
今回はちょっと異質な本を。
先日、2012年度(第44回)の大宅壮一ノンフィクション賞に、船橋洋一氏の『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋)が決定しましたが、私は、それを聞いたとき、「なんで?」と思いました。今回はどう見ても、世評も高かった安田浩一氏の『ネットと愛国ー在特会の「闇」を追いかけて』(講談社)で決まりだろうと思っていたからです。猪瀬直樹(東京都知事)ら選考委員の顔ぶれや勧進元が文春であることを考えると、安田作品の受賞はないものねだりだったのかもしれませんが、同じように今回の選考に失望した読者も多いのではないでしょうか。
『大阪府警暴力団担当刑事ー「祝井十吾」の事件簿 』(講談社)は、『なぜ院長は「逃亡犯」にされたのかー見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間』(講談社)で、やはり大宅賞の候補にあがっていた森功氏の最新刊です。
これは、タイトルどおり大阪府警のマル暴担当刑事たちに取材したノンフィクションですが、本のなかで指摘されているのは、芸能界・ボクシング・銀行等と闇社会との深い関係です。
本の冒頭は、例の島田紳助の引退会見からはじまります。「正直に話します」と言った紳助の会見を見た大阪府警のマル暴刑事は、こう吐き捨てたそうです。「紳助、よう言うわ。認めるんなら、もっと正直に話さんかい」と。
吉本興業は、そんな紳助のカンバックを画策していると言われます。しかし、当の吉本と闇社会との関係も、この本ではかなりのスペースを割いてあきらかにされているのでした。
もっとも、関西の人たちにとっては、こういった話は半ば常識で、別に驚くに値しないのかもしれません。中島知子の件でもそうですが、芸能界のご意見番よろしく偉そうにコメントを述べる和田アキ子を見て、大阪府警の刑事と同じように、「よう言うわ」と思っている大阪府民も多いのではないでしょうか。だからこそ、「だったら、どうして橋下なのか?」と言いたくなるのです。
この本のなかでも橋下徹氏の名前がチラッと出てきますが、Twitterの発言に見られるような橋本氏のガラの悪さにも、魑魅魍魎がバッコする維新の会のいかがわしさにも、やはり”大阪的風土”が反映されているように思えてなりません。かつてアイフルの子会社・シティズの顧問弁護士をしていた橋下氏には、大阪をサラ金特区にするというトンデモ話がありましたが、この本を読み進むうちに、あの”大阪都構想”さえもトンデモ話のように思えてくるのでした。