午後から日本大通りの横浜簡易裁判所に行きました。訴訟の申し立てをするためです。商売をしていると、ときにいやな役目も引き受けなければなりません。裁判員制度の影響なのか、民事の受付の担当者の方は恐縮するくらい親切でした。30分近く申立書の書き方など懇切丁寧に説明していただきました。そう言えば、その前に県警本部にも行ったのですが、そこでも皆さん親切でした。


用件を終え、裁判所から外に出たら、前の日本大通りが大変な騒ぎになっていました。道路も封鎖され、赤色灯を点滅させた消防車や救急車が集まり、舗道も大勢のヤジ馬で埋まっていました。よく見ると、ハシゴ車まで出動していました。最初、出初め式かなと思ったのですが、この季節に出初め式はないだろうと思って、近くの人に訊いたら、通りに面したビルでボヤ騒ぎがあったのだそうです。三脚を立ててカメラを構えているテレビ局までいました。

ボヤ騒ぎのあと、いつものように海沿いを散歩することにしました。象の鼻公園から大桟橋、そして、赤レンガから汽車道を通ってみなとみらいまで歩きました。夕暮れまでは少し早かったのですが、埠頭を渡る風にも秋の気配が感じられました。夏休みの間は人が多いので、どうしても足が遠のいてしまいますが、これからは散歩にいい季節になりますね。私は、どちらかと言えば、「よこはま・たそがれ」(五木ひろし)より「横浜暮色」という言い方のほうが好きです。平岩弓枝の「御宿かわせみ」シリーズに『横浜慕情』というのがありますが、「横浜慕情」というと、ちょっと重すぎて現実感がなくなりますね。
いつもながら、故・平岡正明さんの『横浜的』にもこんな「横浜暮色」を描写した文章がありました。
少し陽が陰ってきた大桟橋に立ったら、ふと、五木寛之さんの『青年を荒野をめざす』を思い出しました。主人公のジュンもたしか大桟橋からバイカル号でナホトカに向かったのです。高校時代、この小説を読んで、自分も遠くへ行きたいと思ったものです。もっとも、九州の片田舎の高校生にとって「遠くへ行く」と言っても、せいぜいが東京で、海を渡るなんてまったく想像の埒外でしたが。そう言えば、同じ五木さんの『海を見ていたジョニー』でも、ジョニーが最後に身を投げたのも山下公園でした。ベトナム帰りのジョニーが見ていたのも横浜の海だったのです。










用件を終え、裁判所から外に出たら、前の日本大通りが大変な騒ぎになっていました。道路も封鎖され、赤色灯を点滅させた消防車や救急車が集まり、舗道も大勢のヤジ馬で埋まっていました。よく見ると、ハシゴ車まで出動していました。最初、出初め式かなと思ったのですが、この季節に出初め式はないだろうと思って、近くの人に訊いたら、通りに面したビルでボヤ騒ぎがあったのだそうです。三脚を立ててカメラを構えているテレビ局までいました。

ボヤ騒ぎのあと、いつものように海沿いを散歩することにしました。象の鼻公園から大桟橋、そして、赤レンガから汽車道を通ってみなとみらいまで歩きました。夕暮れまでは少し早かったのですが、埠頭を渡る風にも秋の気配が感じられました。夏休みの間は人が多いので、どうしても足が遠のいてしまいますが、これからは散歩にいい季節になりますね。私は、どちらかと言えば、「よこはま・たそがれ」(五木ひろし)より「横浜暮色」という言い方のほうが好きです。平岩弓枝の「御宿かわせみ」シリーズに『横浜慕情』というのがありますが、「横浜慕情」というと、ちょっと重すぎて現実感がなくなりますね。
いつもながら、故・平岡正明さんの『横浜的』にもこんな「横浜暮色」を描写した文章がありました。
花火は風のある日がいい。硝煙が吹き払われるからだ。今年の夏は快晴の日がなく、七月中旬の市主催の花火も、八月初めの神奈川新聞社主催の大会もぼんやりした夜空だったが、九時前終了してレンガ倉庫の間を引きあげてゆく人々の影がよかった。電灯の数がすくなく、ふだんは見回り用に使っている警備員の懐中電燈で足下を照らされてデコボコ道を家路につく市民の影絵が清親の明治浮世絵の雰囲気に近かった。赤煉瓦倉庫と花火の残照。日露戦争期の輸出主力、絹製品をさばくために建てられた倉庫が、旧字の「横濱」を描出する一夜だった。
(「赤煉瓦倉庫で見る花火」)
少し陽が陰ってきた大桟橋に立ったら、ふと、五木寛之さんの『青年を荒野をめざす』を思い出しました。主人公のジュンもたしか大桟橋からバイカル号でナホトカに向かったのです。高校時代、この小説を読んで、自分も遠くへ行きたいと思ったものです。もっとも、九州の片田舎の高校生にとって「遠くへ行く」と言っても、せいぜいが東京で、海を渡るなんてまったく想像の埒外でしたが。そう言えば、同じ五木さんの『海を見ていたジョニー』でも、ジョニーが最後に身を投げたのも山下公園でした。ベトナム帰りのジョニーが見ていたのも横浜の海だったのです。








