いわゆる「美味しんぼ」問題に関して、ネットでもっとも的確にこの問題の本質を衝いていたのは、きっこのブログだったように思います。

きっこのブログ:
「美味しんぼ」の問題に関する個人的見解

『ビッグコミックスピリッツ』に連載中の「美味しんぼ・福島の真実編」で、福島第一原発を訪問 した主人公が鼻血を出す場面が描かれていたことや、実名で登場した双葉町の井戸川克隆前町長の「私も鼻血が出ます」「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」「今の福島に住んではいけないと言いたい」という発言や、同じく実名で登場した福島大の荒木田岳准教授の「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんて、できないと思います」という発言が波紋を広げていると言うのです。地元の福島県や双葉町などは、「風評被害を増長させる」として、発行元の小学館に抗議したそうです。また、菅官房長官はじめ石原環境大臣・根本復興大臣・森消費者担当大臣など閣僚からも、同様に批判が相次いでいるそうです。

それに対して、井戸川前町長は、「『実際、鼻血が出る人の話を多く聞いている。私自身、毎日鼻血が出て、特に朝がひどい。発言の撤回はありえない』と反論して、自分が鼻血を出している写真まで公開」しているのだとか。

一方、「美味しんぼ」の作者の雁屋哲氏は、みずからのブログ「雁屋哲の今日もまた」で、「自分が福島を2年かけて取材をして、しっかりとすくい取った真実をありのままに書くことがどうして批判されなければならないのか分からない。」と逆に反発していました。「真実には目をつぶり、誰かさんたちに都合の良い嘘を書けというのだろうか。『福島は安全』『福島は大丈夫』『福島の復興は前進している』などと書けばみんな喜んだのかも知れない。今度の『美味しんぼ』の副題は『福島の真実』である。私は真実しか書けない。」と書いていました。

井戸川前町長が言うように、福島の住民に「鼻血が出た」ことは事実なのです。現地で治療に当たった医療関係者たちも証言しています。それどころか、きっこがブログで書いているように、当時、自民党の熊谷大参院議員(宮城県選挙区)や山谷えり子参院議員、そして当の森まさこ参院議員(福島県選挙区)なども、多くの住民が鼻血を出している事例をあげて、「直ちに健康に影響はない」と言っていた当時の民主党政権を国会で追求し批判しているのです。山谷氏や森氏に至っては、井戸川町長(当時)の鼻血の件をとり上げて質問さえしているのです。

政権が変われば言うことが180度変わる。これほどのご都合主義、二枚舌があるでしょうか。原発の問題に対して、政治家が如何にいい加減かということをよく表しているのではないでしょうか。

低線量被爆が人体にあたえる影響については、まだ解明されてないことが多いのは事実ですが、しかし、石原環境大臣が言う鼻血と被爆の因果関係を否定する専門家の「評価」なるものはデマゴギーの疑いが濃いのです。被爆と鼻血の関係については、チェルノブイリの事故の際も多くの事例が報告されているのです。それになにより福島県が実施した県民健康管理調査に、健康被害を出来るだけ小さく見せるため、多くの不正と改竄がおこなわれていたことが毎日新聞のスクープであきらかになっています(詳しくは、岩波新書『福島原発事故 県民健康管理調査の闇 』参照) 。既に福島県の子どもの甲状腺ガンの発生率は、異常に高い(通常の50倍以上)という調査結果が出ていますが、チェルノブイリの例では、甲状腺ガンの発生率が高くなるのはこれから(事故後4~5年)なのです。そう考えれば、「美味しんぼ」は、低線量被爆についての問題提起をおこなったとも言えるのです。

私は、今回の問題を見るにつけ、生活保護の”不正受給”問題がマスコミを賑わせた際、片山さつき参院議員が河本準一を名指しで批判したことが思い出されてなりませんでした。民主主義社会にあって、権力をもつ政治家が、民間人を名指しで批判するなどあってはならないことです。まして表現活動を名指しで批判するのは、自由な表現・言論への介入以外のなにものでもありません。

「風評被害」だなんだと言う前に、未だに13万人の人たちが避難生活を強いられている現実の重さを考えるべきでしょう。13万人の人たちは、「風評被害」以前の状態に置かれたままなのです。ただ水で洗い流し土を入れ替えるだけの除染なんて、素人目にも子どもだましのようにしか見えません。荒木田岳准教授が言うように、「人が住めるようにするなんて、できない」のがホントなのではないか。汚染水を海に放出しつづけている海洋汚染の問題にしても然りでしょう。

政治家やマスコミは、事故前は「安全だ」と言い、事故直後は「ただちに健康に影響はない」と言い、今は「科学的根拠はない(たいしたことではない)」と言っていますが、放射能汚染や被爆の問題は、そんなに簡単でたいしたことではない問題なのかという疑問があります。なんだか従軍慰安婦や南京大虐殺が、実はたいした問題ではなく韓国や中国が大騒ぎしているだけだという話と似ているような気がしないでもありません。

山岡俊介氏のアクセスジャーナルに、「安倍首相がTV界から批判的人物を追放!?」という記事が出ていましたが、NHKの人事に象徴されるように、この「美味しんぼ」問題も(「美味しんぼ」が原発問題とは別に安倍政権を痛烈に批判していたことを考えれば)、安倍政権による”言論封殺”という側面もあるように思えてならないのです。マスコミのなかで、この問題にいちばん最初に火を点けたのはどこなのか、それを調べてみるのも無駄ではないかもしれません。
2014.05.15 Thu l 社会・メディア l top ▲