多少痰と咳が残っていますが、インフルエンザもなんとか乗り越えたみたいで、昨日から外出しています。病院に行ったあと熱も出ることもなく、至って平穏にすごすことができました。やはりクスリの効果は絶大です。

医療費抑制のキャンペーンなのか、最近、安易に医者にかかるのを非難するような風潮がありますが、しかし、私のまわりをみる限り、むしろ「医者に行かない人たち」のほうが多いのです。なかでも感染症の疑いがある場合、「医者に行ってもしょうがない」なんて強がりを言う人間は、正直言ってハタ迷惑です。

無知蒙昧はときに自分で自分の首を絞めることにもなりかねません。以前、肝臓の病気で入院していた知り合いがいましたが、彼は「医者の言うことなんかいい加減だ」「自分の身体のことは自分がいちばん知っている」という思考パターンの人間で、当然、入院生活もきわめて不真面目でした。そして、結局亡くなったのですが、私の目には自殺したようにしか見えませんでした。別に病気に限りませんが、「いくら言ってもわからない人にはわからない」のです。

既に人工透析もはじまっている糖尿病の患者の病室で、「いつもお世話になっています」と言って饅頭を配って歩いた患者の家族がいたそうです。たまたまそれを目にした看護師は、「殺す気か!」と思ったそうですが、身内の病気に対して、ここまで無知蒙昧になれるのかと思います。でも、実際にある話なのです。

ただ、これはおっさんやおばさんに限った話ではありません。医者の言うことなんかいい加減だ、マスコミが言うことなんかウソばっかりだ、サラリーマンになっても仕方ない、恋なんかしても仕方ない、デモをしても仕方ない、本を読んでも仕方ない・・・。その先にあるのは、「ネットがすべて」のアマチュア信仰であり反知性主義であり陰謀史観的なものの考え方でありオレ様主義でありカルト的セカイです。そういった夜郎自大な言説は、ネットの掲示板やSNSなどに溢れています。「類は友を呼ぶ」ネットがそんな無知蒙昧な自分を合理化するツールになっているような気さえします。

今、私たちの目の前にあるのは、「ネットに叡智が集まる」「集合知の世界がやがてリアル社会も変えていく」と予言した『ウェブ進化論』とは、逆の世界のように思えてなりません。「恐ろしいまでに右傾的な内閣」と英エコノミスト誌が評した安部内閣の誕生に伴って”扇動政治”が復活し、さっそく扇動的な政治的キャンペーンがはじまっていますが、それにいちばん乗せられているのは、「ぼくたちのユキリン」のようなネットの若者たちです。

未だ放射性物質のタダ漏れ状態がつづいている原発事故による放射能汚染の問題を棚に上げて、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い式に中国の大気汚染の影響に大騒ぎをする(しかも、中国の大気汚染の問題は今にはじまったことではないのです。それがどうして急に取りださされるようになったのか不思議です)、その”からくり”に疑問を抱くこともないのです。まるで「尖閣」の前には、TPPも原発も消費税増税も公務員問題もすべてチャラになったかのようです。これじゃ病室で饅頭を配るおばさんを誰も笑えないでしょう。
2013.02.08 Fri l 社会・メディア l top ▲