アベノミクスについて素人なりに考えてみました。

安倍政権は、「強い日本を取り戻す」ための「成長戦略」として、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資の促進の「3本の矢」を基本政策として掲げています。具体的には、2%の物価目標(インフレターゲット)によるデフレ脱却。そのための日銀法改正や円安での輸出増。「国土強靭化計画」による大型の公共事業。規制緩和やTPPなど経済連携協定による成長分野への投資の促進などです。

これでホントに景気がよくなるの? この疑問に、池田信夫氏がブログで簡潔にわかりやすく答えていました(アベノミクスについてのFAQ)。

池田氏と言えば、原発容認派で典型的なネオリベですが、その池田氏と正反対の反原発・反グローバリズムを掲げる緑の党も、別の視点からやはりアベノミクスを批判していました(【論説】アベノミクスは人びとの生活を破壊する)。

一方、新聞やテレビは、円安・株高を歓迎する声を背景にアベノミクス礼讃一色です。同じ保守派の小林よしのり氏でさえ懸念するくらい、今や安部政権を批判することがタブーになったかのようです。これでは今夏の参院選でも自民党の勝利(失地回復)は約束されたも同然です。そして、その先にあるのは、言うまでもなく96条の改正要件の緩和を突破口にした憲法改正でしょう。安部首相が「千載一遇のチャンス」と浮足立つのもわからないでもありません。

でも、どう考えても(私たちのような素人が考えても)、このアベノミクスなるものは、ただ単に古い自民党政治の復活のようにしか思えません。アベノミクスによって再び土建国家が復活すると書いていた経済誌がありましたが、それが真相のように思えてならないのです。

今の株高も、円安や大胆な金融緩和に対する期待感から上がっているだけですが、またぞろ不動産会社やゼネコンの”悪貨”がバッコする世の中になるのかと思うと、なんだかバブルの頃の悪夢がよみがえってくるようです。その”悪貨”の中身は、市中の資金供給量を今後2年間で2倍にするという異次元の金融緩和=日銀券の増刷と、自民党が今後10年間で公共事業に200兆円投入すると豪語する私たちの税金なのです。

消費税増税が決まった途端にこのあり様で、昨日まで飛び交っていた「財政再建」の声はどこに行ったのかと言いたくなります。しかも、聞こえてくるのは公共事業の大盤振る舞いの声だけで、消費税増税とセットになっていたはずの社会保障改革もどこかに行ってしまった感じです。

為替の問題にしても、日本経済が弱くなったのは、円高のせいではなく、日本企業の国際競争力が低下したことが原因だという指摘のほうがむしろ頷けます。それに、先日も、世界貿易機関(WTO)の審査会合では中国と韓国が、G20の前にはドイツが、日本政府の円安誘導に対して懸念を表明したというニュースがありましたが、円安に対する国際的な圧力は今後益々大きくなるでしょう。

アメリカが超大国の座から転落して、世界が多極化するのは間違いないのです。そして、東アジアに中国を中心とする新しい秩序が生まれるのも間違いないのです。そんななかで、中韓と対立して孤立を深める日本経済の不安要素は増すこそすれ減ることはないのです。

政治的にも、安倍首相らが主張する古色蒼然とした(単に安倍首相個人のグランドファザーコンプレックスの産物でしかないような)憲法観のもとで、これからの”アジアの時代”をまともにかじ取りできるのかという不安もあります。先の北朝鮮の核実験に対しても、アメリカはただ中国になんとかしろと言うだけで、実質的にはまったく無力でした。そもそも六カ国協議にしても、既にアメリカは中国に丸投げしており、中国が完全に主導権を握っているのです。このように東アジアでは、日本国内の見方(嫌中の希望的観測)とは逆に、政治的にも経済的にも中国の存在感は増すばかりなのです。

もちろん、私たち国民にとってもアベノミクスが「毒薬」になる可能性は充分あります。スタグフレーション(インフレ下の不況)・財政破綻・重税・格差の拡大という負の側面です。

百歩譲って、安倍首相が言うように企業の業績が好転したとしても、それが私たちの懐を潤すと考えるのはあまりに単純すぎます。儲った分は、まず内部留保にまわすでしょうし、あらたな投資に使うでしょう。仮に人件費にまわすにしても、給与10万円の非正規雇用の社員が給与25万円の正社員に登用されるなんてありえないでしょう。それより、給与10万円の非正規雇用の社員を2人雇ったほうが、資本として効率がいいのは当然です。

逆にインフレによって実質賃金は目減りするので、非正規雇用の社員たちは窮乏化するだけです。しかも、(アベノミクスとは直接関係はありませんが)4月から施行される改正労働契約法の「5年ルール」で、5年以内の雇い止めが常態化するでしょうから、非正規雇用の社員たちは短期間(5年以内)で転職をくり返すことを余儀なくされ、益々生活が不安定になるでしょう。

イギリスの経済誌「エコノミスト」が安倍内閣を「恐ろしいまでに右傾的な内閣」」と評したことは前も書きましたが、もしかしたらその「恐ろしさ」にいちばん気付いてないのは、私たち日本の国民なのかもしれません。ナショナリズムを煽りながら、一方で対米従属的な政策を推し進めるのが自民党の常套手段ですが、安倍政権とて例外ではありません。それをただアベノミクスと呼んでいるだけです。

テレビに出てくるエコノミストたちもみんな口をそろえてアベノミクスを礼讃していますが、それもなんだかバブルの頃にみた光景と似てなくもありません。あのときも彼らはただバブルを煽るだけでした。テレビ東京の経済ニュースなどに出ている、証券会社の「ステラジスト」や「チーフエコノミスト」たちは、どう見てもヘッジファンドの代弁者でしかありませんが、彼らの”香具師の口上”を記録して、「毒薬」が現実のものとなったときにどう弁解するのか、あとで確認するのも一興かもしれません。

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2013.02.21 Thu l 社会・メディア l top ▲