
このところずっとZARDを聴いているのですが、親しみやすいメロディでいい歌が多いなとあらためて思いました。ZARDがヒットを連発していた90年代、私は必ずしも同時代的に聴いていたわけではありませんが、メロディは知らず知らずのうちに耳に入っていたみたいで、今聴くとやはり、なつかしい気持になります。
また、ZARDの場合、タイトルが秀逸なのです。中でも、主に織田哲郎が曲を書いていた90年代の歌に秀逸なのが多いと思いました。「不思議ね‥」「眠れない夜を抱いて」「負けないで」「きっと忘れない」「この愛に泳ぎ疲れても」「こんなにそばに居るのに」「サヨナラは今もこの胸に居ます」など、なんだかタイトルを聞いただけでせつない恋の思い出が甦ってきそうです。
私自身もあの頃は溌剌としていたように思います。やはりまだ若かったからでしょう。人は心の持ちようだとか、年を取ってもいつまでも若い気持を持ち続けたいものだとか言いますが、それは単なる慰めにすぎません。この年になって初めてわかりました。若い気持なんて持ち続けられるわけがないのです。ましてや恋をするにしても、もう若いときのような恋ができるはずもありません。別に年寄りらしくあるべきだとは思いませんが、最近、どうもそのあたりを勘違いしている中高年が多すぎる気がします。せつない恋の思い出を胸に、黄昏に涙するのもひとつの生き方ではないでしょうか。
森鴎外は、「夜中、忽然として座す。無言にして空しく涕洟す」(夜中に突然起きて座り、ただ黙って泣きじゃくる)と日記に書いていたそうですが、私にも似たような経験があります。思い出はつらすぎるけど、だから思い出なんだと言えないこともないのです。
1年以上に渡って病魔と闘っていた坂井泉水もやはり、眠れない夜を抱えていたのかもしれません。早朝、慶応大学病院の通用口の手すりに腰かけ何を考えていたのでしょうか。雨に煙る神宮の森に目をやりながら、やはり、思い出に泣きたくなるような気持の中にいたのかもしれません。