仕事をしながら久しぶりにオールナイトニッポンを聴いていたら、ニッポン放送のアナウンサーのくり万太郎とかという人がユーミンのベストアルバムを紹介していました。

ユーミンの歌を聴いていたら、ふと、昔田舎にいた頃に顔見知りだった女の子のことを思い出しました。当時、私は人口2万足らずの山間の小さな町に住んでいました。大分の地元の会社に勤めていたのですが、その町に新しくできた営業所に転勤になったのです。アパートなんてないので、古い民家を借りてひとり暮らしをしていました。

そんな町の取り引き先に小さな自動車の修理工場がありました。田んぼの中にあるその工場は社長と事務の女の子がいるだけでした。女の子は20代の中頃で、ごく普通の田舎の素朴な子でした。聞けば、隣町に実家があるにもかかわらず、その町でアパートを借りてひとり暮らしをしているということでした。しかし、私はその町に5年近くいましたが、彼女のアパートがどこにあったのか知らないままでした。そもそも女の子がひとり暮らしするようなアパートがあったとはとても思えないのです。

私は若い女の子がどうしてこんな田舎でひとり暮らしをしているんだろうと不思議でなりませんでした。どうせひとり暮らしをするなら都会に出て行けばいいのにと。かく言う私ももう一度東京に行きたいと思って、悶々とした日々をすごしていたのです。いったんは田舎に骨をうずめる覚悟をしたものの、やはり、どうしても東京に行きたいという気持をぬぐい去ることができなかったのです。

だから、その子に対しても、同じような目で見ていたのだろうと思います。のちに彼女が同じ町の魚屋のオヤジと愛人関係にあることを知りました。その話を聞いたとき、「どうして?」と俄かに信じられませんでしたが、それでよけい「どうしてこんなところで、あんなオヤジの愛人になんかになってくすんでいるんだろう?」と思いました。羽ばたいて自由になればいいのにと。

その彼女がユーミンが好きで、よくユーミンの話をしていたのです。ユーミンのアメリカナイズされたオシャレな世界と田舎で魚屋のオヤジと愛人関係をつづけている現実をどう折り合いをつけているのか、それも不思議でした。

でも、今になるとなんとなくわかるのです。世の中にはどうしても羽ばたけない人間っているのです。田舎で生まれて田舎の生活しか知らない女の子にとって、田舎を離れるということはとても勇気のいることなのでしょう。それに、他人にはわからない事情もあったのかもしれません。そして、そんな彼女にとってユーミンというのは、ある意味で「宗教」のようなものだったのかもしれません。東京や横浜で聴くユーミンもあるけど、そうやって田舎で心の支えとして聴くユーミンもあるのではないでしょうか。

会社を辞めて再び東京に行くことを決心して修理工場に挨拶に行ったら、彼女は「すごいですね」と言ってました。もちろん、羽ばたいても山の彼方に幸せがあるとは限らないのですが、ユーミンの歌を聴きながら、彼女はどうしているんだろう、幸せになっているんだろうか、と思いました。
2010.03.23 Tue l 芸能・スポーツ l top ▲