今日、テレビをみていたら、東京電力の「ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます」「節電にご協力ください」というお詫び広告が流れていたのでギョッとしました。もちろん、これは無料ではないはずです。CM放映料が(それも大金が)電通かどこかの広告代理店を通して各テレビ局に流れているはずです。

計画停電のグループ分けにしても、ネットなどによる情報収集ができない高齢者所帯などは、自分がどこのグループに入っているのかさえわからないケースもあるといわれています。そんなお金があるなら、どのグループに入っているのか、各戸にチラシを入れるくらいの心遣いがあってしかるべきだと思いますが、この広告の狙いはそんなところにあるのではないのでしょう。

要するに、これはマスコミ操作(マスコミ対策)なのです。福島第一原発の一連の経緯の中でも、マスコミの前に出てくるのは6人いる(らしい)副社長ばかりで、社長はほとんど姿を見せていません。昨日、6分の1人の副社長が、大名行列のように部下を引き連れ避難所に謝罪に赴いたシーンが出ていましたが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというわけか、ネットでは副社長の態度が「不遜だ」「ふてぶてしい」などという批判がありました。言われてみればたしかに、東電の幹部達はどことなく頭が高くて、民間会社の社員というより役人のような感じを受けます。今回の原発事故で、国が負担する賠償総額は1兆円をはるかに超すだろうといわれていますし、当然、東電にも賠償責任が生じるはずですが、しかし、東電が倒産することは絶対にないのです。東電は倒産しない特殊な会社なのです。

今回のお詫び広告が、CMが封印され収入減に苦しむテレビ局の足元をみた東電の戦略とみるのは穿ちすぎでしょうか。少なくとも、原発建設では、東電はそうやって札束でマスコミや地元自治体をねじ伏せてきたのでした。それが東電のやり口でした。かつての耐震偽装や食品偽装の報道などと比べると一目瞭然ですが、今でも東電に対してマスコミの報道はどこか及び腰です。しかし、これからますます表立った批判は姿を消すのではないでしょうか。その結果、なにが問題でどこに責任があるのかがあいまいな、わけのわからない報道ばかりがたれ流されることになるのです。そして、そんな場合必ず出てくるのが、「今は批判している場合じゃない」というマスコミの常套句です。

もうひとつ、気をつけなければならないのは、マスコミによる美談作りが既にはじまっているということです。特に福島第一原発の対応に当たる東電の社員や自衛隊員や消防職員の「勇気ある行動」などをやたら持ち上げる報道が目立ちますが、しかし、その背後には今回の事故で数万人の住民が避難生活を余儀なくされ、今後の生活の不安にさらされている理不尽な現実があることを忘れてはなりません。テレビのアナウンサーがよく「私たちのためにがんばってくれている現場の作業員の方々」という言い方をしますが、それが作業員(その多くは下請けの社員だと言われていますが)個人に対して言うのならわかります。でも、東電に対しては「そんなの当たり前だろう」と言いたくなります。でも、いつの間にかそう言えない、言いづらい空気になりつつあることも事実です。

明日開催される選抜高校野球にしても同様です。被災地から出場する東北高校は万雷の拍手で迎えられ、多くの美談に包まれるのでしょうが、被災地では東北高校が出場することに多くの異論があったことも忘れてはなりません。それに、ダルビッシュや宮里藍の例をあげるまでもなく、東北高校は全国からスポーツに秀でた生徒を集めた学校なので、そんなスポーツコースの選手達をみれば「地元代表」とは言い難い一面があることもたしかでしょう。

過度な自粛ムードは問題だとは思いますが、そもそも選抜高校野球はホントに開催すべきだったのかという疑問はぬぐえません。どこかの出場校の選手が「野球によって被災地の人達に勇気を与えることができればと思います」と言ってましたが、一体この言葉になんの意味があるのかと思います。よく耳にする言葉ですが、こういったマスコミが捏造した空疎な言葉を高校生に言わせる大人達は、実に悪質だなと思います。「純粋無垢な高校球児」というイメージも同様ですが、ホントは新聞社や高野連に、ソロバン勘定も含めた開催しなければならない”大人の事情”があるのでしょう。そして、そんな裏の事情を隠ぺいするために、東北高校が格好のヒーローに仕立て上げられるというわけでしょう。NHKのアナウンサーが美辞麗句を乱発する場面が目にみえるようで、想像するだけでもおぞましい気がします。

しかし、そんな美談に関係なく、被災者の苦難はこれからもつづくのです。それだけは間違いない。
2011.03.22 Tue l 震災・原発事故 l top ▲