先日、Yahoo!ニュースBUSINESSに、経済学者の吉本佳生氏の「なぜ失敗しそうな事業から撤退できないのか」という記事が紹介されていました。これは、経済誌『プレジデント』に掲載された記事なのですが、吉本氏は、企業が採算の合わない事業からなかなか撤退できないのは、「サンクコストの呪縛」にとらわれ、経済合理性に則った冷静な判断ができないからだと言ってました。
「サンクコストの呪縛」とはどういうことか。吉本氏は、個人の例を出して、つぎのように説明していました。
別にむずかしい話ではなく、私たちにもありがちな心理です。たとえば、身近な例で言えば、赤字であるにもかかわらずショッピングモールから撤退できないネットショップなどもそうでしょう。
ショッピングモールというのは、思った以上に「経費」がかかるそうで、以前、出店している知り合いのショップに、「経費」の明細を見せてもらったことがありますが、こんなにかかるんだとびっくりした覚えがあります。出店料だけかと思ったら、とんでもない、クレジットカードの手数料は無論ですが、それ以外にも売上げに対するロイヤルティや諸々のシステムの利用料など、その何倍もの「経費」が必要なのです。買い物をすると、そのあとメルマガが頻繁に送られてきますが、あれもタダではないのです。それどころか、ショップが顧客データをダウンロードするのにも手数料がかかるそうです。
ネットでは、パチンコと同じで儲かった話しかしないので、”真実”がなかなか表に出てこないのですが、一説では70%のショップは赤字ではないかという話もあるくらいです。出店している知り合いのショップに訊いたら、「当たらずと言えども遠からずだろう」と言ってました。
年間売上げで上位にランクされていた”ベストストア”を、数年後に確認したら、既に3分の2が閉店していたとか、マスコミに「人気のお取り寄せ」と紹介されたショップが、ある日突然姿を消したとか、そんな話は枚挙にいとまがありません。まさにゴールドラッシュで儲けたのは、金を掘った者ではなく、金を掘る道具を売った者なのです。
それでもなかなか撤退に踏み切れない。そこには、今までかけてきた経費が無駄になるのがもったいないとか、せっかく獲得したお客さんを失うのは忍びないとか、モールの集客力が魅力だとか、さまざまな理由があるようです。でも、それこそが「サンクコストの呪縛」と言うべきでしょう。そして、ネットに対する幻想が、「サンクコストの呪縛」をさらに強固なものにしていると言えます。
もっとも、究極の「サンクコストの呪縛」は、やはり原発でしょう。もはや「呪縛」と言うより「犯罪」と言ってもいいかもしれません。もちろん、すべてを経済合理性ではかることはできませんが、原発のように本来経済合理性ではかるべきものがそうなってない現実を、宮台真司氏は「悪い心の習慣」と言っていました。
「サンクコストの呪縛」は、個々の心の問題なのか、あるいは組織のメカニズムの問題なのか。私たちをとりまく現実を考える上で、ひとつのヒントになるように思いました。
「サンクコストの呪縛」とはどういうことか。吉本氏は、個人の例を出して、つぎのように説明していました。
運動不足が気になって、スポーツクラブに入会したとしよう。入会金に5万円を払い、会費は毎月2万円かかる。最初の1、2カ月こそ熱心に通っていたが、仕事が忙しくて足が遠のき早1年。「通わないのならさっさとやめればいいのに」と周りは言うが、本人は退会する気になれない。
なぜか? 「サンクコストの呪縛」にかかっているからである。
サンクコストとは埋没(サンク)した費用、つまり、すでに支払って、今後も回収できない費用を指す経済用語だ。この例でいえば、入会金と1年分の会費を合わせた29万円がサンクコストにあたる。今後、奮起して運動を再開する意欲もないのに、すでに払った29万円にとらわれて、ずるずると会費を支払い続ける。その結果、無駄な出費がますます嵩む。サンクコストの呪縛により、合理的な判断ができないのだ。
(プレジデント 2012/8/6 12:10)
別にむずかしい話ではなく、私たちにもありがちな心理です。たとえば、身近な例で言えば、赤字であるにもかかわらずショッピングモールから撤退できないネットショップなどもそうでしょう。
ショッピングモールというのは、思った以上に「経費」がかかるそうで、以前、出店している知り合いのショップに、「経費」の明細を見せてもらったことがありますが、こんなにかかるんだとびっくりした覚えがあります。出店料だけかと思ったら、とんでもない、クレジットカードの手数料は無論ですが、それ以外にも売上げに対するロイヤルティや諸々のシステムの利用料など、その何倍もの「経費」が必要なのです。買い物をすると、そのあとメルマガが頻繁に送られてきますが、あれもタダではないのです。それどころか、ショップが顧客データをダウンロードするのにも手数料がかかるそうです。
ネットでは、パチンコと同じで儲かった話しかしないので、”真実”がなかなか表に出てこないのですが、一説では70%のショップは赤字ではないかという話もあるくらいです。出店している知り合いのショップに訊いたら、「当たらずと言えども遠からずだろう」と言ってました。
年間売上げで上位にランクされていた”ベストストア”を、数年後に確認したら、既に3分の2が閉店していたとか、マスコミに「人気のお取り寄せ」と紹介されたショップが、ある日突然姿を消したとか、そんな話は枚挙にいとまがありません。まさにゴールドラッシュで儲けたのは、金を掘った者ではなく、金を掘る道具を売った者なのです。
それでもなかなか撤退に踏み切れない。そこには、今までかけてきた経費が無駄になるのがもったいないとか、せっかく獲得したお客さんを失うのは忍びないとか、モールの集客力が魅力だとか、さまざまな理由があるようです。でも、それこそが「サンクコストの呪縛」と言うべきでしょう。そして、ネットに対する幻想が、「サンクコストの呪縛」をさらに強固なものにしていると言えます。
もっとも、究極の「サンクコストの呪縛」は、やはり原発でしょう。もはや「呪縛」と言うより「犯罪」と言ってもいいかもしれません。もちろん、すべてを経済合理性ではかることはできませんが、原発のように本来経済合理性ではかるべきものがそうなってない現実を、宮台真司氏は「悪い心の習慣」と言っていました。
「サンクコストの呪縛」は、個々の心の問題なのか、あるいは組織のメカニズムの問題なのか。私たちをとりまく現実を考える上で、ひとつのヒントになるように思いました。