新潮45(11月号)

大阪では、”大阪都構想”を争点に知事選と市長選のダブル選挙が行われることが決定し、渦中の人である橋下徹知事の動向が再びマスコミの注目を浴びていますが、しかし、みずから「独裁者」をもって任じるこのタレント知事の実像にはいまひとつわからないことがあります。

そんななか、『新潮45』(新潮社)11月号の特集「『最も危険な政治家』橋下徹研究」は、非常に面白く読めました。なかでも、『日本の路地を旅する』の著者・上原善広氏の手による「孤独なポピュリストの原点」は、橋下知事の生い立ちまでさかのぼり、いわゆるハシズムの原点に迫った、興味のそそられる記事でした。記事には、「死亡した実父は暴力団員だったー。これまで一度も書かれなかった『橋下徹の真実』」という副題が付けられていましたが、そこにはテレビや新聞が報じない橋下知事のもうひとつの顔が紹介されていました。

「橋下」がなぜ「ハシシタ」ではなく「ハシモト」なのか。そういう疑問をもった人も多いと思いますが、そこにも人に言えない事情があるのです。

タレント弁護士として年収3億を誇り、ポルシェやハーレーを乗り回していた彼が、つぎに目指した「権力の座」。そこにはあきらかに生い立ちからくるルサンチマンが伏在しているように思います。その意味では、ハジズム=ファシズムというのも、あながち的外れだとは言えないように思います。

一方で、彼の公務員批判に有権者が拍手喝采を送る気持もわからないでもありません。自民党も民主党も共産党も、既成政党がこの役人天国に対してまったくなすすべもない現状のなかで、ネオナチのようなファシスト政党が扇動的な公務員批判をひっさげて登場すれば、行き場のないフラストレーションがたやすくファシズムに動員される危険性を指摘する声は以前からありましたが、それが具体化したのが今の”橋下現象”だと言っていいのかもしれません。”橋下現象”は、単に大阪府民の民度の問題だけではないのです。

アメリカの反格差デモの背景には、中産階級がどんどん没落して、中間層が空洞化しているアメリカの格差社会の現実があると言われていますが、日本とて例外ではないのです。それどころか、日本はアメリカ以上に格差が広がっているという意見さえあるくらいです。ハシズムとは、そういった希望なき閉塞感のなかにある人々のフラストレーションが公務員批判に集約され、さらにそれが橋下徹の個人的なルサンチマンに転化される政治手法のことを言うのではないでしょうか。

橋下は結局、河内の博徒であった父をも越えた「大いなる博徒」なのかもしれない。タレント知事として成功し大金を手に入れた。それを元手にして、河内の博徒であった父も成し得なかった大博打を、彼はここ大阪で打とうとしている。これに勝てば大阪を元手にして、次には一世一代、国を相手の大博打が待っている。彼はきっとそれまで走り続けるつもりなのだろう(略)


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2011.10.24 Mon l 社会・メディア l top ▲