国会議事堂

商売している身なので、政治の話はあまりしたくないのですが、菅内閣に対する不信任案をめぐる騒ぎにはホトホト呆れるばかりです。不信任案が否決されたにもかかわらず、なぜか菅退陣が決定的になったかのような報道がくり返され、今や与野党あげて菅おろしに狂奔している感さえあります。どう考えても、被災者そっちのけで政争にうつつをぬかしているとしか思えず、政治に絶望するには充分すぎるくらい愚劣な光景です。

そもそも自民党や公明党が提出した不信任案に大義がないのは、誰が見てもあきらかなのです。国策の名のもとに、東電をあのような会社にしたのは誰なのか、官僚と二人三脚で原発(電力)利権をむさぼってきたのは誰なのか、そう考えれば、彼らに菅内閣の対応を批判する資格があるとはとても思えません。

もちろん、菅内閣の対応に問題がないわけではありません。官僚や東電のサボタージュがあったとはいえ、メルトダウンどころかメルトスルーさえも隠ぺいしていたことは、万死に値するといってもいいでしょう。ただ、だからといって、必ずしも次がマシだとは限らないのです。それが今の政治の不幸なのです。

それに、菅内閣は、たとえ思いつきであったにしても、浜岡原発の停止や再生可能エネルギーの推進や発送電分離など、エネルギー政策の見直しを表明しました。それは電力会社やそれに連なる政治家たちにとって、とうてい受け入れがたい政策の転換であろうことは想像に難くありません。いわば、菅内閣は心ならずも虎の尾を踏んだといえないこともないのです。

今回の不信任案騒ぎでの民主党の醜態は目をおおうばかりですが、民主党は事故前までは、「新成長戦略」の一環として、東電や東芝と一体になって原発プロジェクトをベトナムに売り込んでいたのです。そう考えると、仙石由人氏や小沢一郎氏など民主党の”黒幕”が、それぞれ自民党との提携を視野に自民党の実力者と水面下で接触していた理由もわかるような気がします。そして、小沢・反小沢を問わず、先を争って自民党にラブコールを送り、なりふりかまわず「大連立」を呼びかけた事情も納得がいくのです。

折しも関西電力が15%の節電を要請したことに対して、橋本徹大阪府知事が「15%の節電なんてまったく根拠がない」「あれは原発が必要だと言うブラフ(脅し)だ」と批判していましたが、そうやって電力会社による”反撃”が既にはじまっているような気がしないでもありません。それはいうまでもなく、「競争のない地域独占、発送電の垂直統合、すべてのコストを電気料金で吸収することが許される総括原価方式など、電力会社が与えられた民間企業としてはあり得ないような特権の数々」(経済ジャーナリスト・町田徹氏)を守るための”反撃”です。

そして、今回の政争の裏にも、事故対応の時計の針をもとに戻す(戻さなければならない)という思惑があるように思えてならないのです。おそらく次の政権では、「喉元すぎれば熱さも忘れる」ような急速な事故の”収束”がはかられるのではないでしょうか。賠償スキームにしても、菅内閣以上に”東電救済”の方向に大きく後退するのは間違いないでしょう。むしろ、そのために菅退陣を急いでいるように見えないこともないのです。

しかし、最近も土壌や茶葉からセシウムやストロンチウムが検出されたという話がありましたが、政治の思惑がどうであれ、依然として放射性物質のタダ漏れがつづいていて、東日本の放射能汚染がより深刻化しているのはたしかなのです。

こういう政治を選んだのはほかならぬ私たち自身なのですから、自業自得だといわれればそのとおりですが、せめて未来を担う子供たちのためにも、放射能汚染の問題だけはごまかされないようにしなければと思います。別にきれい事をいうわけではありませんが、それがのちの世代に対する責務ではないでしょうか。
2011.06.11 Sat l 震災・原発事故 l top ▲