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■国際法違反のシファ病院突入


12日に、WHOと国連人口基金とユニセフの国連三機関が共同で、ガザ北部にあるシファ病院をはじめとする病院への攻撃を停止するための「緊急行動」を求める声明を、国際社会に向けて出したばかりですが、イスラエル軍はそれをあざ笑うかのように、15日未明、シファ病院に突入したのでした。国連三機関の声明はまさに悲鳴にも似た悲痛な訴えだったのですが、”狂気”と化したイスラエルには通じなかったのです。

朝日新聞は、病院突入は「国際法違反の可能性がある」と書いていましたが、誰がどう見ても、戦時における「傷病者、難船者、医療組織、医療用輸送手段等の特別の保護」を定めるジュネーヴ条約及び追加議定書の違反であることはあきらかです。

しかし、イスラエルがターゲットにしているのは医療機関だけではありません。難民キャンプや学校も無差別に空爆しているのです。

また、イスラエルの空爆による死者は、ガザの北部だけではなく南部でも多く発生しているのでした。北部から南部への避難を促すイスラエルの警告も罠の疑いさえあるのです。国連人権問題調整事務所(OCHA)が発表した11月9日現在のデータによれば、イスラエルの空爆で亡くなったガザの住民は10,818人で、それをおおまかに北部と南部に分けると、北部は7,142人(66%)、南部は3,676人(34%)です。南部に避難すれば安全というわけではないのです。

シファ病院には600~650人の入院患者と200~500人の医療従事者、それに約1500人の避難民が残っていると言われますが、既に地上侵攻後、医療従事者16人を含む521人が死亡したと言われています。

エルサレムからの共同電によれば、病院に残る医師は、アルジャジーラの電話取材に、突入したイスラエル軍によって、「多くの避難者が軍に拘束され裸にされた」「手錠をされた上、目隠しで連れて行かれた」と語ったそうです。

病院には電気が供給されておらず、子どもたちは麻酔もないまま手術を受けていると報じられていますが、そんな中に武装したイスラエル兵が突入して、避難している人たちを次々と連行したのです。

ガザではこの1ヶ月のイスラエル軍による爆撃で既に1万人以上が死亡し、そのうち半数は子どもだそうです。

『エコノミスト』(11月21・28日号)の「絶望のガザ」という特集の中で、福富満久氏(一橋大学教授)は、「今、私たちが目にしているパレスチナと中東の問題は、恣意的に権力を行使して好きなように振る舞う欧米諸国に対する憤りの表出であり、屈辱を受けてきた者たちの反乱なのである」と書いていました。

ここに来て、パレスチナ人差別をホロコーストの贖罪に利用した欧米の欺瞞と矛盾もいっきに噴き出した感じです。イスラエルの蛮行に反対する人たちは、同時に欧米も同罪だと非難しているのです。

しかし、アメリカは今なお、シファ病院の地下がハマスの司令部になっているというイスラエルの主張に同調し、イスラエルの蛮行を容認する姿勢を崩していません。

■司令部があれば病院を攻撃していいのか


私は、イスラエルの主張を聞いて、映画「福田村事件」の中で、行商人たちが(朝鮮人ではなく)日本人かも知れないので、鑑札の鑑定の結果を待とうではないかと村人たちを説得する村長に対して、「朝鮮人だったら殺してもええんか?」と村長に詰め寄った行商人のリーダーの沼部新助の言葉を思い浮かべました(その直後、沼部新助は、頭上に斧が振り下ろされ惨殺されるのですが)。じゃあハマスの司令部があれば病院を攻撃していいのかと言いたいのです。

もっとも、イスラエルが公表した映像もずいぶん怪しく、司令部と言うには自動小銃や手榴弾があるだけのしょぼい装備で、せいぜいが兵士の隠れ家と言った感じでした。ずらりと並べられた自動小銃も、撮影のために置かれたのは間違いなく、病院の地下室にあったという証拠にはならないのです。

映像に映っているのは病院とは違う場所なのではないかと話す病院関係者さえいるのでした。また、イスラエルが主張していた地下通路も映像には出ていませんでした。中には、MRIの裏に武器を隠していたという、(テレビドラマの観すぎのような)わざとらしい映像もありました。

そのため、欧米のメディアでも、イスラエルの主張には説得力がないという受け止め方が大半だそうです。しかし、このお粗末なプロパガンダがガザの地上侵攻の口実に使われ、多くの命が奪われることになったのです。

■ヨーロッパに広がる反ユダヤ主義


イスラム研究者の同志社大学大学院教授・内藤正典氏のX(旧ツイッター)には、胸を締め付けられるようなパレスチナ難民たちの動画がアップされていますが、下の動画もそのひとつです。この動画に内藤氏は、「子どもにこんな恐怖を与えるな」とコメントを付けていました。


ヨーロッパではユダヤ人に対する嫌がらせや暴力が広がっているというニュースがありましたが、イスラエルの”狂気”がシオニズムに由来するものである限り、反ユダヤ主義に結び付けられるのは仕方ない面もあるように思います。ユダヤ人というのは、〈民族〉というよりユダヤ教徒を指す言葉なのですが、ユダヤ人=ユダヤ教徒=シオニズム=イスラエルの蛮行という連想には、根拠がないわけではないのです。

こんなジェノサイドを平然と行うユダヤ教やそれを心の拠り所にするユダヤ人って何なんだ、ナチスと同じじゃないかと思われたとしても、それを咎めることはできないでしょう。もちろん、だからと言って、ユダヤ人=ユダヤ教徒がみんなイスラエルの蛮行を支持しているわけではありません。

ホロコーストの贖罪から無条件にイスラエル(シオニズム)を支持してきたドイツは、それ故にイスラエルの蛮行を前にしてもただ傍観するだけです。イスラエルに負い目があるヨーロッパは、この歴史のアイロニーに、なす術もなく見て見ぬふりをしているのです。それどころか、ドイツに至っては、国内での反イスラエルのデモを禁止しているくらいです。

ホロコーストの犠牲になったユダヤ人が、今度はパレスチナ人に対して自分がやられたことと同じ民族浄化ジェノサイドを行っているのですが、この不条理が「ユ ダヤ人は神から選ばれた民であり、メシア(救世主)に救済されるのは選民であるユダヤ人だけである」というユダヤ教の教義に内在する選民思想=差別の構造に起因するものであることを認識しないと、イスラエルの”狂気”を正しく理解することはできないでしょう。リベラル派が言うように、イスラエルの蛮行と「ユダヤ人問題」を切り離すことはできないのです。

欧米を中心とする国際社会が求めている「共存」は共存ではありません。イスラエルへの「隷属」です。欧米が地図に定規で線を引いて中東を分割し、それを王族をデッチ上げて捏造した絶対君主制の国に配分した、帝国主義列強による中東政策の固定化にすぎません。イスラエルはその延長上にあるのです。しかも、そのイスラエルがいつの間にか核を保有する軍事大国=怪物になり、コントロールが利かなくなってしまったのです。

■アメリカの凋落


1年ぶりに対面での米中首脳会談がはじまりましたが、日本のメディアでは、経済的な苦境に陥った習近平政権が背に腹を変えられずバイデン政権に泣きついたみたいな報道が主流です。しかし、それは対米従属の見方にすぎず、実際は逆でしょう。中国には、来年の大統領選挙でほとんど勝ち目がない、ヨボヨボのバイデンと交渉するメリットはないのです。案の定、アメリカは、「デカップリング(供給網などの分離)を模索しない」(イエレン米財務長官)と、日本などをけしかけて「明日は戦争」のムードを作ったあの対中強硬策はどこに行ったのかと思うほど、会談前から中国に媚びを売っているのでした。前から言っているように、「明日は戦争」は、日本など対米従属の国に型落ちの兵器を売りつけるセールストークだったのです。

今回のガザへの地上侵攻においても、アメリカの凋落は惨めなほどあきらかになっています。イスラエルがまったく言うことを聞かないので、アメリカは後付けでイスラエルの行為を追認して、みずからの影響力の低下を糊塗しているようなあり様です。

そこにあるのは、超大国の座から転落してもなお、精一杯虚勢を張ろうとするアメリカのなりふり構わぬ姿です。もとより、ロシアがウクライナを侵攻したのも、イスラエルが強気な姿勢を取り続けるのも、そんなアメリカの凋落を見通しているからでしょう。

■「人道主義」という言葉


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”狂気”と化したイスラエルの蛮行はもう誰にも止められないのです。国連安保理が停戦決議を採択しても、今まで何度も国連の決議を無視してきたイスラエルにとってはカエルの面にションベンです。

ただ、イスラエルの蛮行がエスカレートすればするほど、イスラエルは世界で孤立し、反ユダヤ主義が広がり、アメリカの権威の失墜、凋落が益々顕著になり、ヨーロッパの分断と混乱が増し、そして、世界の多極化がいっそう進むのです。その先にあるのは、グローバルサウスの台頭に見られるように、アメリカなき新たな世界秩序です。

しかし、そんな「国家の論理」とは関係なく、私たちには平和や人権といった絶対に譲れない私たち自身の論理があるはずです。国連三機関の悲痛な訴えはイスラエルやユダヤ人には通じなくても、世界の世論には通じたと信じたい気がします。でないと、「人道主義」という言葉は死語になってしまいます。”西欧的理念”が崩壊した現在、空爆を受けた子どもの膝の震えに目を止めることができる人々の怒りと悲しみの感情と意思だけが理性の最後の砦なのです。
2023.11.16 Thu l ウクライナ侵攻 l top ▲