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(写真AC)



■歯止めがかからない死者数


イスラエル軍はガザ北部から南部へと侵攻し、ガザの住民の死者がさらに急増、メディアは犠牲者の数に歯止めがかからない状態になっていると伝えています。

歯止めがかからないと言っても、犠牲になっているのは生身の人間なのです。命を奪われた人たちひとりひとりにはそれぞれの人生があったのです。天井のない牢獄で生まれても、当然ささやかな夢や希望があったに違いありません。それがイスラエル軍の爆撃で無念の死を迎えることになったのです。ガザの保健当局の発表では、この2ヶ月間で既に1万7000人以上が亡くなったということです。もはや彼らは個別の存在ではなく、「死者数」という数の上にしか存在しないのです。

イスラエル軍はハマスの壊滅をめざしていると言っていますが、この1万7000人の大半は民間人で、その半数近くは子どもだと言われています。文字通りの無辜の民なのです。でも、イスラエルのヨアフ・ガラント国防相が言うように、パレスチナ人は「人間の顔をした動物」であり、子どもも将来のテロリストなので、殺害するのに容赦ないのです。

これは誰が見ても、ジェノサイド以外のなにものでもなく、かつてホロコーストの犠牲になったユダヤ人たちが、今度はその”被害者の論理”を盾にして、パレスチナ人に対してジェノサイドを行っているのです。

でも、イスラエルは、勝てば官軍だと言わんばかりに攻撃の手をゆるめる気配はありません。日本のメディアの両論併記を地で行くような、日本人の「どっちもどっち論」だと勝てば官軍になるのかもしれません。しかし、それは、20世紀に人類が辿り着いたヒューマニズムという考えを、人類みずから否定することになるのです。今、私たちはその瀬戸際に立っているのだと言ってもいいでしょう。

■スーザン・サランドン


アカデミー主演女優賞を受賞したこともあるアメリカの女優・スーザン・サランドンが、反イスラエル発言で批判を浴び、映画を降板され、所属する事務所からも契約を解除されたというニュースがありました。

ディリースポーツ
スーザン・サランドン 反イスラエル発言で映画降板、事務所も契約解除

超大物女優 差別発言で大手事務所から契約解除「社員数人が非常に傷ついた」

実に驚くべき、そして、憂慮すべきニュースだと思いますが、日本国内の反応は、おおむね「ハリウッドはユダヤ系に支配されているので仕方ないよね」というような能天気なものです。

記事は次のように書いていました。

 スーザンは、ニューヨークで行われているイスラエル・ハマス紛争に反対する一連のデモに参加してきており、反ユダヤ主義的と捉えられている「川から海まで」というスローガンを唱えていたほか、最近のデモでは「現在、多くの人々がユダヤ人であることに恐れを抱いており、この国でムスリムがどう感じているのか分かり始めてきた」と話していた。

 またスーザンは、長年反ユダヤ主義者とレッテルを張られているピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズのX(旧ツイッター)への投稿をリツイートしていたことでも非難を浴びている。ウルグアイで開催されたイベントに関する同投稿には「このイベントを中止させようというイスラエルの圧力にも関わらず、ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズは(パレスチナのアイデンティティの象徴であるスカーフ)ケフィエをまとってウルグアイのステージに立ち、ガザ地区におけるイスラエルによる大虐殺を止めるよう訴えた」と綴られていた。

 スーザンは、過去にはジェーン・フォンダと共にイラク戦争反対デモに参加、また大統領選ではバーニー・サンダースを支持するなど、その左派の政治的活動でも知られている。


スーザン・サランドンの何が問題なんだと思いますが、アメリカではユダヤ人によって、かつての「赤狩り」を彷彿とするようなパージが既に始まっているのです。

あのガザの悲惨な光景を前にしても、ユダヤ人(ユダヤ教徒)たちは、パレスチナ人は当然の報いを受けているかのように言い、イスラエルを批判する人間を、民主主義を標榜する社会から(民主主義なんて関係ないと言わんばかりに)排除しようとしているのです。鬼畜のようなナチズムの犠牲になった彼らが、80年後、鬼畜のように牙をむき出にして、イスラエルを批判する人たちに襲いかかっているのです。

■誰も仕切れない世界


ユダヤ人(ユダヤ教徒)が信奉するシオニズムのようなカルト思想の前では、民主主義やヒューマニズムといった、「普遍的」あるいは「叡智」と言われるような概念が如何に脆いものであるかということを見せつけられた気がします。でも、ファシズムはこういった宗教の衣装をまとってやって来ることもあるのです。それに、今のイスラエルを見ればわかるように、ファシズムの犠牲者がファシストになることもあるのです。

スタンフォード大学をはじめアメリカの学生たちの間で、反イスラエル=親パレスチナの主張が広がっているそうですが、スーザン・サランドンが言うように、ナチスが簒奪したものとはまったく別の新たな「ユダヤ人問題」が生まれつつあるのはたしかでしょう。

もちろん、世界の多極化という背景があるからですが、このような「誰も仕切れない世界」の現状について、斎藤幸平は「ポリクライシス(複合危機)」という言葉を使って警告していました。まるで中世の「戦国時代」に戻ったかのような話ですが、だからイスラエルもどんなに暴虐の限りを尽くしても、勝てば官軍だと思っているのでしょう。

おかしいものをおかしいと言えない時代。それは、宗教も政治も関係ないし、制度の問題でもないのです。私たちにおかしいものをおかしいと言う勇気と想像力と、そして、真っ当な考えがあるかどうかなのです。それが問われているのだと思います。過去においては被害者であっても、だからと言って今の彼らが正しいとは限らないのです。この歴史のアイロニーを正面から受け止める必要があるのです。

問答無用とばかりに突きつけてくる”被害者の論理”にひるむことなく、イスラエルの勝てば官軍の企みを批判し続けなければならないのです。イスラエルやユダヤ人を語るとき、奥歯に物が挟まったような言い方をやめるべきなのです。

でないと、民主主義やヒューマニズムが、イスラエルやそれを支持するユダヤ人(ユダヤ教徒)に蹂躙されたままで終わることになるでしょう。新たな「ユダヤ人問題」とはそういうことだと思います。
2023.12.09 Sat l パレスチナ問題 l top ▲