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(イラストAC)



■警備員の薄給


都外の海の見える介護施設で警備員のアルバイトをしている70歳の知人に会って、話を聞きました。

彼は、月に12日のペースで勤務をしていると言っていました。ただ、平日は夕方5時から朝の9時までの夜勤ですが、土日や祝日は朝9時から翌日の朝9時までの(警備業界で「当務」と呼ばれる)24時間勤務になるそうです。12日の勤務のうち3日~4日が24時間勤務で、日当も平日の夜勤の倍だそうなので、24時間勤務を2日分と考えれば、15日~16日分の勤務になるのです。平日の夜勤が1万円、「当務」が2万円で、月の収入は額面で15~16万円。今は非正規雇用でも一定の条件を満たせば社会保険の加入が義務付けられていますので、そこから所得税と健康保険料を引かれると(70歳を越えているので年金保険料はない)、手取りは14万円前後だと言っていました。

考えてみれば、夜勤を実質的に15日~16日しているわけですから、ほぼフルタイムで働ていると言っていいでしょう。帰ってから拘束時間を計算したら、月に192時間~206時間くらいです。それで、この給与なのですから、警備員が如何に薄給であるかがわかろうというものです。

彼が働いている施設は一人勤務で、三人でローテーションを組んでいるそうですが、ただ、その中の一人は二つの施設を掛け持ちしているのだとか。

三人の中で彼がいちばん年下で、あとの二人は80歳近くの後期高齢者だそうですが、でも、彼がいちばん勤務日数が少なくて、会社からももう少し増やせないかと言われているのだとか。あとの二人は、「当務」を2日分と考えれば月に17日~18日分働いているそうです。

「低年金だからじゃないかな」と言っていました。知人も、ずっとフリーで仕事をしていましたので年金は多くないのですが、それでも年金と合算すれば、今の給与で「充分」と言っていました。

あとの二人はいづれも独り者だそうなので、一人分の年金だと生活するのが困難を極めるという、年金生活の現実を映し出しているような気がしないでもありません。

■警備業界は最後の拠り所


二人のように月に17日~18日分も勤務すると、ほかの警備員との兼ね合い(ローテーション)もあるので、夜勤明けにも勤務する「連チャン」をしなければならないのだそうです。つまり、夜勤から帰った日に、夕方から再び夜勤に入るという勤務です。文字通り、老体に鞭打って働いている姿が目に浮かびました。

彼は、あまり仕事を入れると自分の時間がなくなるからと言っていました。いくら生活のためとは言え、残りの人生を、夜勤から帰って寝て、そして起きたらまた仕事に向かうというような生活の繰り返しで終えるのは、あまりに空しく切ないと言ってましたが、そのとおりでしょう。

彼らの仕事は、同じ警備員でも「施設警備」と呼ばれ、室内でモニターなどを監視するのが主な仕事なので、警備員の中でも比較的恵まれた仕事とは言えます。でも、人手不足は深刻で、辞めた人間の補充もきかないので、事務の社員なども総出で現場に出ている状態なのだそうです。

下記は、2021年のコロナ禍に書かれた朝日新聞特別取材班の記事に掲載されていた「2020年4月以降の有効求人倍率」の表ですが、これを見てもわかるとおり、コロナ禍においても「警備員を含む『保安の職業』」の求人は、慢性的な人手不足にあったことがわかります。

東洋経済ONLINE
70代の高齢警備員「老後レス社会」の過酷な現実

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この異常な有効求人倍率を見ると、警備員の給与が上がってもおかしくないのですが、給与はほとんど上がっていません。

もちろん、警備業界に人が集まらないのは、労働条件が劣悪だからです。それは、今問題になっているドライバー不足の上を行くような劣悪さですが、一部の大手を除いて、業界にはそれを改めようという姿勢は見られません。何故なら、(特に高齢者が働いているような零細な)警備会社は利益率が著しく低く、経営体力が弱いからです。

ただ、警備業界が構造的に抱える人手不足のおかげで、高齢者たちが仕事にありつけるので、彼らにとっては「好都合」とも言えるのです。要するに、決して生産的はないけれど、警備会社と高齢者の間で持ちつ持たれつの関係ができているのです。

高齢者といえども辞められたら困るので、多少のミスをしても会社は目を瞑ると言っていました。中には契約先から、あまりにヨタヨタなので警備員を変えて貰いたいと言われても”クビ”にすることはなく、別のうるさくない契約先にまわすだけだそうです。

会社にとっては「いないよりまし」なのです。多少の物忘れがあっても認知が進んでいなければオッケー。少しくらい足を引きずっていても歩ければオッケー。入院しても、退院して働けるようだと職場復帰は歓迎だそうです。つまり、警備業界は、風俗業界と同じで、行き場のない人間たちの最後の拠り所のようになっているのです。

もちろん、外国人労働者が警備業に就くことも、条件をクリアすれは可能です。しかし、タクシーや介護ほども雇用は進んでいません。いくらヨタヨタの高齢者でも外国人よりは「まし」なのです。それが警備が(難しくはないけど)特殊でデリケートな仕事であるからです。

■介護施設も「老人天国」


もっとも、知人は、「老人天国」であるのは介護施設も同じだと言っていました。介護職員は若い人が多いものの、介護以外の仕事は老人ばかりだそうです。

ディサービスの送迎車の運転手然り、入所者の衣類などを洗濯する家事の人も然り、入所者の食事を介助する人も然り、それから警備と同じように下請け業者に委託されている清掃や厨房で働いている人たちも然りです。介護施設は高齢者の職場でもあるのです。しかも、彼らはおしなべて非正規職員(社員)で、彼らの賃金は各都道府県が定めた最低賃金と相場が決まっています。

そんな彼らでさえ、介護職の若い人たちは可哀想だと口を揃えて言っているのだとか。それくらい介護職は恵まれない、ワリに合わない仕事なのです。

厚生労働省は、人材の確保のために、2024年2月から介護職員1人あたり月6千円の賃上げを実施する方針だそうですが、私のような部外者から見ても、ひと桁違うだろうと思いました。

一方で、政府がすすめる子育て支援(異次元の少子化対策)には総額で3.6兆円が必要で、そのために「社会保険料に上乗せした支援金制度」が創設されるそうです。国民全員が子育て家庭のために応分の負担をしろというわけですが、その陰では、このようにワリに合わない仕事で疲弊し、将来の人生設計も描けない介護職員や、自業自得と言われ、自己責任を強いられた「死ぬまで現役」の老後を送っている高齢者たちがいるのです。

■理不尽でむごい世の中


ホントに理不尽でむごい世の中になったものだと思いますが、何より糾弾されなければならないのは、歌を忘れたカナリアの左派リベラルが保守的な国家論に基づいた(将来の納税者を確保するための)「産めよ増やせよ」に同調していることです。

子育て支援と言うなら、今のような総花的なバラマキではなく、貧困対策の中で考えるべきだと思いますが(貧困家庭に対する手厚い支援を行うためにもそうすべきですが)、彼らには上か下かの視点がまったく欠落しているのです。左派リベラルには、今の世の中が理不尽でむごいという認識さえないのではないかと思います。

もちろん、そんな理不尽でむごい世の中を支えているのは、社会の主人公の国民たちです。国民の中にも、余命が短い高齢者に税金を使うのは税金の無駄遣いとでも言いたげな、所詮は他人事のような考えがありますが、でも、「死ぬまで現役」の高齢警備員たちは間違いなく明日の自分の姿なのです。それがまったくわかってないのです。
2023.12.17 Sun l 日常・その他 l top ▲