以前、このブログで、個人的に旬なのは光文社新書だと書きましたが、さすがに最近は息切れしたみたいです。今はちくま新書(筑摩書房)のほうがノッている気がします。

昨日、ちくま新書を何冊かまとめて買ったのですが、そのなかでまず久田将義著『関東連合ー六本木アウトローの正体』を読み終えました。

久田将義氏は、『ダークサイドジャパン』や『実話ナックルズ』の編集長を務めた裏社会の事情に精通している人ですので、期待して読みましたが、正直言って期待外れでした。アウトローの「生態」や「闘争史」と言うには、ちょっともの足りない気がしました。

明大中野高校出身の著者にとって、チーマーが身近な存在だったという個人的な体験もあってか、話の流れにまとまりがなく散漫で読みづらいところがあります。また、裏社会の特殊な事情もあるのでしょうが、文中気を使って遠慮している表現がやたら目に付きます。それも読みづらい一因になっているように思いました。

関東連合と言えば、押尾学や酒井法子や朝青龍の事件の際にもあれこれ取りざたされましたが、しかし、なんと言ってもその存在が人口に膾炙されるようになったのは、市川海老蔵の事件からでしょう。そして、昨年の9月に発生した六本木フラワー事件。あの事件をきっかけに、警察は関東連合と怒羅権(ドラゴン・江戸川区葛西を拠点とする中国残留孤児二世たちの暴走族)を「半グレ(準暴力団)」と規定し、暴力団並みの取り締まりの対象にしたのでした。それ以来、ネットを中心に、なんでも関東連合と関係があるかのように書く”関東連合ネタ”も蔓延するようになるのでした。

著者は、関東連合について、「東京の、しかも東京都内でも六本木・西麻布・渋谷・歌舞伎町という、東洋でも有数の繁華街においてのみ成立する集団」と書いていましたが、たしかに東京を代表する繁華街で活動しているからこそ、”関東連合ネタ”のように、関東連合に対する幻想が肥大化していったという側面はあるように思います。

また、関東連合と芸能界の関係によって、”関東連合ネタ”がさらにひとり歩きするようになったのも事実でしょう。世田谷や杉並の若者たちを中心とする暴走族の集まりであった関東連合は、やがて詐欺や芸能関連のシノギに乗り出してより”アウトロー化”して行くのですが、それも六本木や西麻布や渋谷などの繁華街を活動の拠点にしていたことと無縁ではないでしょう。

ただ、それよりも私が注目したのは、関東連合など「半グレ」の中心人物たちの多くが、いわゆる団塊ジュニアで、しかも東京の山の手の中流家庭の子どもたちであるという点です。関東連合と関係があるネット関係者がインタビューで答えていたつぎのような発言には、”もうひとつの世代論”として考えさせられるものがありました。

「親の団塊世代は無責任に子供を冷酷な競争社会に追い込んでおいて、自分たちはバブル景気に浮かれて醜い乱痴気騒ぎを繰り返しました。ところが団塊ジュニア世代が世に出た時期には、すでにバブルが弾け、今に続く長い不況が到来しました。その状況で団塊世代らは自分たちの既得権益を守ることに執着し、下の世代のチャンスを摘んで回り、その結果団塊ジュニア世代の多くは『食うためにモラルを捨てる』しか選択肢がなくなったのでしょう」


「IT詐欺・出会い系・オレオレ詐欺(振り込め詐欺、現在は架空請求と呼ばれることが多い)など、関東連合のシノギとされているグレー(及びブラック)なシノギを批判するのは結構だが、生きるためにそんな物を選ばざるを得なかった世代がいるという現実から目を逸らすなと言いたい。関東連合を育てたのは誰か、また関東連合の勢力を弱めるにはどうすればいいか、少しは冷静に考えてみてはどうでしょう?」


ヘイトスピーチが生まれたのは、その背後に彼らを煽っていた右派の政治家や文化人の存在があったからです。しかし、彼らは今になって梯子を外して知らんぷりをしているのです。それと同じように、関東連合を考える上でも、親の世代である団塊の世代の生き方やバブル崩壊後の時代背景を無視することはできないように思います。

極端な言い方をすれば、普通の家庭では子どもを芸能人にしようとは思わないでしょう。もともと芸能界に入る若者たちは「半グレ」に近いところから出ている場合が多いので、芸能界と闇社会が関係があるのはある意味で当然なのです。そんなデバガメ的な”関東連合ネタ”なんかより、関東連合が生まれた世代や時代の背景を考えるほうが余程意味があるように思いますが、残念ながら本書にそういった視点(掘り下げ)はないのでした。

>> 魔性

※この記事は、WEBRONZA(朝日新聞)に「関連情報」として紹介されました。
2013.10.23 Wed l 本・文芸 l top ▲