炭水化物が人類を滅ぼす


今度は糖質制限ダイエットです。人にすすめられて、練馬光が丘病院の夏井睦ドクターの『炭水化物が人類を滅ぼす』(光文社新書)という本を読み、自分も糖質制限ダイエットを実践してみようと思ったのでした。

はじめるにあたって、この本とともに、夏井ドクターも影響を受けたと言う京都高雄病院の江部康二ドクターのブログ(「ドクター江部の糖尿病徒然日記」)や高雄病院のサイトも参考にしました。本やサイトでは、糖質制限食のレベルを「スーパー」「スタンダード」「プチ」の3段階に分けているのですが、私の場合、幸いなことに血糖値やヘモグロビンA1cは問題がないので、ダイエットを目的とする「スタンダード」を実践することにしました。

糖質制限ダイエットというのは、要するに、白米やパンや麺類、お菓子や根菜類など、糖質の高いものを食べないということです。もっとわかりやすく言えば、主食をぬくということです。糖質の高い食べ物を避ければ、あとは肉でも魚でもなんでも食べていいのです。ダイエットにつきもののカロリー計算をする必要もないのです。

私は、このカロリー計算をしなくていいというのが信じられず、糖質制限ダイエットに対して最初は半信半疑でした。ところが、やってみると驚くほど効果はてきめんでした。(こういう言い方は誤解を招くかもしれませんが)ダイエットをはじめて1週間で、なんと3キロ痩せたのです。この間、白米はコンビニのおにぎりを1日に1~2個程度に抑えて、あとはもっぱら肉と魚と野菜(サラダ)ばかり食べました。私は前にも書いたことがありますが、大分県出身ということもあって、鶏のから揚げが大好物なのですが、それこそ鶏のから揚げも心おきなく食べました。それでも1週間で3キロ痩せたのでした。もちろん、いっきに3キロ落ちたあとは、落ち方が鈍化していますが。

「『摂取カロリーが多いから太る』という栄養学の基本中の基本からすれば、糖質制限をしてもカロリー制限をしなければ太るはず」です。どうして糖質制限をするだけで痩せるのか、誰もが抱く疑問でしょう。どうしてかと言えば、通常エネルギー源を担っているのは糖質ですが、糖質を制限すると、「糖新生」といって脂肪から糖が作られそれをエネルギー源にすることになるため、必然的に体内の代謝率が高くなるからだそうです。要するに、糖質がやっていたことを脂肪が代わりにやってくれるからです。

一方、夏井ドクターは、糖質制限の実践をとおして、栄養学の前提である「カロリー」という概念そのものに疑問を呈するのでした。以下は、夏井ドクターがあげた疑問点です。

◇体温は最高でも、せいぜい40℃であり、この温度では、脂肪も炭水化物も「燃焼」しない。つまり、人体内部で食物が「燃えて」いるわけがない。
◇そもそも、細胞内の代謝と大気中の燃焼はまったく別の現象である。
◇各栄養素ごとの物理的燃焼熱は、小数点1~2桁の精度で求められているのに、エネルギー換算係数を掛けて得られた熱量はどれも「キリのいい整数」であり、数学的に考えると極めて不自然で恣意的だ。あえていえばうさんくさい。
◇動物界を見渡すと、食物に含まれるカロリー数以上のエネルギーを食物から得ている動物が多数いる。


夏井ドクターによれば、厚生労働省と農林水産省が公表している「食事バランスガイド」、あの私たちの食生活の基準になっている「3食きちっとバランスのとれた食事をしましょう」という「ガイド」にしても、あきらかに糖質過多だそうです。角砂糖に換算すれば、1日に角砂糖38個を食べなさいと言っているようなものだと。そもそも「ガイド」は科学ですらなく、国立健康・栄養研究所が日本人の食習慣を調査したものをベースに、平均値を算出しただけの「単なるアンケート結果」にすぎないと言ってました。

夏井ドクターは、「17世紀以前の人類の圧倒的多数は、砂糖とはほぼ、無縁の生活を送っていた」と書いていました。「人類と糖質との付き合いは、穀物栽培から始まった」のですが、人類が最初に炭水化物と出会ったのは、森のドングリだったそうです。その「甘さ」に魅了された人間は、やがてコムギの栽培を始め、より安定的に収穫するために灌漑農法をあみ出し、それが他の地域に伝えられて、ほかの穀物の栽培に応用されたのだと言います。米もそのひとつです。灌漑農法によって、「甘味」を求めるあらたな食物史がはじまったのでした。

大和を「豊葦原瑞穂の国」と呼んだように、とりわけ日本人にとって稲作は特別なものでした。稲(米)を敬い感謝する祭事は、新嘗祭など皇室の伝統的な行事のなかにも残っているほどで、そうやって稲作を神格化することで穀物の収穫を祈願したのです。それはキリスト教におけるパンも同様です。

しかし、夏井ドクターは、「その神は偽りの神だった」と言います。

(略)穀物という神は、確かに一万年前の人類を飢えから救い、腹を満たしてくれた。その意味ではまさに神そのものだった。
 しかし、それは現代社会に、肥満と糖尿病、睡眠障害と抑うつ、アルツハイマー病、歯周病、アトピー性皮膚炎を含むさまざまな皮膚疾患などをもたらした。
 現代人が悩む多くのものは、大量の穀物と砂糖の摂取が原因だったのだ。人類が神だと思って招き入れたのは、じつは悪魔だったのだ。


常識を疑えということばがありますが、『炭水化物が人類を滅ぼす』は、ダイエットだけにとどまらず、従来の栄養学の常識を打ち破る大胆な試みの書と言えるでしょう。
2014.04.28 Mon l 健康・ダイエット l top ▲