今日(11/3)の朝日新聞デジタルに、『ウェブはバカと暇人のもの』の著者・中川淳一郎氏の「B級ネタで勝負するしかない〈ネットで文字は売れるか〉」というインタビュー記事が出ていました。

中川氏は、部数減により各新聞が窮余の策として取り組んでいる電子版の有料化について、「大メディアが社運を賭けてまで取り組むものじゃありません」と言い切っていました。素人考えでも、わざわざ月に4千円近くのお金を払って、ネットの有料記事を購読する人がそんなにいるとは思えません。仮に電子書籍が普及しても、新聞にそれだけのお金を払う人はごく少数でしょう。

そもそも新聞を購読していた主要な目的は、世界の動きを知るためでも文化的な教養を身に付けるためでもなかったのです。多くはテレビの番組欄をみるために新聞をとっていたにすぎません。そして、ついでに、他人の不幸は蜜の味でおバカな三面記事を読んでいただけです。

ネットにおいても事情は同じです。梅田望夫氏が言うように、ネットだからといって叡智が集まるわけではないのです。むしろ、現実は逆です。掲示板の書込みや芸能人のブログのコメント欄などをみる限り、中川氏のつぎのような発言は正鵠を射ていると言わざるをえません。

 先月末、元AKB48の前田敦子がツイッターを始めたところ、あっという間に何十万ものフォロワーがつきました。元モーニング娘。の辻希美のブログには、何万人もの読者がついています。

 一方、2008年に朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞が立ち上げた「あらたにす」というサイトは、今年2月末に閉鎖されました。1面の記事や社説を読み比べできるのが売り物でしたが、世の中の人は、社説より女性タレントのつぶやきに関心があるんです。

 なんでそんなものにと思うかも知れませんが、思う方がおかしい。パチンコ屋に朝から並び、おバカタレントの珍回答に大喜びしている日本人がなんと多いことか。各社の社説に関心があるなんて人の方がマイノリティーです。


水は低いほうに流れるのが常です。高いほうに流れる(流れるべきだ)と考えるのは、民主主義の幻想です。仮に自分たちが誘導すれば高いほうに流れると思っているのだとしたら、思い上がりもはなはなだしいと思います。

個人的な経験でも、たとえば東電OL殺人事件の記事に対して、検索エンジンでアクセスしてくるのは、大半は「東電OL 妹」「東電OL 写真」「東電OL セックス」などといったキーワードです。木嶋佳苗被告に関しても似たようなもので、そういったデバガメのような興味しかないのです。それが「善良な市民」「世間の常識」の本音なのです。

中川氏に言わせれば、「電子書籍の隠れたベストセラーはボーイズラブ、いわゆる少年同士の性交を描く小説や漫画」だそうです。朝日新聞に4千円近くのお金を払うくらいならアイドルかエロにお金を使う、そんな人たちが圧倒的多数なのです。

一方、偶然ですが、中川氏が編集長を務めるNEWSポストセブンに、「日本にはNHKと朝日新聞があるのが羨ましい」という記事が掲載されていました。記事では、「日本にはNHKと朝日新聞があるのが羨ましいなあ。いろんな見方をするメディアがある。韓国には『産経新聞』みたいなのが大手新聞だから(笑)」という韓国人ジャーナリストの発言が紹介されていましたが、NHKや朝日をやや買い被りすぎという気がしないでもないものの、韓国の現状を考えるとその気持はわからないでもありません。

しかし、ネットが普及して、新聞のヘッドラインがタダで読め、テレビの番組もネットで確認することができるようになったら、新聞にお金を出さなくなるのは当たり前です。今の新聞は、ネットに乗り遅れた団塊の世代に支えられているというのはたしかでしょう。世の人々が電子版でも新聞を必要としていると考えること自体、あまりにもわが身を知らなすぎます。

もっとも朝日新聞にしても、貧すれば鈍すなのか、最近、やたら北野武を持ち上げて新作映画の宣伝にひと役かっていますので、「B級ネタで勝負する」才覚は充分あるように思います。クオリティペーパーなる矜持を捨てて、産経のような”B級(B層?)新聞”に徹すればまだ生き延びる可能性は残っているかもしれません。
2012.11.03 Sat l 社会・メディア l top ▲