
ネットの仕事は深夜にすることが多いのですが、そのときはいつもヘッドホーンで音楽を聴きながらやっています。そのときの気分によって、宇多田ヒカルであったり中森明菜であったりローリング・ストーンズであったり大西順子であったりするのですが、今夜はヘレン・メリルを聴いています。今夜は何故かヘレン・メリルを聴きたくて仕方ありませんでした。
ジャズ・ボーカルがやけに心に滲みるときがあります。最近は若いときほどジャズを聴いていませんが、ときどきふと、無性にジャズを聴きたくなることがあります。ロックは外向きだけど、ジャズは内向きだと言った人がいましたが、なんとなくわかります。また、ジャズは好きだけど、ジャズ喫茶やジャズファンは嫌いだと言った人もいましたが、それもわかります。
若い頃、アルバイトのお金が入ると高円寺の古本屋に行って、筑摩書房から出ていたドフトエフスキー全集を1冊づつ買いそろえていた時期がありました。そのあとは必ず高円寺の裏通りにあったジャズ喫茶に行って、わくわくしながら買ったばかりの本をめくったものです。私に限らず、そんなロシア文学とジャズがセットになった時代がありました。
その店では、いづれも私より上の世代でしたが、社会からドロップアウトしたような個性的な人達が集まっていました。俳優の天本英世さんもよく見かけましたが、工事現場で働いてお金が貯まると海外を放浪し、たまにしか顔を見せない人や未だに政治的な運動に関わっていて、のちにみずから命を絶った人もいました。みんな、そうやって人生と苦闘していたのです。
外は昨日からの雨がつづいています。やはり若い頃に読んだスコット・フィッツジェラルドの『雨の朝パリに死す』という小説を思い出しました。そう言えば、フィッツジェラルドもジャズ・エイジあるいはロスト・ジェネレーションと呼ばれていましたが、この小説のバックに流れているのも間違いなくジャズなのです。