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(写真AC)



■榊英雄の犯罪


映画監督の榊英雄が、2月20日、準強姦の容疑で警視庁の捜査一課に逮捕されたというニュースがありました。

逮捕容疑は、2016年の5月23日に榊容疑者が事務所に使っていた港区赤坂のマンションで、女優志望の20代の女性に演技指導と称して性的暴行を行ったというものです。ただ、文春デジタルによれば、「警察は複数の女性からの被害届を受理しており、余罪を調べている。自宅から押収されたSDカードには、複数の女性とのわいせつ動画が50点以上見つかって」いるそうなので、今後、別の事件でも再逮捕される可能性は高いでしょう。

松本人志の性加害疑惑では、2015年の出来事を今頃告発するのはおかしい、すぐに警察に相談しなかったのも不自然だとして、告発女性をバッシングする声がありましたが、文春が榊英雄の性加害を報道したのは、2022年の3月10日号と3月17日号で、被害女性はその報道を受けて同年の9月に弁護士を通じて警視庁に相談し、翌年(2023年)の6月に被害届を出したそうです。被害届を出したのは、被害に遭ってから8年後なのです。

昨年の刑法改正で、不同意わいせつ罪(強制わいせつ罪から罪名が変更)の時効が7年から12年に、不同意性交罪(旧強制性交罪)の時効が10年から15年に延長され、さらにそれらの犯罪は親告罪から非親告罪になりました。

そのため、今までは告訴されても示談が成立して告訴を取り下げて貰えば、事件化を避けることができたのですが、それができなくなったのです。つまり、和解して(早く忘れたいという被害者の心情に付け込んで)あったことをなかったことにすることができなくなったのです。

松本人志の性加害疑惑でも、もし報道されていることが事実であれば、中にはあきらかに犯罪を構成する事案もありますので、非親告罪の施行後であったら、別の展開になっていた可能性もなくはないでしょう。

いづれにしても、性犯罪が「心の殺人」と言われるくらい被害者の心に大きな傷を残す犯罪なので、時効の延長は、それを勘案して告発するまで猶予の時間を持たせたという側面(配慮)もあるのだと思います。

松本を告発した女性も、芸能界で大きな力を持つ松本人志を敵に回すと、今後芸能界で活動できなくなると思い、長い間被害を公にすることができなかったと言っていました。榊容疑者の盟友の俳優の木下ほうかから被害に遭った女性たちも、同じようなことを言っています。そうやって、ときにフラッシュバックに苦しみながらも、胸の内にしまい込み、ものを言えずにいたのです。

木下ほうかの場合も、榊容疑者と同じように、演技のワークショップと称して(女優志願の)女性を集め品定めをしていたのです。強姦する際も、こんなことは芸能界では常識だ、これを受け入れなければ芸能界では生きていけない、というようなことを女性に告げているのです。

そして、告発されると、合意だった、事実無根だと弁明するのも同じです。榊容疑者も、新聞報道によれば、「映画に出る時に、ヌードにならないといけないこともある」「タトゥーがあると大変だから裸を確認したい」(文春オンライン)などと言って、女性に迫っているのです。

逮捕容疑になった事件の被害者とは別の女性は、『週刊女性』の記事の中で、榊容疑者の手口とその異常性について、次のように証言していました。

ライブドアニュース
「本当に殺されるのではないかと」逮捕の榊英雄容疑者 被害者が明かしていた“卑劣な所業”

女性は榊容疑者の映画に出演したあと、食事に誘われて性加害に遭ったと言います。

日曜日だったため居酒屋の営業時間が短く、2人はそれほど遅くない時間に退店。しかし、店が駅から離れていたせいか、通りには人けがなかった。すると突然、榊容疑者はCさんの腕を掴み、さらに人一人が通るのもやっとな建物と建物の隙間に押し込んだという。

「肩と頭を力いっぱいに抑えられ、跪かされました。いつのまにか彼は男性器を出していて『咥えろ』と。『嫌です』といっても無視され、『咥えろ、咥えろ』と低い声で繰り返し要求してきました。頭をつかまれていて動けないなか、無理やり立ち上がって抵抗しようとしたら『静かにしろ』『殺すぞ』と脅されて……。真っ暗なうえに、彼は道路を背に立っていて逃げられない。本当に殺されるのではないかと思いました。

行為後は人が変わったように『大丈夫?』と声をかけてきて、家まで送ろうとしてきた。意味がわからず怖かったです」

Cさんは隙を見て逃げ出し、警察に行くことも頭をよぎった。しかし被害状況を詳しく説明したり、状況を再現したりすることに耐えられる自信がなかったという。

「昔、痴漢を捕まえたときに、高圧的な事情聴取を受けたことがありました。自分が被害者の状況で、そんなふうに根掘り葉掘り聞かれたら心が壊れると思ったんです」

その後、Cさんのもとには榊容疑者から「また飲みに行こうね」と書かれたメッセージがーー。無視を続けたところ、榊容疑者からは「えっ怒ってる?」と送られてきたという。


松本人志が名誉棄損で文春を訴えた事件では、女性たちをアテンドしたスピードワゴンの小沢一敬から事前にスマホを取り上げられているのですが、松本人志の用意周到さに比べれば榊英雄容疑者はあまりに稚拙で、プロと素人の違いさえ感じるほどです。

■#MeToo運動に対する日本社会のトンチンカンな反応


映画界の性加害について、私は、以前、次のように書きました。

関連記事:
松本人志の性加害疑惑とミソジニー

もちろん、性加害はお笑いの世界だけにとどまりません。ひと足早く告発された映画界の性加害も、松本の報道をきっかけにYouTubeなどで取り上げられ、あらためて波紋を広げているのでした。そこで告発されているのは、男性に対する性加害も含まれているのでした。そして、告発の過程では、加害者の園子温や榊英雄や松江哲明だけでなく、”村社会の論理”で彼らをかばったことで二次被害を生じさせた、カンパニー松尾や森達也や町山智浩や水道橋博士などへも批判が向けられているのでした。

榊英雄のことはよく知りませんが、ほかの人間たちは、ヘイトスピーチに反対したりSEALDsの運動に同伴するなど、どちらかと言えばリベラル系と呼ばれる人たちです。最近も、ヘイトスピーチに反対する運動をしていた人間が、松本の問題について、#MeToo運動への理解の欠片もない、それこそ松本の信者と同じようなことをSNSに投稿をしているのを見て、唖然としたことがあります。人権にもっとも敏感であるはずの(敏感であるべき)人間が、こと性のことになると「性の二重基準」に何のためらいもなく依拠しているのでした。


松本人志や伊東純也の報道に関しても、#MeToo運動に対する日本社会のトンチンカンな反応には呆れるばかりです。何だか「嫌よ嫌よも好きのうち」とか、セックスのときに女性の尻の下にハンカチを置けば合法とかいった、アホな世界が未だに残っているかのようです。ネットで語られていることの多くはそのレベルなのです。

東国原英夫は、松本人志に対して、文春だけでなく告発した女性も訴えるべきだと言っていましたが、それを言うなら、スマホを取り上げて証拠を残さないように事前工作をした第一弾だけでなく、第二弾も第三弾も第四弾も第五弾も第六弾も名誉棄損で訴えるべきでしょう。

週刊新潮に性加害を報道された伊東純也が、週刊新潮ではなく、告発した女性に「2億円」の損害賠償を求めて提訴したのも、女性の口を封じるのが目的の”スラップ訴訟”のようなもので、著名人がお金にものを言わせて#MeTooに圧力をかけるような風潮さえ出ているのでした。そうやって被害者の女性たちが声を上げるのに、精神的にも金銭的にもより大きな負担を強いるように仕向けているのですが、あろうことか、日本ではメディアがその旗振り役を演じているのでした。東国原英夫の発言も、そういった流れを受けてのものだと思います。

芸能界やスポーツ界には似たような話が掃いて捨てるほどあると言われますが(それが半ば常識であるとまで言われていますが)、しかし、後を追うような報道はほとんど出ていません。むしろ、この社会に厳然として残るミソジニーに追随するような記事を垂れ流して、男社会の俗情と結託しているだけです。英雄色を好むとでも思っているのか、芸人として面白ければ、スポーツ選手として有能であれば、多少の”遊び”には目を瞑るべきだとでも言いたげです。

石井妙子氏が言うように、被害女性に沿った報道がほとんど見られないのは驚くべきことです。週刊誌やスポーツ新聞の発行元に勤める女性たちは、自社の記事をどう思っているんだろうと言った人がいましたが、「軽率」「不用意」「自己責任」という言葉も、もっぱら女性に向けて使われるのでした。

メディアは、まるでタリバンが支配するイスラム原理主義の世界や未だにカースト制の残滓が支配するインドの社会のように、襲った(襲おうとした)男より襲われた女性の方に非(問題)があるかのように言うのでした。そして、ホテルに女性を連れ込んだのがほぼ事実であるにもかかわらず(それだけでアウトでしょう)、松本人志や伊東純也があたかも被害者であるかのような報道さえ出ているのでした。それが日本社会の現実なのです。
2024.02.22 Thu l 芸能・スポーツ l top ▲