内外の批判にもかかわらず、今週末の会期末に強行採決する方針に変わりはないと言われている特定秘密保護法案ですが、新聞報道によれば、昨日、国際連合人権高等弁務官事務所のトップ・ナバネセム・ピレイ人権高等弁務官がジュネーブで記者会見して、特定秘密保護法案について、「何が秘密を構成するのかなど、いくつかの懸念が十分明確になっていない」と指摘、「国内外で懸念があるなかで、成立を急ぐべきではない」と政府や国会に慎重な審議を促したそうです。

国連の人権保護機関のトップが懸念するほど、特定秘密保護法が基本的人権を侵害するとんでもない法律であるというきびしい見方が世界からされているのは事実のようです。

併せて、日本弁護士連合会・秘密保全法制対策本部長代行の江藤洋一氏は、今日の参議院国家安全保障特別委員会の参考人質疑で、自民党の石破茂幹事長が法案に反対する市民のデモをテロに例えたことについて、「この法律が言論弾圧、政治弾圧に利用される可能性を示唆している」と批判したという報道もありました。

特定秘密保護法案に対しては、日本弁護士連合会・日本新聞協会・民放連(民間放送連盟)・日本外国特派員協会・日本出版者協議会・日本雑誌協会・日本書籍出版協会・アムネスティ・インターナショナル日本・歴史学研究会・全国保険医団体連合会のほかに、浄土真宗大谷派(東本願寺)やカトリック正義と平和協議会(日本カトリック司教協議会)や日本キリスト教協議会など、仏教やキリスト教の団体も宗教宗派を越えて反対表明しています。

そんな特定秘密保護法案をめぐる動きのなかで、私は、ネットの反応の鈍さが気になって仕方ありません。多くの人たちが指摘するように、この法律がネットにも深刻な影響をもたらすのは間違いないでしょう。ヘタすれば警察の捜査の手が伸びることだってあるでしょう。現にアメリカでは、「愛国法」による摘発を怖れて相当数のブログが閉鎖されたそうです。

にもかかわらず、ネットサービスを手掛ける企業はどこも沈黙したままです。再生可能エネルギーや薬のネット販売では、あれほど熱心にロビー活動をしていたヤフージャパンや楽天も、特定秘密保護法に関しては”我関せず”の姿勢に終始しています。

ヤフーニュースなどポータルサイトで配信されるニュースは、産経新聞や読売新聞の記事が多く、それらの扇動的な偏った記事がヘイトなナショナリズムを生み出す一因になっているように思いますが、特定秘密保護法に対するネット企業の沈黙も、そんな”大人の事情”と関係があるのではないかと勘繰りたくなります。

たしかに、ヤフーニュースを見ても、ジャーナリズムの見識というのがまるで感じられません。そこにあるのはニュースの価値をアクセス数で換算するお金の論理だけです。編集に携わっているのは元新聞記者などが多いそうですが、彼らにはジャーナリストとしての見識や誇りはないのかと思ってしまいます。

ヤフーニュースがネットユーザーに大きな影響力を与えているのは事実で、ネットユーザーのなかにはヤフーニュースが世の中のすべてと思っているような情弱な人たちも少なからずいます。今やヤフーニュースなどは、そういった公共的な役割を担っている部分もあるように思います。

しかし、当人たちにその自覚はないようです。彼らも所詮、ネットの守銭奴(の使い走り)にすぎないということなのでしょうか。

追記
ネットには直接関係ありませんが、折しも今日、映画監督や映画評論家、俳優、映画館主などが「特定秘密保護法案に反対する映画人の会」を発足させ、「法案の内容や拙速な国会審議を批判する声明」を発表したという報道がありました。会には4日間で264人が賛同し、そのなかには、大林宣彦監督、宮崎駿監督、是枝裕和監督、井筒和幸監督、俳優の吉永小百合さん、大竹しのぶさん、脚本家の山田太一氏、ジェームス三木氏などが名を連ねているそうです。(秘密保護法案、映画人ら269人反対 吉永小百合さんも 朝日新聞デジタル)

ほかには、大貫妙子、鴻上尚史、後藤正文(アジカン)、坂本龍一、高橋幸宏、ピーター・バラカン、堀潤(元NHK)、巻上公一、村上龍などが発起人代表に名を連ねる「表現人の会」や「医師と歯科医師の会」や「学者の会」など各界各層のさまざまな人たちが反対の意思表明をしています。

でも、ネットのセカンドメディアは、中国や韓国の「反日」ニュースはどんなささいなことでも毎日伝えるけど、これらのニュースはほとんど伝えていません。
2013.12.03 Tue l ネット l top ▲