橋下徹氏の「慰安婦制度が必要なのは誰だって分かる」発言には、共産党の書記局長ならずとも戦慄を覚えました。

さらに今月初めに沖縄県の米軍普天間飛行場を訪問した際には、同飛行場の司令官に、「もっと風俗業を活用してほしい」と進言した、と橋下氏みずからが明らかにしたのでした。しかし、「司令官は凍り付いたように苦笑いになって『禁止している』と言った。『行くなと通達を出しているし、これ以上この話はやめよう』と打ち切られた」(朝日新聞デジタルの記事より)そうです。

この話を聞いて、敗戦直後に”性の防波堤”として旧内務省が作った、「特殊慰安施設協会」のことを想起した人もいたかもしれません。高見順は、『敗戦日記』(中公文庫)のなかで、この「特殊慰安施設」について、つぎのように書いています。

世界に一体こういう例があるのだろうか。占領軍のために被占領地の人間が自らいちはやく婦女子を集めて淫売屋を作るというような例が―。
(略)
戦争は終った。しかしやはり「愛国」の名の下に、婦女子を駆り立てて進駐軍御用の淫売婦にしたてている。無垢の処女をだまして戦線へ連れ出し、淫売を強いたその残虐が、今日、形を変えて特殊慰安云々となっている。


日本政府は占領軍のために、自国の婦女子を「淫売婦」に仕立てて提供したのです。しかも、「特殊慰安施設協会」なる名称からわかるように、そこには戦争中の従軍慰安婦のノウハウが生かされていたのです。

橋下氏の発想は、当時の内務官僚のそれとまったく同じです。まさに「愛国」と「売国」が逆さまになった戦後という時代の背理を象徴する発言だと言えるでしょう。東浩紀は、橋下発言は問題発言なのか?、と宣い、橋下発言を擁護したのですが、二人に共通するのは、文字通りネトウヨレベルのお粗末でゆがんだ認識です。

アメリカ議会調査局は、今月初め、「安倍晋三首相やその内閣の歴史問題に関する発言や行動は、地域の国際関係を混乱させ、米国の国益を損なう懸念がある」という報告書をまとめ、そのなかで、「安倍首相は日本の侵略を否定する歴史修正主義的な歴史観をもっている」と指摘したそうですが、橋下氏の発言も、こういった一連の歴史修正主義的な流れのなかから出てきたのは間違いないでしょう。その意味では、今回の発言は不用意な発言などではなく、確認犯的な発言と言ってもいいのではないでしょうか。

橋下氏には、ものの考え方以前に、人としてあるべき根本のものが欠けているように思えてなりません。『週刊朝日』問題の際、落解放同盟の組坂繁之委員長は、「Business Journal」のインタビューで、橋下氏のことを「ある意味では、『部落の鬼っ子』みたいな感じでしょう」と言ってましたが、橋下氏は、子どもの頃、自分たち家族に向けられる世間の目に対して、小さな胸を痛めたことはなかったのか。いや、なかったはずはないのです。橋下氏は、「大変な困窮家庭」(上原善弘氏)で育ったと言われます。だから、それをバネに努力してのし上がってきたのでしょう。にもかかわらず、こうして弱者に対して配慮のカケラもないような発言を平然とするというのは、『どん底』の高山文彦氏ではないですが、なんだか人間のおぞましささえ覚えてなりません。

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2013.05.14 Tue l 社会・メディア l top ▲