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(ウエザーニュースより)



■僅か2000人


1月1日に発生した石川県能登地方を震源地とする地震では、食料や水や毛布などの支援物資が届かず、被災した人たちから支援を求める声が相次いでいますが、1995年の阪神・淡路大震災以後、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震と甚大な被害を出した地震が続いたにもかかわらず、また同じことをくり返しているような気がしてなりません。

地震が発生して2日経った1月3日の夜に、「岸田首相は、石川県の馳知事や被災地の自治体の首長らとオンライン会議を行い、被災地の状況確認、支援ニーズの確認などを行った」というニュースがありました。

そして、岸田首相は、下記のように述べたそうです。

会議の後、岸田首相は「ニーズを確実に吸い上げ、確立すること、自治体の機能が十分に回復するまでの間は、国が自治体をサポートしてニーズの把握と物資の運搬が重要だと認識している」と述べた。

岸田首相は、木原防衛相に対し、自治体が把握しきれない支援物資のニーズを自衛隊が避難所を回り聴き取って、救援物資の輸送まで行うよう指示したことを明らかにした。

FNNプライムライン
能登半島地震 岸田首相「国が自治体をサポートしてニーズ把握と物資運搬が重要」


また、讀賣新聞によれば、同日(1月3日)の午前、岸田首相は、非常災害対策本部会議を開いて、自衛隊の人員を2000人程度に倍増することを決定したそうです。それは、「生存率が急速に下がるとされる『発生から72時間』を4日午後に迎えることを意識」したものだそうです。

一方、同日(1月3日)の朝に行われた石川県の災害対策本部会議で、市内6000世帯のうち9割がほぼ全壊して、「壊滅的」な被害に遭ったと言われる珠洲市の泉谷市長は、「対応できていない救助要請は72件に上っているので、人命救助を最優先にしてほしい。避難所のトイレも限界で至急仮設トイレが必要だ」と訴えたそうです。それを受けてなのかどうか、岸田首相は、発生して2日経ってやっと派遣する自衛隊を倍増することを決定したのです。それでも僅か2000人なのです。

■佐藤正久参院議員のプロパガンダ


そんな切羽詰まった状況の中で、ヤマザキパンが支援のパンを送ったとかで、自衛隊出身の佐藤正久参院議員がみずからのX(旧ツイッター)に、パンが自衛隊員の手で運ばれる様子を撮影した動画をアップして、「ヤマザキパンさん、いつも災害時にご支援ありがとうございます。避難所等に届けます」と投稿したそうです。

日刊スポーツ
ヤマザキパンが能登半島地震の被災地に「いつも災害時に国民を助けてくれる!」SNSに称賛続々

佐藤参院議員の投稿に対して、SNS上では「流石ヤマザキ!」「やっぱり天下のヤマザキ!」と称賛の声が相次いだそうですが、災害時においてもこんな見え透いた自演乙を繰り返している日本という国は何なんだと思いました。

パンの提供はそれはそれでありがたいことでしょうが、しかし、何より必要なのは被災者全員に行き渡るような政府の支援でしょう。

佐藤正久参院議員のXを見ると、自衛隊員はまるでボランティアで救助活動をしているみたいな感じです。しかし、言うまでもなく、彼らは出動手当を貰って当たり前の任務を行っているだけです。自衛隊を派遣するには隊員の手当や滞在費も含めて莫大な費用がかかるので、派遣する人数をケチるのも予算の関係があるのではないかという声もあるくらいです。

と言うか、自衛隊にしても、佐藤参院議員のXに見られるように、災害派遣は本来の任務から外れた、言うなれば、自衛隊が頼りになる存在だと宣伝するための機会としか捉えてないようなフシさえあるのです。そのため、やたらフォーマンスが目立つような気がしてなりません。

佐藤参院議員のプロパガンダに乗せられて、自衛隊員をヒーローのように持ち上げるだけでは、悲痛な声を上げている被災者の現状から目をそらすことになるでしょう。私たちがまず目を向けるべきは、自衛隊員ではなく被災者なのです。

■日本に蔓延する事なかれ主義


火事の現場などでは、野次馬から「もっと早くしろよ」「消防は何しているんだ」という罵声が上がるのはよくあることです。災害の現場の映像などを見ても、救助活動をしている隊員よりそのまわりで見守っている隊員の方が多く、何だかもどかしい気がすることがあります。

瓦礫の下に放置されたまま、「発生から72時間」を迎える人たちは、一説には石川県全体で200人に上るのではないかと言われています。それを考えるといたたまれない気持になります。そんな状況下にありながら、(たしかにありがたい話かもしれないけど)ヤマザキパンさんありがとう、自衛隊はしっかり仕事をしていますよという佐藤参院議員の投稿に対しては違和感を抱かざるを得ません。政治家ならもっと他に目を向けるべきところがあるはずです。おそらく今回も、SNS上の称賛の声と違って、現場では「何やっているんだ」「どうして助けに来てくれないんだ」という怨嗟の声が上がっているに違いないのです。

もっとも、仮に自衛隊や消防隊に罵声を浴びせている姿が映像で流れたら、その人物はネットで袋叩きに遭うでしょう。テレビで「警察24時」とか「救急24時」とかいったドキュメンタリー風の番組をやっていますが、問答無用で自衛隊や救急を称賛したがる人間たちはテレビの観すぎなのかもしれません。あれはテレビ向けの顔にすぎないことを知るべきなのですが、彼らにこんなことを言っても所詮は馬の耳に念仏なのでしょう。

それより災害の現場でもっとも過酷で大きな役割を担っているのは、民間の土木作業員や地元の消防団員たちだという声があります。夜を徹して寸断された道路の復旧作業を行ったり、初動の避難誘導を行っているのは彼らなのです。そのおかげで、警察や消防や自衛隊が現場に向かうことができるのです。しかし、彼らにスポットライトが当たることはないのです。これみよがしにトラックに「災害派遣」の垂れ幕が付けられた自衛隊などに、感謝と称賛の声が寄せられるだけなのです。

公務員の特徴に前例主義と事なかれ主義というのがありますが、いつの間にか日本全体が、事なかれ主義と、それを隠蔽するためのパフォーマンスに堕しているような気がしてなりません。

今回も30数時間ぶりに倒壊した家屋の下から奇跡的に救助されたというような映像が流れていますが、それらは消防や警察が自分たちの仕事ぶりをアピールするためにみずから撮影したものです。しかし、救助されたのは僅か数人で、文字通り「奇跡」のように幸運な人たちです。その背後には、「人命優先」の訴えも空しく、生き埋めのまま放置され死を迎えることになる(既に死を迎えている)200人あまりの人たちがいることを忘れてはならないでしょう。

スポーツ中継などを見ていても、敗退した選手がまず口にするのは「自分は精一杯やったので悔いはない」というような弁解です。これもSNSが普及しはじめてからの傾向のように思いますが、要するに批判を恐れて弁解が先に立つのでしょう。自分を責めることがいいとは思いませんが、「まず弁解」の風潮がともすれば無責任な風潮をつくっていると言えなくないのです。

そして、そんな無責任な風潮を糊塗するために、「ニッポン、凄い!」「感動をありがとう」「勇気をもらった」の自演乙が行われているように思えてなりません。そうやって日本社会をおおう無責任体系が、手を変え品を変えて未だに続いているように思えてならないのです。

救助活動に携わる関係者は見事ほどおそろいの防災服に身を包んでおり、総理大臣までが見るからに真新しい(折り目がきっちり付いた)防災服を着て会見していますが、何だかそれで”やってる感”を出しているだけのような気がしてなりません。

これも「自粛」の一種なのかもしれませんが、救助隊を批判することはタブーみたいな空気があるのも事実でしょう。むしろ、感謝することを強要されるのです。そうやって被災者の悲痛な訴えはそっちのけに、公務に携わる人間たちの大変さや”やってる感”だけが強調されるのでした。

財務省によれば、2023年度の国民負担率、つまり収入に対する税金の負担率は46.8%だそうです。 ちなみに、統計をとりはじめた1970年度は34.3%でした。納税者であれば為政者や行政府に文句を言う権利は当然あるし、それが民主主義だと思いますが、官尊民卑の日本では文句を言うと謀反人みたいに叩かれる風潮があるのでした。

特に今回のような大災害のときは、自衛隊や消防や警察の言うことを聞け、彼らに任せろと言われて、ホントの被害の実態が掴めないまま、「一つになろうニッポン」「がんばろうニッポン」式の(おなじみの)ファナティズムに動員されてしまうのでした。

■ゲスの極み


地震の翌日に羽田空港で発生した日本航空と海上保安庁の航空機の衝突事故でも、どう考えても人的ミスによるものであるにもかかわらず、メディアでは、日航機が一人の犠牲者も出さずに脱出できたのは「奇跡」だとして、世界中から称賛を浴びているというような「ニッポン、凄い!」のニュースが優先されるのでした。

学習能力もなく同じことをくり返している日本は、ホントに「凄い」国なのかと思ってしまいます。

またぞろ、タレントなどを利用して、「一つになろうニッポン」「勇気をもらった」「元気をもらった」などという空疎な言葉が飛び交うようになるのかもしれませんが、(だったら前もって言いますが)他人の不幸で「勇気をもらった」り「元気をもらった」りするのはゲスの極みです。「最低の日本人」である彼らは、そんな「所詮は他人事」の美辞麗句によって被災者を愚弄しているだけなのです。
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