロリストの娘を出すなんてけしからんとネットが炎上したそうですが、そこに映し出されているのは、パレスチナ問題に対する驚くべき(呆れるばかりの)無知蒙昧で厚顔無恥なネット民(というか、ヤフコメに巣食うカルト宗教の信者たち)の姿です。彼らは、民族問題や民族主義のイロハさえわかってないのです。彼らはネトウヨとかシニア右翼とか呼ばれたりしますが、”右翼”ですらないのです。もっとも、如何にもYahoo!ニュースが喜びそうなテーマなので、炎上したというより炎上させたというのがホントかもしれません。

また、イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使が外国特派員協会で記者会見して、「殺人者とテロリストの家族に発言の場を与えるのを許すべきではない」とまくしたて、怒りをあらわにしたそうですが、どの口で言っているんだと言いたくなりました。まさに説教強盗の言い草ですが、イスラエル大使がこんなことを言うのも(こんなことを言うのを許しているのも)、日本のメディアがイスラエルの「原罪」への言及を避け、曖昧に誤魔化しているからでしょう。

「平和」や「人道」という言葉を使うなら、まずイスラエル建国の「原罪」を問うことから始めるべきでしょう。

今回の「ハマスの奇襲」について、イスラエルの歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリがワシントン・ポスト紙に寄稿した文章(下記の翻訳されて転載された文章)を読みましたが、その中で、ハラリは「歴史は道徳の問題ではない」と書いていて、私はがっかりしました。ハラリもまた、ただのシオニストにすぎなかったのです。

東洋経済オンライン
イスラエルの歴史学者が語る「ハマス奇襲」の本質

まさに今こそ、戦後世界の”悪霊”とも言うべきイスラエル建国の歴史=「原罪」が、「『道徳』の問題」として厳しく問われなければならないのです。それがパレスチナ問題の根本にあるものです。ハラリが言うネタニヤフのポピュリズムなど二義的な問題にすぎません。「ハマスの奇襲」が問うているのもイスラエル建国の「原罪」なのです。でないと、いくらハマスを皆殺しにして一掃しても、これからもパレスチナの若者たちは銃を手に立ち上がり、第二第三のハマスが生まれるだけでしょう。現に今までもそれをくり返して来たのです。
(10/14)
2023.10.12 Thu l パレスチナ問題 l top ▲